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希望光をさがして  作者: 須雄田 脩二
19/45

19.異国の食事と出会い

ヘムリット洞窟道の出口を抜けると、ムシャール側と同じように、森を切り開いた様な道が広がっていた。

向こう側と違う点は、木の種類が広葉樹から針葉樹に変わっている事だ。

「わっ、すっかり風景が変わりましたね。それにちょっと寒く感じます。」

ティードは一度ブルっと身震いする。

「それだけここが高い所にあるって事だ。陽が落ちるまでまだ時間がありそうだし、今のうちに休める場所を確保するぞ。」

しばらく歩くと、道の途中で何人かが休めそうな小屋を発見した。

小屋は煉瓦の壁になっていて、外から見ても中は暖かそうに見える。

「ここが休めそうな場所と言っていた所ですね。」

「そうだ。何度か利用した事があって、暖を取るには十分な場所だ。」

「先約がいなければ良いですね。」

ウェルは小屋のドア前に立ち、少し強くノックをした。古めな木製のドアは壊れそうな音を立てて響いた。

「……。」

しばらく耳を澄まして様子を窺ったが、中から物音が全く聞こえなかった。

「もしかしたら警戒されているかもしれない。ティード、すぐに対応できるようにしておけよ。」

「わかりました。」

ウェルはドアノブを捻りドアをそっと開ける。顔だけ覗かせてさっと中を見渡すが、人の気配はなかった。

「特に隠れられる場所はなさそうだし、本当に誰もいないようだ。」

「ようやく足を休ませる事が出来ますね。」

二人は小屋の中に入る。中には木製の四角い机と、それに合わせた椅子が二つあった。

また、最後にいつ使用されたのか分からない暖炉がある。中には少し墨が残っていた。

「寒いな、さすがにここで住もうと思う奴はいないよな。」

外にあった薪を暖炉に入れ、ティードの魔法で火を起こした。

「こういう時は非常に便利だな。」

「精霊達の気分を損ねる事もありますので、多用は厳しいですよ。」

ウェルは部屋の隅に腰かけ、ティードは椅子に座り込む。

「さてと、ムシャールで夕食になるものは購入したか?」

「えっ、こんな野宿みたいな事になると思っていませんでしたから、そこまで用意してないですよ。まあ、干し肉くらいはありますけど。」

「仕方がないな、俺が持ってきた物を食わせてやるよ。」

「本当ですか!うわぁ、楽しみです。」

ティードは少し目を輝かせた。

「悪いが味の保障はないぞ。」

「こういう旅路で食べる物って、何でも美味しく感じると思いますよ。」

ウェルはリュックの中から丸い形の物を二つと、水筒を取り出した。

丸い物は大人の拳二つ分くらいの大きさだった。ウェルはそれを一つ、ティードへと渡した。

「これはシェムの木の葉ですね。葉には消毒作用がありますから、食べ物を保存する時によく使いますよね。」

「さすがティード、色々と知っているな。じゃあ、その葉っぱを剥がしてくれ。」

言われたままにティードはシェムの葉を取り除いた。中には白い粒がたくさん合わさっている物が包まれていた。

「これは…確か米というものですよね?ロウさんの家でご馳走になった事があります。」

「その通りだ、こいつの名前はおむすびというらしい。ロウの故郷から最近運ばれてきたらしく、少々分けてもらったんだ。」

「へぇ、おむすびというのですか。それではいただきます。」

ティードは、おむすびをひとかじりして味を確かめる。

「美味しいです。まっしろで何も味付けされていないと思ったら、塩がかけられていて、とてもいい味になっています。二日間も保存出来ているのは、シェムの葉の力ってすごいですね。」

「普通だったらカチカチに固まっているらしいしな。」

ウェルもガブリとおむすびにかじりつく、ティードは既に半分近く食べていた。

「東の国の食べ物は結構いけるものが多いな。でも、あの漢方とかいう物は苦くていただけないけど。」

「でも、あれは良い薬だそうですよ。私も苦手ですけど。」

二人はあっという間におむすびを平らげた。今度はコップを用意し水筒の中身を注ぎ、ティードに渡す。

「これはもしかして東の国のお茶ですね、なんだか落ち着く香りです。」

「ご名答、色がぜんぜん違うな。香りもそんなにしないし、健康的な物に見える。」

二人はお茶を口の中に一気に流し込んだ。

「美味しいですね、私達の国で栽培しにくいのが残念です。」

「そうだな。でも、異国に行った時にしか食べられないという楽しみもあるぞ。」

「そうですね。僕も色々と行きたくなってきました。」

二人は簡単に食事を終えて、ささっと食事の後始末をした。

「明日はいよいよオブラール山を登る事になりますね。」

「そうだ、この花が簡単に見つかるといいな。」

ウェルはロウがスケッチしてくれた絵を眺める。

「その花の名前って何でしたっけ?」

「確か…トルネードフラワーと言っていたな。」

「竜巻花ですか。確かに見えなくはないですが、発見した人のネーミングセンスを疑います。」

ティードはクスッと笑った。

「きっとその時に竜巻が発生していたか何かだよ。あの山は小さな竜巻がよく発生しているらしいし。」

「偶然発生して、花が飛ばされないと良いですが…。」

「そうだな、見つけたらすぐに確保しないと。花を持ち帰ってシェリーちゃんを必ず助ける。」

「ウェルさん…頑張りましょう。」

ティードは少し涙ぐんだ。

「さて、もう寝るぞ。明日も早く起きて出発だ。」

ウェルはランプを消して眠る体勢になった。ティードも楽な姿勢になる。

「明日もよろしくお願いします。」

「おうよ、まかせとけ。」


「ウェルさん、起きてください。」

先に目が覚めたティードが、ウェルの名を呼びながら身体を揺さぶっていた。しかし、ウェルはなかなか起きない。

「ウェルさん、起きてくださいってば。」

ティードは何故か押し殺した声で起こそうとしていたので、ウェルの耳に届いていなかった。

何度か揺さぶられたウェルは、まだ眠たそうな表情で目を開ける。

「ん、なんだ。もう朝になるじゃねえか、すまねぇ。」

小さな窓から覗く明かりは、夜から朝に変わっている途中だった。

「それよりも、あちらに人がいるのですよ。」

「え?」

ティードはウェルが座っている所とは反対側の角を指差す。そこにはショートヘアの女性が座り込み、顔を隠して眠っていた。

「ここを利用している同業者か?入ってきた事にまったく気づかなかった。」

「僕も気づきませんでした、起きたらびっくりしましたよ。」

ウェルは起き上がり、ゆっくりと女性に近づく。

手が届く位の距離まで近づくと、女性の顔がゆっくりと上がってきた。

「うわっ。」

「まったく。人が寝ているというのに、朝から騒がしい連中だな。」

女性は細く鋭い目でじっとウェルを見つめた。

「起こしてしまって悪かった。でも、見ず知らずの者がいきなり寝てたら、こんな反応になるのは当然だろ。」

ウェルは女性の全身を確認した。上半身は袖なしの服を着ていて、左肩に鉄製っぽいプロテクターをしている。

下半身は動きやすそうな短めのスカートで、さらにスパッツを履いていた。

「私も驚いたさ。久しぶりに寝にきたら、お前たちが寝ていたからな。まあ賊の類ではなさそうだと思い、気にせず私も寝たんだ。」

「なるほど。あんたはこの辺りに住んでいるのか?」

「そうだ。私の名前はルネ、少し山を登った所にある村で暮らしている。」

ルネは腰を上げて起き上がり、椅子に座った。

そして、リュックの中からボトルを取り出し、机に置いてあったコップに水を注ぎだした。

「山の水は寝起きの頭をすっきりさせるぞ。ほら、あんた達も飲みな。」

三つのコップに水を注いだルネは、二人にコップを手渡した。

「俺の名はウェル、そいつはティード。わけあってオブラールの山頂を目指している。」

三人はほぼ同時に水を飲み始めた。

「オブラール?あんな何もない所に行くなんて変わっているね。珍しい石でも探しに行くのかい?」

「そこに咲く花を探しに。それで大切な人を助けたいんです。」

「ふぅん。」

ルネは水を飲みながら少し考える仕草を見せる。

「あんた達、オブラールは登った事があるのかい?」

「ある程度は。でも、山頂までは初めてだ。」

「オブラールは道が複雑に入り組んでいる場所がある。慣れている者が登っても、怪我をしたりする結構危険な場所だ。」

「僕なんて遭難するかもしれないです。」

「そこでだ、私も一緒に登ってやろうかと考えた。」

「え?」

ウェルとティードは同時に声を出した。

「私が一緒に行ってあげると言っているんだ。あの山は小さい頃から良く登っていて慣れている。」

「そいつは嬉しいけどよ、本当にいいのか?どこの誰かも分からないのに。」

「フレッチェルンの民に二言はないよ。それにあんたらは危険に見えない。」

ルネはニッと笑ってみせた。ウェルはその表情を見て、可愛い所もあるなと思った。

「人が多い分には助かるし。じゃあ、よろしく頼もうか。」

「まかせとけ、私も久しぶりに一人じゃないし楽しい。」

ウェルはルネに手を差し出した。ルネも手を差し出し、握手を交わした。

「今日中に山頂に行くのだとしたら急ぐぞ、さっさと支度をしな。」

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