18.格上の相手と刻印術
「あいつ、こちらの出方を窺っているな。」
岩陰からガーゴイルを覗きながら会話する二人。
「ウェルさんはどのような戦闘スタイルですか?見た感じ経験は少ないと見受けられますが…」
「失礼な。まあいいさ、俺の得物はこれだ。」
ウェルは腰の左右に付けていたナイフを二丁取り出した。
「なるほど、空飛ぶ魔物には不利ですね。」
「魔物はウルフやボア位しか相手にした事がないけど。対人なら三人まとめて相手にした事がある、とはいっても下っ端相手だけどな。」
「まあ仕方がないですね。それでは、ウェルさんは私のサポートをお願いします。時間稼ぎになってくれるだけで大丈夫です。」
ロウはそう言うと、背負っていたリュックを地面に置く。
「よほどの自信があるようだな、お手並み拝見といきますか。」
ガーゴイルはしびれを切らしてきたのか、グルルと喉を鳴らしながら近づき始めた。
「さて、いきますよ。」
「命懸けな気がするけど、やってみるさ!」
岩陰を飛び出したウェルは、姿勢を低くしてガーゴイルへと突進した。
急に行動されたので、一時的に身構えるガーゴイル。
ロウも岩陰から半身乗り出して構える。
「大いなる大気の精達よ、わが身に力を与え給え。」
ロウの周囲から光球がいくつも発生し、渦を巻くようにロウの身体にまとわりつく。
「巨大な手となり我が盾となれ、フェザーシールド。」
ロウが手を前に出すと、目の前に白い手が発生し、瞬時に見えなくなった。
その現象はウェルの身体にも発生していた。
「こんなやばい奴と戦うなんて思ってなかったぜ!」
ガーゴイルの身長は、ウェルのおよそ五倍ほどある。ガーゴイルの腕ひと振りをまともに受けたら、それだけで終わるだろう。
ウェルは手に持っている物より小さいナイフを、腰から二本取り出し、ガーゴイルの喉元めがけて投げつけた。
少しの狂いもない正確な投擲だったが、ガーゴイルはさっと腕でナイフを振り払った。
「それはおとりなんだよ!」
ウェルはその間にガーゴイルの足元にたどり着き、四度ほど左足を切り刻もうとした。
しかし、ガーゴイルの皮膚が固いのか、ウェルが力不足なのか、皮膚に刃が入り込まなかった。
それでも鬱陶しいのか、足をバタバタと動かし、ウェルを蹴飛ばそうとした。
ウェルはサッと後ろに後退して、足蹴りをかわす。
「お次はこいつだ!」
ウェルは腰にぶら下げていたロープを振り投げる。
ロープの先端にはカギ爪が付いており、ガーゴイルの腕に巻きつくと、しっかりと固定された。
「俺流の魔法を見せてやる。」
続けて、ポケットバッグから小さな球体を取り出しロープ目がけて投げつける。
球体は衝撃によって破裂し、中から黒い煙が発生し、バチバチと火花を飛び散らせた。
その火花はロープに燃え移り、燃え移った炎は勢いよくガーゴイルの腕に伝わろうとした。
ウェルが手に持っているロープの片側は、燃えにくい素材が使われているので、引火はしなかった。
腕に燃え移ろうとした時、ガーゴイルは反対の腕でロープを引き裂いた。
そして、押されている事に戸惑っているのか、小さい鳴き声をあげた。
「まったく相手にならない、ロウはどうしたんだ?」
ガーゴイルを警戒しつつ、ウェルは後ろを振り向く。
ロウは目を閉じて、平然とした様子で呪文を唱えていた。
ガーゴイルの方に向いたタイミングで、ガーゴイルの大きな腕が襲いかかろうとしていた。
腕はウェルの身体を引き裂こうとしたが、目の前に白い手が発生し、腕を受け止めてた。
しかし、白い手は衝撃を押さえきれず、ウェルは少し後ろに吹き飛ばされる。
「いってぇ、まともに喰らっていたら確実に死んでいたな。今のはロウが発生させた手か。」
ガーゴイルは白い手に弾かれながらもウェルに攻撃を仕掛ける。
しかし、身を低くしたウェルに上手くかわされる。
「ロウさんよ、さすがにこれ以上は厳しいぜ。」
ウェルはガーゴイルから少し離れる。ガーゴイルも間合いを取り、体制を整える。
「水と木の精達よ、強大なる樹と水流を見せつけたまえ。」
ロウはガーゴイルの方に腕を振り出す。腕の先から水流が発生し、ガーゴイルに飛んでいく。
ガーゴイルは、そのあまりにも速い水流をかわす事が出来ず、腹部に衝撃を受ける。
水流は絶える事なくガーゴイルに衝突し続ける。さらに水流に巻きつくように木の幹も発生した。
水流に流されまいとガーゴイルは耐えてはいるが、勢いに負けて飛ぶことが出来ない様だ。
その姿に追い打ちをかけるように、木の幹がガーゴイルの腹に刺さりこむ。
この攻撃はさすがに堪えたのか、ガーゴイルはグォーとおたけびをあげた。
「続けていきますよ。荒れ狂う猛火よ、矢となり射貫く力を見せつけたまえ。」
今度は青い炎が多数発生して、それぞれが矢の形となり、次々とガーゴイルへと飛んでいった。
先ほどの攻撃でひるんでいるガーゴイルだが、炎の矢を腕を組んで防ぐ。
腕に防がれた炎だが、ガーゴイルの皮膚を焦がす事は出来た。
「どうです、まだ戦いますか?」
腹から血を流しているガーゴイルは、羽根を大きく広げて空へと飛び立ち、二人の視界から消えていった。
ウェルはナイフを腰に戻し、ロウの方へと向かった。
「逃げてくれましたね。本気を出されてたらどうなっていたか。」
ロウはそう話すが、あきらかに落ち着いて話しているので、全然本気を出していないなとウェルは思った。
「ロウ、あんたは魔法が使えるのか?」
「正確に言いますと刻印術ですが、見た目は魔法と変わらないですね。」
「魔法の種類も色々とあるという事か。」
「そういう事にしておきましょう。さて、先を急がないと今夜は野宿になるかもしれないですね。」
「ロウさんとは偶然的な出会いをしていたのですね。」
「確かにそうだな。その後ロウとは一緒にディズオールまで戻った。しばらくは居たんだが、いつの間にかいなくなっていたな。そしてまたルードで再会するわけ。再会する前の事は全然知らないし、聞いた事もない。しかし何故あんな所で隠居しているのか…」
「色々と偶然が多いですね。でも実は必然的だった可能性もあって、誰かが作ったシナリオ通りに動かされているかもしれないですね。」
「そんな恐ろしい事を言うな。そうだったら、俺達は自分自身で生きていないって事になるじゃないか。」
「あっ、あれって出口じゃないですか?」
ティードが指差した先に白い光が見えた、外の明かりだろう。
「やれやれ、なんか長い道だった。」




