16.教会の者達
目を開けると、壁の隙間から光が射しこんでおり、小屋の中は明るくなっていた。
「またこの夢か。」
小さい頃に体験した事を時々夢で見る。その夢を見た後のコンディションは大抵良くなかった。
ウェルは起き上がり、ランプをリュックにしまう。外には人気は無さそうだが、慎重にドアを開け、外の様子を窺った。周囲を確認しても人の姿はなく、陽もまだ少ししか昇っていなかった。
小屋の外に出ると、ウェルはとりあえず中央広場に向かう事にした。
曲がり角を曲がった先で、昨日見かけた姿と同じフードを被った人達とすれ違った。
明るいので顔くらいは確認できるか窺ったが、フードを深く被っており確認する事ができなかった。
「よく分からないけど、教会と関係あるのかもしれないな。」
中央広場に着いたウェルは、中央にある噴水のふちに座った。
広場には昨日ライトアップされていた建物が立っていて、フードを被った人達が次々に中へと入っていた。
「朝のお祈りか何かか?神宿る街は大変だな。俺は神様なんて信じない。」
「信じる事があの者達の心の拠り所なのですよ。」
「!!」
ウェルは素早く横に向いて、態勢を整える。隣には、この辺りでは見た事がない服を着た、長髪の男が立っていた。
「気配を隠して横に立つとは、相当なやり手だな。」
ウェルは冷や汗をかいていた。ただ立っているだけなのに、長髪の男には隙がまったく見られなかったからだ。
「そんなに警戒しなくても、あなたに危害は与えませんよ。ただ、珍しい人を見かけたので挨拶に来ました。」
長髪の男は笑顔で話す。そう言われたので、ウェルは少し警戒心を緩める。
「あんたも見た感じ、この街の人じゃないだろ。」
ウェルは長髪の男が自分より少し年上くらいに思った。
「そうですね、私も外から来た者です。おそらくあなたよりも遠い所から来ました。」
「俺が外の者だと何で分かったんだ?」
「教会のローブを被っていない事がひとつですね。この街の人はほとんど教会の信者ですので、教会が指定したローブを着ています。それに、あなたの服装は砂漠に適していそうです。」
「やっぱり、街の人が着ているローブは教会と関係があったんだ。確かに、俺は砂漠の町からやってきた。」
「この街には何の用事で?」
「そこまでは話せないな。」
ウェルは長髪の男のゆったりと話すペースに、調子が狂いそうだった。
「確かにそうですね。そろそろ失礼します、また会うかもしれないですね。」
長髪の男は中央広場の西側へと歩いていった。ウェルは、男の姿が見えなくなるまで見続けた。
「いったい何だったんだ…。それよりも、さっさとヴェルクードさんを探そう。」
ウェルは洗濯や店の準備をしている人達にヴェルクードの事を尋ね歩いた。
何人かに聞くとヴェルクードは教会関係者という事がわかった。
「教会関係者か、あの中に入るのはちょっと大変かな。」
そう考えながら中央広場にある建物を見る。とりあえず中央広場に戻る事にした。
「ん、何だあれ?」
教会らしい建物の入り口に人だかりが出来ていた。
ウェルは様子を見てみようと、人だかりの後ろから覗く事にした。
ちらっとしか見えないが、人だかりの奥で大きな声が聞こえる。
「私に命令するというのかね?」
「いえ、あなたの行いのいくつかが、良くない可能性があると言っているだけです。」
ウェルはもう少しよく見たかったので、人の間を押しながら前へと進んだ。
「下級僧の分際で、自分の身分を考えて話してもらいたいものだな。」
「確かに、私はあなたほど偉くはないです。しかし、間違いを行う方に従うほど落ちぶれてはいません。」
「いったい何の事なのか、はっきりと言ったらどうだ?」
「ここで言ってしまうと、さすがに不味い事になりますので。ただ、昨日の行いとだけお伝えしましょう。」
なんとか最前列まで来る事ができたウェルは、男二人が言い合っている事を確認した。
一人は装飾品を身体にたくさん付けている小太りの男で、もう一人は細い体格で金髪の男だった。
どちらも街の皆が着ているローブを身に付けてはいない。
「ふむ、少しはキレるみたいだ。どうやらお叱りが必要のようだ。」
「私はあなたと争いたいとは思ってはいないですよ。本当にすぐ沸騰するお方だ。」
「ヴェルクード、覚悟しろ!」
ウェルは金髪の男がヴェルクードという事を知った。
「やれやれ、こんな大勢が見ている中で、みっともない。」
小太りの男はヴェルクードをめがけて槍を突いた。その槍を、ヴェルクードは軽い動作で受け流した。
「あの槍はいったいどこから?」
ウェルは何も持っていなかったはずの小太り男の手に、突然槍が現れたので驚いた。
「なるほど、異空間移動ですか。そんな事はできない人だと思っていました。」
ヴェルクードは素早く三歩ほど後ろに下がる。
「そんな口を叩いているが、下級僧のお前にはまず使えないだろう。」
小太り男は頭の上で槍を三回転ほど回し、構えを整える。
「さて、それはどうでしょうか。」
「その余裕な表情が気に障るわ!!」
小太り男は、槍を持っていない手をヴェルクードの方に向けた。
「くらえ、エレックバーン!」
向けた手から小さな電撃が発生し、バチバチと音を立てながらヴェルクードの方へ勢いよく飛んでいく。
「ここで魔法を使うのは止したほうが良いと思いますが…。」
ヴェルクードは両手を前に出すと、精神を集中させる。
「大地の精よ、我を守りたまえ。トリックウォール。」
ヴェルクードの目前まで電撃が近づいたが、身体に触れる前に消滅する。
「干渉魔法だと?こざかしい、ならば!」
小太り男は目を閉じ、何かを呟き始めた。次第に、男を取り囲むように光が発生する。
「やれやれ、相当のぼせているようですね。どこまで人騒がせなのでしょう。」
ヴェルクードも何かを呟き、光を発生させる。
「貴様ら!この神聖な場所で何をしている!」
後ろの方から罵声が聞こえてきたので、皆はその方を見る。そこには長い白髭を生やした老人が立っていた。
「大神官様!」
やじ馬の中から声が聞こえる。
「ちっ、もうお帰りか。」
「これはさらに不味いかもしれないですね。」
老人に気づいた小太り男とヴェルクードは、瞬時に争いを中断する。
取り囲んでいた光や槍も瞬時に消えた。
老人は二人のそばまで近づいてきた。
「ラジャカにヴェルクードだな。この騒動はどういう事だ?」
険しい表情で話す老人。
「いえ、ただの口論であります。」
「随分とオーバーな口論でしたけど。」
あせり始める小太りな男、ヴェルクードの方は特に動揺していない雰囲気だ。
「特別な理由が無い限り魔法を制限せよと決めておるのはわかっておるな?」
「はい、もちろんであります。」
すぐに返答する小太りの男。
「まあいい、別の時間に改めて確認するとしよう。」
老人は教会の中に入っていった。
「やれやれ、これは痛い目に会いそうだ。」
「なんてタイミングだ…」
小太りの男も教会の中へ入る。見ていたやじ馬達も、それぞれの方向へと散らばっていた。
ウェルは今の出来事で違う事を考えていたが、仕事の事を思い出し、ヴェルクードに近づいた。
「あんたがヴェルクードさんだな?」
ヴェルクードはウェルの声に気づき振り向く。そしてウェルとの身長差が大きいのでしゃがみ込んだ。
「確かにそうだけど、君は私に何の用があるのかな?」
「とりあえず子供扱いはやめてくれ。これでも一人で仕事を任せられている。」
「なるほどね。じゃあ、あそこで話そうか。」
ヴェルクードは広場の端にある飯処を指差した。




