14.ウェルの過去話
砂漠の町ディズオール、ここは砂漠の中心に位置しているが、水源のオアシスがある事で、
砂漠を横断する旅人や交易商達の宿場町となっていた。
「今日も無事で平和だった。これも皆のおかげだ、今日も良い酒を飲もう。乾杯!」
「乾杯!!」
三日月が綺麗に見える夜、町内にある一軒の酒場で男達が集まって宴を開いていた。
男達は、このディズオールで「砂の獅子団」と呼ばれている集団で、町で悪だくみを考えている者達から町人に被害が及ぼさない様に、未然に防ぐ事を仕事としている。
他にも、外部との交渉をしたり、町人の依頼を聞いたりと、様々な事をして町の治安を維持している集団である。
「しかし、あの商人の泣き顔といったら、笑わずにはいられなかったな。」
「まったくだ、ここで悪い事をしようとするからだ。俺達の目は欺けない。」
テーブルでは砂の獅子団の一員達が酒を飲みながら話している。
酒場のウェイトレスは、いそいそと酒やつまみを運んでいた。
「だがよ、いつまで経っても町の復興は厳しいな。」
「大金が手に入る事でもあれば、少しは状況を変えられるかもしれないが…」
カウンターには砂の獅子団のリーダーと副リーダーが座っていた。
二人の向かいには酒場のマスターがカクテルをシェイクしている。
砂の獅子団の目的は、ディズオールがまだ砂漠に囲まれた町ではなかった頃に戻す事だ。
その頃の町には緑と水が豊富にあり、より多くの人々が町に住んでいた。
治安も随分と良くて、特別な警備なんて無くても、町は平和だった。
その目的の為に資金集めをしているが、それは叶わぬ事だということはここにいる誰もが分かっていた。集めた資金はほとんど皆の生活資金で消えていたからだ。
「それにしても、あの小僧は何者だ?」
副リーダーが指さした方向には十歳前後の少年が座っていた。マスターからは水を貰っているが、特に会話らしい会話もなく、ただ俯いているだけだった。
「坊や、こんな夜遅くまで外にいちゃいけないよ。家に帰りな。」
外から応援に駆けつけてきたウェイトレスが少年に気づいて声をかけた。
声をかけられた事に気づいた少年はウェイトレスの方を向く。
「安心して寝れる場所なんてどこにもない。」
少年の容姿は揃えられていない頭髪、傷が数か所に見受けられる服を着ている。
さらに上からローブを着ているが、それにも継ぎ接ぎが見られた。
「家が無いっていうのかい?まったく困ったもんだね、マスターどうします?」
「ん~、今日一晩はなんとかしてあげるよ。」
「マスターがいい人で良かったね、これ食べときな。」
ウェイトレスはピザを少年に渡した。
「ありがとう。」
少年はむすっとした表情で返事をした。
「こんな時代だ、あいつみたいな奴らは沢山いる。一人や二人なら面倒見てやる事も出来るがな。」
「俺達は正義の味方です。小僧の食う飯も用意出来ないなんて町を救えませんぜ。」
「そうだな、じゃあお前の取り分を減らしてなんとかするか。」
「いや、それはご勘弁を。」
「冗談だ、少し話してみるか。」
「さすがリーダー、面倒見が良いのは自慢ですぜ。」
リーダーと呼ばれた男は席を立ち、少年が座っている席に近づいた。
リーダーは背が高く、口元から綺麗な逆三角形の髭が伸び、目が少しつり上がっている。
顔は少し皺が目立っているが、体格はメンバーの誰よりも力強そうに見えた。
「坊主、家がないんだってな。」
後ろからいきなり声をかけられたので少年はビクッと驚いた。
声のする方向に振り向くと、体格の良い男が立っていたので少しビクッとした。
「それがどうしたっていうんだよ。」
少年は少し震えた声を出しながら、リーダーを睨みつけた。
「おっ、良い返し方だな。どうだ、俺達の仕事を手伝ってみねぇか?町を救う仕事だ。」
そんな提案をされるとは思ってなかった少年はまた驚く。会話を聞いていた副リーダーも目を見開いた。
「……手伝ったら飯は食えるのか?」
「ああ、腹いっぱい食えるぞ。」
「安心して寝れるのか?」
「ああ、もちろんだ。」
「……わかった、あんたらの仕事の手伝いをさせてくれ。」
「よし、決まりだな。坊主の名はなんと言う?」
「…ウェルだ。」
「ウェルというのか。俺はロゼスだ、よろしくな。」
「なんか、ウェルさんの方が辛い過去を過ごしてきた気がしてきます。」
ティードは少し涙ぐんでいた。
「過去があって今があるんだ、今の俺は楽しく生きてるぜ。」
「確かにその通りですね。」
「それで、ある街に行った時にとんでもない奴に出会うんだ。」
「そこでロウさんに出会うのですね。」
ウェルは砂の獅子団に入って数年経った。
仲間達からは様々なサバイバル術を学び、街の人達への接し方も教えられた。
最初は皆との会話はほとんど出来なかったが、周りの明るい雰囲気に巻き込まれていき次第に口数も多くなった。
そのおかげもあって、初対面の人との会話も自然な口調で話せるまでに成長していた。
「ウェル、そろそろ単独で仕事をやってみないか?」
ある日の朝、砂の獅子団のアジトに出向いたウェルは、ロゼスからそう告げられた。
「俺に出来ることなら何でも引き受けるぜ。」
日々こなしていく仕事により、ウェルの体格は逞しくなっていた。
「ちょっとこの荷物を届けてもらいたい。距離は四日ほどってとこだ。」
ロゼスは、机に置かれた木箱を前にして話す。
手のひらに載せられる木箱の表面には、特に何も描かれてはいない。
「中には何が入っているんだ?」
ウェルは木箱を不思議そうに見つめながら答えた。
「これには魔法が封印されているって話だ、詳しくは俺にもわからねぇ。」
「魔法?そんな物が封じ込められるのか?一体どんなからくりなんだ…」
ウェルは箱を手にとって眺めてみる。
「いいか、これからセインジュに行き、ヴェルクードという奴に届けてほしい。」
「セインジュか、なるほどね。」
セインジュは昔、神のお告げを聴くことができる子供が産まれたという事で、今でも神聖な場所として知られている場所である。
「くれぐれも絶対に箱を開けるなよ。何が起こるかわからねぇし、命の保障もない。」
そう言われると、逆に開けたくなるウェルだが、これは仕事だと自分の心にきつく言い聞かせた。
「了解した、じゃあひとっ走りしてくるよ。」
「ついでにこのメモに書かれた物も買ってきてほしい。ディズオールでは手に入りにくてな。」
ロゼスが渡してきたメモには、確かに砂漠では見つからない動物の皮などが書かれていた。
それと一緒に旅費と非常食もウェルは受け取った。
「確かに引き受けた、問題なく対応してくるよ。」




