一陣の風
少しだけ期待していた。その瞳に僕が写ることを。同じ学年、と言うだけで全く接点の無い彼女の事を、僕はいつも眺めていた。じっと見つめるなんて事は、僕には出来ない。そんな気持ち悪い事とても出来そうにない。遠くから、さりげなく目の端に彼女の姿を捉えるだけで僕は満足だった。彼女の姿を見られない土日は物足りなかったけど、まぁこんなもんだよな、とベットに横になれるくらいは。
学校さえあれば、彼女の姿を捉えることなんて簡単だ。別に廊下をひたすらバタバタ走り回るわけでもなく、授業中に校庭で笑い転げているわけではない。……そんなことする彼女も、きっと面白いな、と思っちゃうんだろうけど。
彼女は陸上部に所属している。だから放課後の校庭を見れば、すぐ彼女を見つける事が出来る。友達と歓声を上げながらじゃれあう姿や、トラック上を真剣に走る彼女を僕は見つめる事無く目の端に捉える。
そんな時、肩を叩かれた。
「添島、まーた佐藤の事、見てるのか?」
山田がふざけた様に、だけど回りには聞こえない位の音量で僕に話しかけてきた。こいつはなぜか彼女の事を見ている僕に気がついた。「なぜ?」と聞いた事がある。そして返ってきた言葉に、納得したんだった。
「ん?俺佐藤の事好きだもん。ライバルは直ぐに分かるものなんだよ、添島」
そう言いながら自分の言葉に納得した様にうんうんと頭を振る山田の事は、嫌いではない。
「今度の日曜、大会があるんだってさ。一緒に行かないか?」
僕は一も二もなく頷いた。今度の日曜日は、物足りない、なんて思わなくて済む。それだけで僕にとってはご褒美だ。
彼女は100m走の期待の星だった。県大会でも優勝するほどの実力。彼女の姿を見ようとたくさんの人が競技場に詰めかけていた。僕達はゴール地点に近い中央寄りの場所に位置取りした。走り始める彼女の姿より、走り終わる彼女の姿より、なぜか走り抜ける彼女の姿を見たかった。
色々な競技が終わり、いよいよ次は100m走。僕達はそわそわしながら今か今かとピストルの合図を待っていた。各選手の名前がコールされる。彼女の時、一際強い歓声が響いていた。そしていよいよ緊張感が最高に高まった時、トリガーは引かれた。
学校のグラウンドで見せるフォームよりよっぽど美しいフォームに、僕の心はドン、と跳ねた。彼女の姿がどんどん近づいてくる。
その目の強さが僕の心を惹き付けてやまない。




