妖精令嬢の一目ぼれ
一目ぼれによる初恋的なものを書いてみたかったんだけどどうしてこうなったかよくわからない。
「まぁ…!なんて素敵な方…!」
伯爵令嬢、アンネマリー・ストレーナは高鳴る胸の鼓動を抑えきれなかった。
彼女のアクアマリン色の大きな瞳はキラキラと輝き、きめ細かな白い頬は赤く色づき、愛らしい桃色の唇はほうっと熱っぽい息を零し、彼女の性格と同じく真っすぐな銀髪は、光に当たると淡く輝く。
アンネマリーの持つ淡い色彩は、普段は景色へと溶け込んでしまいそうな程に儚げで幻想的な雰囲気を醸し出していたが、この時ばかりは生き生きときらめき存在を存分に主張していた。
そんな彼女の花開くような美しさに、周囲に居た人間も思わず目を奪われ、彼女の視線の先を目で追った。
煌びやかパーティー会場で壁に控える騎士たち。面立ちの整った騎士からがっしりとした身体つきの騎士まで実に様々な騎士たちが並んでいる。視線を追った人々は、一体誰が彼女の目に留まったのかを注意深く観察していた。
アンネマリーが胸を高鳴らせた意中の相手は、彼女が今までに出会ったことが無い程、素敵な外見をしており、それはそれは素敵な王子様に見えていた。
短く切られた茶色い髪は清潔感たっぷりで、健康的な肌色の中に輝く黒曜石のような瞳は鋭く会場を見つめている。きりりとした凛々しい太い眉に肉厚の大きな鼻、分厚い唇はしっかりと引き締められ、誠実さと実直さが伺えた。おまけに騎士として恵まれた立派な体格。すべてがアンネマリーにとってはツボに入った。――一目惚れだった。
しかし一人で騎士に近づくのは少しだけ怖い。
そこでアンネマリーは周囲にそっと視線を巡らせると、ルビーのように輝く赤い髪の令嬢を見つけた。
「良かった、ロキシー…!」
「あら、アン、どうしたの?」
赤い髪を持つ令嬢、ロクサンヌ・クロウニーことロキシーはアンネマリーと同じく伯爵令嬢であり、強そうな色を持つ赤い髪とは裏腹に垂れ目がちでアンニュイな雰囲気は、目の下のほくろと相まって妙な色気があった。そのおかげで軽そうな令息しか近寄って来ないことが目下の悩みではあるが、隣にアンネマリーが居ると雰囲気が和らぎ年相応の溌溂とした印象に変わる。むろんそれだけでアンネマリーの友人をしているわけではないが、彼女と居ることで寄って来る人間の種類が変わることに感謝していた。
対してアンネマリーは、妖精のようだと可憐で清楚な様相を褒められることが多いが、彼女にとってその言葉はけして嬉しいものでは無いために無表情になることが多いのだが、ロキシーといるときは自然体で居られるためとても居心地が良く思っていた。むろんそれだけでロキシーの友人をしているわけではないが、彼女と居ることで何とか社交辞令用の笑顔を浮かべられるために余計な摩擦を生まずに済むことに感謝していた。
一見相いれないように見える二人は、お互いがお互いに感謝しており、気が合うこともあって仲が良かった。
だからこそ、いつになく興奮した様子のアンネマリーに、ロキシーは驚いた顔をした。
おまけに何やら照れ笑いまで浮かべていることに、ロキシーはわが目を疑った。
「あのねロキシー、あちらに素敵な方が居たの。それでね、話しかけたいのだけど一人じゃちょっと不安で…」
ちらちらと不安そうにロキシーの様子を伺うアンネマリーの表情は庇護欲をそそる。近くに居た令息たちがそわそわしだしたがアンネマリーは気付かない。
ロキシーは気付きながらも無視して、アンネマリーの言葉を嚙み砕いて理解した。――青天の霹靂だった。
「まぁ…!まぁ!アンに気になる人…?!いいわ、行きましょう…!」
アンネマリーは基本的に表情を変えないことが多い。傍に居れば礼儀的に笑顔を作っていることはわかるが、大多数の前で感情をあらわにすることは無い。親しい友人であるロキシーと居ても周囲に人が居ればあまり表情に変化はないが、二人の時であれば表情は変わるし、興奮し出すと猪突猛進とばかりに周りが見えなくなってしまうアンネマリーの悪癖を知るロキシーは一も二も無く頷いた。
周囲に人が居てもその表情や雰囲気を変えているアンネマリーの思いを汲み、また、気になる人の前で興奮したアンネマリーのストッパー役として。
アンネマリーは見た目とは裏腹に、好きなものに対する情熱が激しいことを知るのは家族とロキシー位のものだった。
「それで、どんな人なの?」
「あのね、あちらに居らっしゃる騎士様で…」
アンネマリーの言葉にロキシーは視線を向けるがここから視界に入る騎士はざっと10人程いた。
「…どれ…?」
「もぉ、茶色い髪の…」
ぼそぼそと話しながら徐々に近づくが、茶色い髪の騎士は3人並んでいた。ただ見た目が全く違ったために特徴を聞けばわかる範囲だった。
順に、一人は青い目で貴族然としており均整の取れた身体つきをしており、一人は暗褐色の目で中世的な顔立ちでやや細身、一番右に居た一人は黒い目で控えめに言ってゴリr…がっしりとした顔つきで体格は見るからに頼れそうな雰囲気だった。
ロキシーは悩んだ。
貴族然とした相手も、中世的な顔をしている相手も、似たような顔立ちは今まで散々見てきたが、アンネマリーが表情を変えることは一切無かった。そうなると消去法でゴリ…がっしりした顔つきの相手になる。
なるが果たして合ってしまっているのかと。
正直1000人中999人が好ま無さそうな顔をしている。しているが今まで見たことが無いタイプである以上、それ以外に考えられない。ロキシーは腹をくくると意を決して尋ねた。
「もしかして、黒「そうなの!さすがロキシーね!」
「あ、うん…」
食い気味で返事をしたアンネマリーの様子にロキシーは口を噤んだ。
異性に対してこんなにキラキラした目で興奮しているアンネマリーをロキシーは知らなかった。あと男の趣味も。
楚々としたアンネマリーが、壁際に立つ屈強な騎士に近づくにつれ周囲の視線が向けられる。ロキシーはその視線に居心地が悪くなってきたが、周りの様子が全く目に入っていないアンネマリーの状態を見て諦めた。自分がストッパーにならなければいけないという使命感に突き動かされて。
(でかい…)
ロキシーの第一印象はそれだった。隣に視線を向けると、それはもうキラキラと恋する乙女のような表情で真っすぐにゴリ…アンネマリーの気になる人を穴が開くほどに見ている。頬を薔薇色に染めて胸の前で両手を組んでまで。正直その様子を見て堕ちない男は居ないんじゃないかとロキシーは思ったが、目当ての騎士は職務に忠実なのか、アンネマリーが近づいて居ることに気づいては居るが危険は無いと判断してか注視している様子はなかった。むしろ周りの騎士がちらちらとアンネマリーに視線を寄越していた。
もうあと2、3メートルの距離まで近づけば、さすがに目当ての騎士もアンネマリーたちに視線を向ける。ロキシーは意中の人にしか目を向けないアンネマリーの代わりに害は無いことを示すために軽く目礼した。
そしてついにゴリ…がっしりした顔の騎士の目の前に立ったアンネマリーは、興奮が頂点に達し、はやる気持ちのままについ口走ってしまった。
まさかそこまで好意を寄せているとは思わず、ロキシーでさえ止められなかった。
「素敵な騎士様…!どうかわたくしと結婚してくださいませ…!」
周囲から音が消えた。
よもや妖精のようだと謡われる可憐な令嬢が、開口一番、見た目ゴリ…雄々しい騎士に求婚するとは誰も思いもしなかったからだ。アンネマリーの声が聞こえた人々は軒並み脳停止に陥った。
そんな中、真っ先に我に返ったのはアンネマリーの無二の親友、ロキシーだった。
「アン…!?」
若干悲鳴交じりの声で慌てて親友の正気を問おうと後ろから肩を掴む。いつの間にか相手との距離がやたらと近い。近づきすぎて首どころか腰が若干のけぞっていた。頑張って騎士から離そうと引っ張るが、足は根が張ったように動かない。可憐で儚げな見た目からはかけ離れた脚力の強さに、ロキシーは恐れおののいた。
しかしそんなロキシーの奮闘空しく、ロキシーの声も右から左で、アンネマリーは滔々と自身の思いのたけを綴り続ける。
「お仕事中に申し訳ございません、素敵な騎士様、騎士様が目に入った瞬間わたくし他に何も目に入らなくなってしまってどうしてもこの思いをお伝えしたくて、あ、申し訳ございませんわたくしアンネマリー・ストレーナと申します、どうかアンとお呼びください素敵な騎士様、そしてどうかあなた様のお名前を教えていただけませんでしょうか…!そしてわたくしと結婚してください…!」
アンネマリーはそこまで一息に言い切ると、キラキラと輝く瞳のままうっとりとした表情で騎士を見つめた。
ロキシーはこんな親友は知らないと、アンネマリーのあまりの押しの強さに自身の顔が引きつるのを感じた。
問われた騎士はまさか自分に言われているとは思いもよらず、視線を若干さ迷わせた後、絞り出すように答えた。
「ど、どなたかと…お間違えでは…?」
野太い声が困惑を隠しきれないままそう伝えると、アンネマリーは「はぁ…お声まで素敵…」とトリップしているが、どこか冷静な部分で理解した騎士の言葉にすぐさま間違いを指摘した。
「いいえ…!いいえ、お声まで素敵な騎士様!あなた様の事ですわ…!「アン!」どうか今まであなた様という尊い存在を知らずに過ごした愚かなわたくしめに御名を拝聴する権利を頂きたいのです…!「アンってば!」そしてどうかその御名を呼ぶ許可を頂けませんでしょうか…?「アンネマリー!?」そしてわたくしと結「お願いだから聞いてアンネマリー…!!」
「はっ…!」
アンネマリーはロキシーに肩を揺さぶられながら呼ばれてようやく我に返った。気付けば騎士に縋るように触れており、彼が目を瞠って自分を凝視しているではないか。
アンネマリーの白い頬は瞬時に熟れたリンゴのように真っ赤に染められ、羞恥でアクアマリンの瞳が潤むと蚊の鳴くような声で呟いた。
「あ…わ、わたくし…なんてはしたない真似を…」
「…っ…!」
アンネマリーは自身が意中の騎士に縋りついている様を自覚し、目を伏せ頬を手で覆い身を縮めると羞恥で震えた。――なお、先ほどの発言については彼女の中でスルーされている。
先ほどとは打って変わって恥じらいを見せるアンネマリーの様子を目の前で見せられて、騎士は言葉を失った。騎士の顔はアンネマリーの羞恥が移ったかのように赤くなっていた。
彼の名前はゴンザレス・レリエイブル。
真面目で実直が売りの伯爵令息だった。そんな彼は今まで生きてきた中で、これ程パニックになったことは無かった。
今まで女性から自身に向けられる感情で一番良いものと言えば、せいぜい一騎士として頼りになる程度の感情を抱かれるだけで、外見に対して褒められることなど無かったからだ。実の親にさえ、顔について褒められた記憶など無かった。それが、目の前の儚げな令嬢の視線は、顔の整った同僚に向けられる女性たちの視線と同じく熱っぽい。
最初は緊張で隣の騎士と勘違いしているかと思っていたが、流石に縋るように言葉を紡がれては勘違いとは言及できない。よもやそんな視線で見られるとは思いもよらず、ゴンザレスは左右に立つ同僚に視線で助けを求めた。
(たっ助けてくれ…!どうしたら良いんだ…!?)
右隣の中世的な顔立ちの騎士はにっこり笑うと小さく呟いた。
「責任とって結婚しろ」
「?!」
何の責任を取れというのか、助けを求めたゴンザレスは意味が分からず視線で意味を問うたが相手は笑顔のままで埒が明かない。おまけに目が笑ってないように感じたので今度は左隣の同僚に視線で助けを求めた。
左隣に居た騎士は冷めた視線で小さく呟く。
「とりあえず名乗れよクソが」
「?!」
普段仲の良い同僚から吐き捨てるように告げられたセリフにショックを隠し切れないゴンザレス。しかし、そう言えば名を聞かれていたことに思い至り、視線をアンネマリーの方へ向けた。
「っ!?」
ゴンザレスが気持ちの整理を付けながら視線を向けると、何があったのか、アンネマリーはロキシーに縋るようにさめざめと涙をこぼしていた。まさかの事態にゴンザレスは硬直した。まさか自分が泣かせたのだろうか、と彼はますますパニックに陥り、再度両隣の同僚へ視線を向けたが顎をしゃくられるだけだった。
ゴンザレスは腹を決めると跪いてアンネマリーに声をかけた。
「…アンネマ「アンです」
ゴンザレスが声をかけた瞬間にアンネマリーは涙声で呼び名を訂正した。
アンネマリーの声が聞こえた騎士たちは一瞬空耳かと思ったが、はらはらと涙を流しながらもじっとゴンザレスを見つめる様子に何とも言えない気持ちのまま様子を見守った。
「…・・アン嬢?」
「ぐすっ…アン、です…っ」
愛らしい泣き顔のまま、どうあっても「アン」と呼ばせたいアンネマリーの強い意志にゴンザレスは屈した。ロキシーの顔は若干引いている。
「…アン…」
「はいっ…!」
「っ!」
ゴンザレスが名前を呼んだ瞬間、ぱぁっと花が咲き誇るような眩い笑みを零すアンネマリーに彼は言葉を失った。先ほどまで泣いていたのが嘘のように全開の笑顔を向けられて、ゴンザレスは自身の心臓がきゅっと縮まるような感覚に気づいて慄いた。
(命が危ない…!?)
ゴンザレスは人生で一度も恋と呼べるものをしたことがなかった。いつも恋の1歩も2歩も手前で相手から見向きもされないことを悟るからだ。次第に憧れすらも抱くことは無くなったために自身の身に起きた事象に理解が及ばず、心臓を撃ち抜かれたような痛みのような締め付けのような感覚に、ただ命の危険を感じた。
一方アンネマリーも恋をしたことはなかったが、自身の直感の元に愚直に思った。そうだ、結婚しよう、私の生涯の伴侶は彼しかいない、と。今まで直感に従って悪くなった試しが無いからだ。アンネマリーの中でゴンザレスと結婚することは既に決定事項であり、あとは書類と親への挨拶をしなければと瞬時に人生設計を計算しながらキラキラとした目でゴンザレスの言葉の続きを待った。
「俺…いや、私はゴンザレス・レリエイブルと申します…「ゴンザレス様…!なんて素敵なお名前…!」・・・・ありがとう、ございます…」
自身の名前を褒められるという初めての出来事にゴンザレスは戸惑いを隠せないまま礼を述べた。しかしそれが彼の運命を決定づけてしまったことをすぐさま理解することになる。
「まぁ…!お礼だなんて…婚約者ですもの…!当然のことですわ…!」
「「「「?!!?!」」」」
周囲から音が消え、アンネマリーの可憐な声だけが周囲にやたらと響いた。
「他人行儀だなんて思ってごめんなさい。でもゴンザレス様がどんな相手にも感謝を忘れないという素敵な方だということを再認識いたしましたわ。わたくし、ますますゴンザレス様を好きになってしまいました…!」
自己紹介しただけで婚約者にされてはたまったものでは無い。
だが恋する乙女もとい、しんと静まり返った会場で婚約者(仮)に流れるように思いを告げる可憐な妖精にケチを付けられる人間など居なかった。
ゴンザレスはあまりの事態に完全に硬直しているし、周囲の騎士はどうしていいか分からず唯一の良心、ロキシーに視線を向ける。周囲はそんなよくわからない空気に祝福した方が良いのか見守った方が良いのか困惑した様子で彼女たちを見ていた。
ロキシーは恐れていた事態が進行してしまったことにひたすら頭の中で高速に考えを巡らせていた。
今更アンネマリーに常識を説いた所できっと彼女の中では既にゴンザレスと結婚してしまっているだろう。もしかしたら想像の中で8代先の孫まで生まれている気配が濃厚だ。であるならばもうゴンザレスが断るという選択肢はかけらも存在しないしおまけにこの会場で注目を浴びているからもう二人は婚約しているという話は広まってしまうだろう。
ならば、自分が取るべき行動は一つ…!時間を稼ぎつつアンネマリーを速やかに持ち帰…連れ帰って会場の混乱を鎮めること…!
「アン…?」
「なぁに?ロキシー?」
「・・・・・」
無二の親友、アンネマリーの大変幸せそうな笑顔にロキシーは言葉を失った。
だめだこれは、ゴンザレスに腹を括ってもらうしかない。と改めて判断して、ちらりとゴンザレスに謝罪の視線を向けるが相手はずっと硬直している。これは好機だと相手が理解するより前に周りに理解させてしまおう、外堀を埋めきってしまおうとロキシーは決断した。
「アン、婚約おめでとう」
「ありがとうロキシー!」
「「「?!」」」
騎士たちの困惑した視線は完全に無視してロキシーは言葉を繋げた。
「でも彼は今仕事中だし、どうせなら素敵なプロポーズを受けたくない?」
「はっ…!!!」
完全にもろもろがふっとんでいたアンネマリーの様子に、ロキシーは若干死んだような目で続きを語る。やたらと『素敵な』を強調するのはアンネマリーの思考を誘導するためだ。
「こういう大切なことはきちんとした方が素敵な思い出になるでしょう?だからやっぱり特別で素敵な思い出を作るためには、二人でゆっくり考える時間が必要だと思うし、お互いの家族にもちゃんとご挨拶して素敵な関係を築くためにみんなで話し合う必要があると思うのよ」
「えぇ、えぇ…!そう、そうよね!さすがロキシーだわ…!」
ロキシーによる常識を幼子に言い含めるような物言いに、アンネマリーは目から鱗といった様子でこくこくと頷きそわそわしだした。完全に家に帰って速やかに諸々の手続きを済ませる算段である。
ロキシーは自身の作戦の成功を確信した。したが素直に終わらないのが、花も恥じらう恋する乙女、もとい興奮したアンネマリー16歳だ。
「ゴンザレス様、寂しいですけれどわたくしは二人の未来のためにお先に失礼させて頂きますわ。家の事はお任せください。お仕事頑張ってくださいませ」
「「「!!?」」」
跪いた状態で硬直したままのゴンザレスにすすっと近づいたアンネマリーは、ちょうどいい位置にあった頬へキスを送った。ゴンザレスのライフは既に0、完全にオーバーキルだ。
おまけに自分でしておいて目の前で頬を赤らめ「きゃっ」と照れた様子を見せた。完全に殺しにかかっているようにしか見えない。
それからまたすすすっと後ろに下がり照れ笑いでカーテシーを決めると、ロキシーに満面の笑みを向けてにこにこしながら会場を去っていった。
リア充爆発しろ的な視線を送っていた騎士もさすがにゴンザレスに同情して、そっと彼の肩を叩く。
途端にボンッと音がしそうな程に真っ赤になったゴンザレスはキャパオーバーにより倒れた。
どんな過酷な訓練にも音を上げず、たとえ高熱であろうとも倒れることなど無かった屈強な騎士、ゴンザレス・レリエイブル18歳。人生初の気絶は、可憐で儚げな妖精令嬢アンネマリー・ストレーナ16歳による好意の猛アタックだった。
周囲には38歳の間違いだろ、と可愛がり半分、冗談半分に言われていた彼はこの日を境に年相応の苦悩と忍耐を強いられるのはまた別の話。
作「人生で思い切りって大事デスヨネ。」
者「ウン、ワカルワカルー」
お読みいただきありがとうございました。