008
私が降りた地上界は、山だと今になって知った。
私の手には、花が握られていた。
それは、芙蓉の花。私の体を青い花びらが、包み込んでいた。
それと同時に、マグマが私の足下から勢いよく流れていく。
「花よ、私の思いに答えて」
私がそう願うと、両手には花がなにもないところから現れた。
真っ白な花、これはアリッサムの白い花だ。
白く小さな花が健気に咲いていて、私の腕の中に収まる。
花たちが、私の魔力を受けて光ると、私の背中に花びらが流れていく。
背中には、真っ白な羽根が生えた。
この魔法こそ、私の力『花魔法』だ。
花の女神である私は、花を使った魔法が使える。
何もないところから、花を作り出して魔法の媒体にする。
その媒体から、私は魔法の効果を得ることができるのだ。
空の上から、私はマグマをやり過ごしていた。
マグマの勢いは強いが、すぐに坂を流れて山下に流れていく。
「マグマの塊は、さほど多くはないのね」
空から、マグマの流れない高台に着地する。
近くをマグマが流れているのでまだ、このあたりの外気温は高い。
高台には、切り立った崖だけど道らしきモノが見えた。
「そうだね」
「アルラネは、この山を知らない?」
「亜族の住む母なる山、エムトレア」
「エムトレア?」神殿にある文献で見たことのある単語だ。
人族と亜族は、同じ世界に住んでいるが生活圏は異なる。
人族の生活圏は、『ワース平原』と言われる世界の三分の一を占める平野。
亜族の生活圏は、この『エムトレア山域』だ。
世界一高い山『エムトレア山』を中心に、大きな森や深く大きな湖、さらにはエムトレア山を囲むように連なる山脈などに、亜族の住処がある。
「あの石碑から、亜族の住むエムトレア山域を願った。
そしてたどり着いたのが、エムトレア山」
「じゃあ、ここが世界で一番高い山なの?」
「そう、そこは活火山」
「だから、マグマなのね」
高台から続く道を歩くと、道の先に何かを見つけた。
「何かあるわ……あれは?」
「集落だ」アルラネが、うれしそうな顔で集落の方に手を伸ばしていた。