006
それから二時間後、少し青ざめた顔の私は石碑の前にその姿があった。
神殿の地下にある不思議な空間は、雲が見えた。
隣にはアルラネと、エルムの姿がある。
風が強く吹いていて、私の長い髪がなびいていた。
石碑と呼ばれた、雲の下にも続いていた。
「カルラ、本気なのね?」
「ええ、私は知りたいの。どうやったらオークを救えるのかを」
わずか前日に神の運命を与えられた私。
オークも、オーガも知識として知っているけど実際に見たことはない。
だけど、私はオークを守護する女神になった。
オークを守護することで、私は成すべきことが決まった。
滅びに近づくオークを救済するしか、私の苦しみを止める方法はない。
それが親友のバブルも、行ったことだと確信ができたから。
「でも、地上は危険がいっぱいでしょ。
それに、カルラは武器を使った戦闘は苦手でしょ」
「まあ、魔法があるし。私にはこの花が」
そういいながら手に取りだしたのは、ピンクのガーベラの花。
どこからともなく取り出した花を、私はエルムに渡していた。
「カルラ……あたしを恨んでいないの?」
「どうして?」
「あなたのことを、二十四時間待たせたでしょ。
それだけじゃない、オークをあなたに選ばせて……」
「それは違うわ」
私は、エルムの言葉を否定した。
エルムは、なんだかしおらしく弱気になっていた。
「私は、ちゃんと自分で選んだ。
オークの守護女神になるのは、完全に私の意志。私の願い。
私は花を通して、彼らの声を聴いてしまったから」
「カルラ……」
「お前と違って優しいんだよ、カルラは」
なぜか、威張っているアネモネ。
それに対しては、アネモネの幼女のほほを引っ張るエルム
「あんたが、自信たっぷりに言うんじゃないんでしょ」
「ううっ、エルムはマジで嫌い」
ふてくされたアネモネは、すぐさま私の後ろに隠れていた。
「カルラ、地上界についてどれぐらいわかっているの?」
「文献では知っているけど、地上界の情報はあくまで文章だけでしかない。
しかも、それは事実なのか空想なのか、私にはわからない」
「上位神族ではないものね」
そうだ、私は下位神族だ。
特に戦闘面において、自信が全くない。
「私は、あくまで頭脳労働者だから」
「バブルよりも、武器の扱いが苦手なあなたに、地上界で無事に生き残れるのかしら」
「生き残れるわよ、多分」
なんとなくエルムには強がって見せた。
エルムには、弱い自分を見せたくない虚勢の気持ちが働くのだろうか。
「そろそろ、出発した方がいいわ。
ガイアのジジイに見つかると厄介だから」
「う、うん。そうね」
そもそも神族が地上界に行くことを、ガイアは認めていない。
でも、私は石碑に手を当てていた。
「じゃあね、エルム。何かあったら連絡するから」
「もう、いいから」
次の瞬間、石碑が光ると私の体を光が包み込む。
同時に、アルラネの体が揺らいでいた。
そのまま、私の体は石碑に吸い込まれるように消えていった。
それと同時に揺らめいたアネモネの体が、一瞬にして消滅していた。