004
天界の夜は、暗くはならない。
そもそも、朝とか夜とかの概念はなく、晴れと雨の概念もない。
天界自体が雲の上に存在し、常に太陽が照りつける世界。
だけど、決して暑いわけでもなく快適な気温で世界が推移している。
これも、絶対神ガイアの力によるものだろう。
そんな私だけど、『神の運命』を受けて、自分の神殿に戻ってきていた。
花の女神である私の住居の神殿は、花畑に囲ませていた。
その神殿のほぼ中央に、私はベッドで横になっていた。
だけど、その顔は、冷や汗と呼吸が乱れていた。
「ううっ、これが運命ね」
「カルラ、どうしちゃったの?」
心配そうなアルラネの姿が、病床の私から見えた。
「平気よ、体が重いだけ」
「でも、随分と衰弱しているし」
「そうねぇ、呪い……かしら」
私は普通の病ではないことを、なんとなく理解していた。
そもそも、天界に住む神たちは不老不死だ。
おまけに病にかかりにくい、強い体をガイアに作ってもらった。
それだけに、運命後の異変は明らかにおかしかった。
「やっぱり、ハズレなのかなぁ」
「どうしてオークなんか、選んだの」
アルラネが、憮然とした顔で私に言い放つ。
「最後に、弱っているオークを見てしまったから」
「それって?」
「うん、私が見えたかすかな残像」
それはどこかの花だろうか。
その花から見える私の視界には、オークが傷つき助けを求める声が聞こえた。
「オークが映ったの」
「だからといって、カルラは選べたでしょ。
オークなんかを、無理に選ばなくても……」
「女神が、そんなのではダメよ」
私はきっぱりとアルラネに言い返した。
弱弱しい私だけど、それは迷いがなかった。
「どうして?」
「確かにスクルド様の見る未来視には、間違いがないわ。
それは、誰もが認める。絶対神ガイア様だって認めているものだから。
でもね、女神は世界を、地上界を見る力が必要なの。
周りを見る力が、女神にとっては大切なのよ」
「カルラ……」
私は、それでも胸が苦しい。
「それに、私の体に怒る異変。
これは、亜族のオークに危機が迫っている、あるいは起こっていることなの。
守護する女神は、守護される亜族と一蓮托生になるのね」
「カルラ、でもそれって」
「うん、私はしばらく苦しめばいい。
この苦しみは、きっとバブルが体験したものだから」
それは親友が、守護した亜族も同じ現象が起こったことに他ならない。
だとすれば、私はそれを望んで選んだのかもしれない。
「それでも、カルラは苦しむ必要はない」アルラネは私を励ます。
「あら、やっぱりあなたはオークを選んだのよね」
そんな神殿に、一人の来客が見えた。
それはショートヘアーの強気な女神、エルムが私の神殿に姿を見せていた。