003
彼女の名前は、エルム。山の女神だ。
ブラウンのロングシャツに、緑色のハーフパンツ。
ボーイッシュなエルムは、私の後ろにいたガイアを見ていた。
「ガイア様、さあ『神の運命』をあたしに与えてください」
「強気な女よ。おぬしはなぜ遅刻をした?」
ガイアが怒るのは無理もない。
予定された時刻から、二十四時間遅れてエルムが現れたのだ。
謝罪もなく現れたエルムに、ガイアが憤るのも無理はない。
「遅刻?そうねぇ、遅刻したいかも」
「ならばまずは謝罪を」
「何か隠しているでしょう、ガイア様」
エルムはそれでも、一歩も引かない。
吊り上がった眼で、ほぼ同じぐらいの身長のガイアをにらんでいた。
「ちょっと、エルム!」
「カルラは黙っていて。あなたはバブルがおかしな目に遭って悔しくないの?」
「バブル……」
それは私の親友でもある『泡の女神バブル』だ。
バブルは、私たちより先に『神の運命』を受けている。
だけど、そのバブルはおかしくなった。
『神の運命』を受けて以来、体がボロボロになり疲弊していった。
話では天界の神が普段はほとんど接点のない地上界に、勝手に行ったという話もある。
「彼女のことは?」
「スクルド様に、見てもらった未来視。
バブルがおかしくなる未来を、あなたは知っていた」
「ああ」
「だとしたら、あたしたちがおかしくなる未来を」
「見えておる」
ガイアは、落ち着いた口調でエルムに言い放つ。
その言葉に、私は当然疑問があった。
「ならば、私たちも『神の運命』を受けて、おかしくなるのですか?」
「可能性はある。だがこれは天界の神には、避けては通れぬものなのだ」
ガイアは、そこに対して一歩も引かない。
「ではあたしたちに、死ねというのですか?」
「役目を果たさねば、天界にはいられぬ」
「そう」ガイアは天界では絶対だ。
私もエルムも、ガイアに作られた存在だ。
その存在は、圧倒的で抗うことは絶対にできない。
強さも、魔力も、私たちとは比べ物にならないのは知っている。
それでも、エルムは叫んでいた。
「あたしに先に選ばせなさい。あたしは死にたくないから」
「おぬし、スクルドのところに行っていたのだな」
ガイアの言葉に、エルムは堂々とガイアを見ていた。
それでも、最強の絶対的な創造神に一歩も引かない。
「ええ、行っていたわ。あたしはそこで知ったのよ。
あたしが苦しまないようにするための選択を」
つまり、それってガイアが言った二つの亜族のいずれかが外れということだろう。
それでも、ガイアは首を横に振っていた。
「遅れたおぬしに選択権はない。選ぶことができるのは、時間通りに来たカルラだけだ」
「なんで、カルラだけなのよ。あたしが」
「だまらっしゃい!」
ガイアが激しく怒鳴りつけた。
その大きな声に、強気だったエルムも否定できなかった。
「遅刻をしたエルムに権限はない。
さあ、カルラよ。おぬしが選ぶがいい。『神の運命』を。
『オーク』と『オーガ』、二つの亜族のいずれかの守護をするのかを」
ガイアは再び、私に迫ってきた。
隣ではエルムが私のほうを、強くにらんでいた。
(どちらかが正解で、どちらかがハズレ)
未来視のできるスクルドの運命は、外れることがない。
私は深刻な顔で、数秒間考えていた。
脳裏によぎるのは、水色のミドルヘアーの女の顔。
私の親友バブルの顔が、よぎっていた。
「私が選ぶのは……」
そんな中、私の頭の中に声が響いてきた。
「助けてくれ、僕はまだ死にたくない」
それは少年の声だ。聞いたことのない声が私の頭の中に直接響いていた。
まもなくして、私の頭の中にある映像が浮かび上がっていた。
それは、私が書物でしか見たことがないオークの姿が見えていた。