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序章-4:前世との対面

 僕は困っている。そして混乱している。

 目の前には大きな川がひろがっていた。とても綺麗で、穏やかな流れだ。

 その中からしぶきが上がり、そしてずっと僕の前に漂っている。


 僕は父さんの話に興奮して、いつのまにか眠っていたらしい。それは分かる。そして、ここは夢なんだと思っていた。暗いところにいて、その暗さに怯えていた。怯えていたら明るくなってホッとした。

 でも僕は、ホッとするよりも、さっきまでのワクワクやドキドキが欲しい。夢なのだったら、行ったことのない都に行ってこのワクワク、ドキドキでいっぱいになりたい。でもそんな夢は見られない。

 夢の中は何も出来ず、つまらない気持ちになった。それも無くなったら、早く終わってほしくなった。でも終わらない。これいつまで続くの?

 ここまでになると夢ではない、知らないどこかだと分かってきた。

 だんだん、寂しくなってきた。泣きたくなってきたと思ったら、もう泣いていた。両親のところに戻りたいと泣き叫ぶ。


 「すまない、待たせた。」

 「え?」

 声が聴こえた。

 「こっちで色々試していたのだ。“こちら”も初めてで戸惑っていた。ああ、これで安定した。」

 「えっと…」

 声がするけれども、相手の姿は見えない。姿が見えなくても声が聞こえるだけで、寂しさなんかどこかに行ってしまった。

 「ふむ、次はこうかな?」

 声の人が何かすると思ったら、すでに大きな川が広がっていた。聞こえるもの、見えるものに対して、僕はどう感じたらいいのか分からなかった。

 そんな感覚に戸惑っていたら、声の人が柔らかく微笑んだ気がした。姿が見えないのに微笑んだ気がするって、なんなんだろう?

 「姿は…そうだな、こんなものか?」

 それが声の人だと分かった。

 でも、水?しぶき?がしゃべってるっ!

 しばらく眺めていたけど、嫌な感じはしない。僕に悪いことをしない、そう信じられた。

 「“こちら”は伝えたいことがある。その前にたずねたいことにこたえよう。」

 僕の質問に答えてくれるってこと?

 なら、最初に聞くことは決まっている。


 「あなたのお名前は?」

 「オナマエ?それはなんだ?」

 「…………。えっと、ナンダさん?」

 「“こちら”は、オナマエというのが何かと聞いている。」

 答えてくれると思ったのに、逆に質問が返ってきた。困ったな。

 「ああ、そういうことか。”こちら“の声をきけるからと、急いていた。」

 声の人はまた何かするようだ。

 「今は未熟なようだから、無理に話そうとしないで、思い浮かべるだけでいい。」

 言われるままに、思い浮かべる。声の人、名前はなんというのですか、と。

 「呼称をたずねていたのだな…。呼称は無い。」

 あ!伝わった!ってそうじゃない。名前無いの!?

 「そうだ。」

 ………。どすればいいの?最初の質問で失敗してるみたいなんだけれども。

 まさか名前がないとは思わなかった。僕はちゃんと言われた通り、言いたい事を思い浮かべた。その答えは全く想像できないものだった。

 「今まで呼称が必要で無かったのだ。”こちら”を呼ぶものはいないのだ、ここではな。」

 じゃあ、僕が呼びたいように呼んでいいのかな?

 「よかろう。我らの安定のために。呼称を用いればよい。」

 声の人の雰囲気が変わった。なんかしぶきが大きくなったり、ちっさくなったりしている。

 「仕方なかろう、“こちら”も未熟。初めて呼称を得るのだ。」

 僕と言葉がなくても、思い浮かべるだけで話ができてすごいのに。僕は声の人に、今まで見てきた大人の人たち以上の何かを感じていた。

 でも、声の人は未熟なんだって。よく分からない。

 「問答が本筋から外れている。早く呼称を与えなさい。」

 言われて、僕は声の人の名前を考え始めた。


 ……。バーリム。これが思い浮かんだ。

 「バーリム。よかろう。“こちら”を呼称する時はこれを用いればよい。」

 良かった。嫌じゃ無かったみたい。しぶきが大きくなったり、ちっさくなったりしている。


 「呼称については、もうよいな。次に移ろう。」

 次、と言われたが、何だろう、すごく疲れた。

 「消耗してしまったか。“こちら”と安定するまで、何をするにも過剰だったからな。」

 うん。すごく寂しかったりして、不安だった。

 「では“こちら”から、順に伝えよう。今からは聞くだけで、何も思い浮かべる必要はない。まず両親の元には戻れるので心配いらない。」

 戻れるんだ、よかった。

 「次は、“こちら”が伝えたいことについてだ。」

 バーリムが僕にすがるように支えながら、それについて話してくれた。

 「まず、事実を先に伝える。”そちら“は、バーリムと呼称する“こちら”の一部であり、“こちら“がある望みを託した。」

 えっっ!?

 「おのずと機会が訪れる。”そちら“はそういった機会に恵まれている。今はこの事実だけを知ってほしいのだ。急いてことを成すことは不要だ。」

 いつか分かるということらしい。

 「これで”そちら“と”こちら“の要決は果たされた。今は戻って、養生し来る時を迎えよ。」


 そう言って、バーリムは話を終えた。伝えたいことは色々あるみたいだけれども、それでも僕を大切にしたいみたい。

 僕はバーリムの言ったことに混乱していたけれど、その言葉を受け入れていいんじゃないかと思った。


 「無事にもどれそうだな。」

 おのれの一部、いや。おのれの唯一で、全てである望みが、今、新たな生の道のりに戻った。

 おのれが今、つながれるのは“そちら”だけ。

 此の度、新たな道への入口は、おのれの全てを通さなかった。納めきらなかった。入口の向こう側、“こちら”ともに、おのれがいるというのは、今までは無かった。


 今、道がひらかれる。

 かつて多くが求め、多くが辿った道。

 しかし、今は多くがその道を知らない。

 多くなきは道を見つけても、道半ばまで。

 それでも、“こちら”は行きたいのだ。

 そのための種が、今、芽吹いた。

ご拝読いただきましてありがとうございます。

一気にスピリチュアルな世界観が出てきました。読者の方々に受け入れて頂けるかどうか未知数の中、手探りでさせて貰いました。

この作品のテーマは、ある存在が転生を重ねると行き着く先はどういうものなのか、です。

転生ものを楽しませていただいてる自分が、感じた疑問が原点です。

多くの皆さんも仰られますが、表現する難しさに、自身の未熟を思うばかりです。

それでも表現したいものを、何とか伝えられる様にまとめました。

お付き合いいただければ幸いです。

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