第17話 友達
俺たちは待ち合わせのシックザールという喫茶店に時間より少し早く着いた。席は入口から離れた一番奥の死角になる角の席に陣取る。ここに陣取る事で相手を見極めるのが狙いだ。万が一罠だったらすぐに裏口から脱出する。相手はネットで知り合った奴なんだから信用はできない。俺は何があっても美波を守らないといけないから慎重に臨まないといけないからな。気を引き締めよう。
約束の時間になった時、店の扉が開き呼び鈴が鳴った。
その音に俺は反応し、店に入ってくる人物を注意深く見ると凄い美人が入って来た。
美波と同格の超絶美女だ。歳は24ぐらいだろう。髪型は肩に少しかかるぐらいの薄い茶髪のセミロングだ。瞳は美波と違っておとなしそうではない。かといってキツそうというわけでもない。芯が通った強い眼をしている。
正直、俺の中では美波を超える美女はいないと思っていたから驚いた。この2人が人類の最高点だと思う。それぐらいの美しさだ。
美女がこちらに気づき怪訝な眼でこちらを見ている。
なんだろう?俺みたいな奴が美波と一緒にいるからか?
美女がこちらへと近づき声をかけてくる。
「ナミさん…でしょうか…?」
「はいっ!メープルさんですね!」
美波が元気よくメープルさんに答えるが、なぜかメープルさんの表情は曇っている。
「1つ…聞いてもいいでしょうか?」
「なんでしょうか?」
「どちらが主人プレイヤーですか?」
主人プレイヤー?あー、2人でいるって事は片方が奴隷だと思うよな。まさか彼氏が一緒に来るなんて考えるわけないもんな。でも美波は奴隷じゃないから俺は主人ではないぞ。でも”赤い糸”で結ばれてるからな。一応俺になるのかな?美波もこっちを見てるしそういう事にしておくか。
「一応、僕になりますね。」
「はぁ…やっぱり。」
えっ、なに?ため息つかれたんだけど。
「私からお呼び立てしたのに申し訳ありませんが今回の件は無かった事にして下さい。」
「えっ、どうしてですかっ!?」
「ちゃんと交通費などの迷惑料はお支払い致します。」
「そんなの要りませんよ。理由を教えてくれませんか?僕たちの何がいけなかったんでしょうか?」
「…女の子を奴隷にするような人と取引をしたくないだけです。それに私は男性が嫌いです。男は女を喰いものにする。自分の欲を発散するだけの道具に使う事しか考えていない。本当に気持ち悪い。男がいるとわかっていれば来なかったわ。」
うおぉ…ゴミを見るような目で俺を見ている。こんな美人にそんな目で見られるのは辛いな。
「理由は以上です。失礼致します。」
メープルさんが財布から金を取り出してテーブルに置き立ち去った。最後までゴミを見るような目で俺を見ながら。
俺の心が完全に折れそうな時だったーー
「ちょっと待って下さい!!」
美波が怒りを露わにして椅子から立ち上がっていた。
おぉ…いつもの可愛い顔に怒りの波動が混じっている。これは怖いな。こんな怒った美波は初めて見た。
「タロウさんはそんな人じゃありません!!私の事は何を言われても構いませんけどタロウさんを悪く言われるのだけは我慢なりません!!」
立ち去ろうとしたメープルさんが足を止めて美波へと向き直る。彼女はすごく不思議そうな顔をして美波の事を見つめている。
「そもそも私は奴隷じゃありません。ううん、奴隷に堕ちかけた私をタロウさんが救ってくれたんです。自分のアルティメットを犠牲にしてまで…。」
「えっ…?アルティメットを犠牲にって…まさか、この前のバディイベントの後に通知にあった奴隷を解放した人って…!」
「私たちの事です。確かに男の人は性的な事しか考えていません。私もそういう人をたくさん見て来ました。現に私が負けた相手は私の事を性奴隷にしようとしてました。あの時の私は絶望しか無かった。怖くて堪らなかった。でも…この人が救ってくれたんです。私を助けてくれたんです。だから…タロウさんを悪く言わないで下さい!!」
美波が目を潤ませながらメープルさんにそう言い放った。その真っ直ぐな眼差しにメープルさんは心を打たれたのだと思う。メープルさんの表情が柔らかくなるのが見えた。
「ごめんなさい…。私は勝手に決めつけていました。あなたのような男性もいるんですね。ナミさんの言葉で気づかされました。本当にごめんなさい。」
メープルさんが深々と頭を下げて謝罪をする。
「頭を上げて下さいっ!わかって頂けたのならいいんです!ねっ?」
「ありがとうナミさん。あの通知を見た時に解放した人に会いたいって思っていたの。どんな人なんだろう。奴隷をアルティメットを捧げてまで解放するなんて普通はできない。いつか会えたらって思ってたわ。でもまさか本当に会えるなんて…。それなのに…決めつけてしまって本当にごめんなさい。」
メープルさんが俺は向き直り再度頭を下げる。
「いや、いいですよ!もう謝るのはやめましょう!何とも思ってませんから!」
「ありがとうございます。あの…もし、許していただけるのならトレードをさせて頂けませんでしょうか?こんな事を言えた立場ではないのは重々承知しておりますが、信頼できる方とお取り引きをしたいと考えております。」
「許すも何もないですよ。こちらこそぜひお願いします。謝るのは本当にやめましょう。ねっ!」
「はい、わかりました。」
おぉ…笑顔がすごい可愛いぞ。さっきまであんな目で見られたからギャップが半端ないな。
「僕は田辺慎太郎って言います。よろしくお願いしますメープルさん。」
「私は芹澤楓です。こちらこそよろしくお願い致します。」
「あっ!だからメープルさんなんですね。ふふっ。私は相葉美波ですっ!よろしくお願いしますっ!」
「あ。美波だからナミさんなんですね。ウフフ。美波ちゃんって呼んでもいいですか?」
「もちろんですっ!私も楓さんって呼んでもいいですか?」
「もちろん!美波ちゃんは20歳ぐらいかしら?学生さん?」
「はいっ!20歳の大学2年生ですっ!」
「私は24歳の社会人よ。若くて羨ましいわ。」
「楓さんだって全然若いじゃないですか!それにすごく綺麗ですっ!見惚れちゃいそうな美しさですっ!」
「ウフフ。ありがとう。美波ちゃんだってすごい可愛いじゃない。」
美女2人がキャッキャしている。最高に絵になる光景だ。写真撮りたいな。
「あのっ、楓さん!もし楓さんが嫌じゃなかったらお友達になってくれませんか!?私…友達がとても少なくて…楓さんはすごく良い人だし、波長が合うから仲良くなりたいですっ!」
「私でいいの…?さっきあんなに酷いことを田辺さんに言ったのに…?」
「楓さんはわかってくれましたっ!だからお友達になりたいんですっ!!」
「私もね…すごく、すごく友達が少ないの。だから美波ちゃんにそんな風に言われて凄く嬉しい。」
ハタから見てると百合っぽいけどルックス限界突破してる2人だから尊さしか感じない。もはや2人の空間からは後光さえ見えるぞ。俺も友達になりたいって言ったらダメかな。またゴミを見る目で見られちゃうかな。
「タロウさんっ!楓さんとお友達になっちゃいましたっ!」
「良かったね。俺もなっちゃダメかな?」
「「えっ!?」」
えっ?何この空気。俺はダメなのか。ブサイクお断りなのか。分際を弁えろって事なのか。もう茨城帰りたいな。
「私としては一緒にお友達になったとばかり思ってましたけど…?」
美波は優しいな。俺みたいなのでも受け入れてくれるのか。
「あの…いいんですか…?あれだけ酷い事を言ったのに友達になってくれるんですか?」
え?そんな事?どうでもいいよそんな事。美女ならウェルカムさ。
「芹澤さん。そんな事本当にもういいですから。芹澤さんが嫌じゃなかったら俺と友達になってくれませんか?」
「もっ、もちろんです!私の事は楓って呼んで下さい!」
なんだこの人、反応が可愛いな。見た目はクールな美人なのに。ギャップがヤバイぞ。
「俺の事はタロウって呼んで下さい。親しい奴はみんなそう呼びます。」
「わかりました。ウフフ。友達が2人もできました。今日は良い日です。」
そう言いながら楓さんは照れ笑いをしている。マジで可愛いなこの人!
「改めましてよろしくお願いします、楓さん。」
「よろしくお願いします、タロウさん。」




