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告白と未来

 警察に行くと、私の打撲の跡を見せて欲しいと言われた。私はもう抵抗することなく、素直にお腹にある打撲痕を見せると、婦警さんが

「痛かったね。悲しかったね。」

と、そう言って、私を抱きしめてくれた。ポロポロと、涙が溢れ出た。ああ、私は辛かったんだ。お父さんを愛しているからと、逃げ続けていたんだ。でも、これでやっと私は救われる。幸せになっても、いいんだ。もう昔の傷から解放されていいんだ。そう思うと、なんだかぷかぷか宙に浮いているかのような心地がした。これを安心、と呼ぶのだろうか?

「なにがあったか、聞いていい?」

竹上くんと山田くんが私の目を見つめながら言った。今度こそは、と、私は椅子に座りながら口を開いた。

「昔ね、お母さんが出ていったの。」

昔のことを頭のなかで思い浮かべながら話し出す。

「月の綺麗な夜だった。」

大嫌いな月。母を奪ったものに見えてならなかったから。

「お母さんは、愛に生きるのと言って、出て行った。」

その時、私は学んだんだ。感情に任せて生きてはいけない、と。

「それから、お父さんは変わった。」

きっと、お母さんがいなくなって、寂しかったんだと思う。

「私に暴言を吐くようになって……私に暴力を振るうようになったのは、ほんの最近。」

痛むお腹を撫でながら話す。今まで私は結構苦しんで来たつもりだ。でも、文にすればこんなにも短いのか。なんだか少し悲しい気持ちになった。

「おかしいとは思ってた。」

竹上くんが私に一歩近付きながらそう言う。

「お医者さんが、頭の傷は1回ではなく何回も打ち付けられて出来た傷だって言ってたし。」

すでに包帯の取れた頭。包帯が取れた時は、お父さんが私に暴言を振った証拠が消えたからって、少し嬉しかったっけ。

「いじめが終わった後も、頬が腫れてたしね。あれ、お父さんにやられたんでしょう?」

ふふっと、小さく笑いながら頷く。まるで探偵みたいだと思ったから。私が思っていることを言い当てたり、違和感に気がついたり。本当によく見ているものだ。

「山田くん。御両親がお迎えに来てるよ。」

扉の向こう側から女の人の声が聞こえてくる。おそらく婦警さんだろう。

「分かりました。今行きまーす。」

山田くんは婦警さんにそう答えると、残念そうな顔をしながら

「じゃあ、行くね。」

と言って笑って、部屋から出ていってしまった。

「竹上くんってさ。」

足をぶらぶらさせながら竹上くんに話しかけると、彼は私を見た。

「よく、人のこと見てるんだね。」

下を向いたまま笑う。もう、笑うのが癖になってしまっているようだ。

「……好きな人だから、見てるんだよ。」

えっ、と、顔を上げる。好きな人?私が?

「ねえ、笑ってよ。」

彼は笑っていた。けれど、その笑顔はどこか悲しそうだった。

「それ、心からの笑顔じゃないでしょ?気付いてるよ。」

山田くんが言っていた。竹上くんに教えてもらったって。竹上くんは、見ていたんだ。ずっと、私を。そして、気がついたんだ。私が無理やり笑っていると。

「ねえ、笑ってね。今は笑わなくていいから。」

彼が私の隣に座る。心音がだんだん大きくなっていくのがわかる。

「ねえ。」

耳元でささやかれ、顔が赤くなっていく。

「好きだよ。」

ギュッと、目を瞑る。なんだか少し、怖く感じた。

「平山さんは?」

私は。私はどうなのだろうか?ドキ、ドキ。この音が、竹上くんのことを好きなのではないかと告げている。それに、どうしてだろう?今まで竹上くんと過ごしてきたときのことを思い出すと、幸せな気分になる。これは、友達だから?いや、違う。好きだからだ。だから、恥ずかしくて2人きりの時竹上くんの名前を呼べなかったのだ。だから、「彼」と呼ぶことで逃げていたんだ。私も、好きなんだ。竹上くんのことが。彼のことが。

「……き。」

小さな声で呟く。彼は

「え?」

と言って、私を見た。何度も言わせないで欲しいと思いながら彼の目をしっかりみて、もう一度告げる。

「好き。竹上くんのことが。私も、好き。」

顔が真っ赤になっているのがわかる。けれど、そんなこと気にはならなかった。竹上くんも顔がだんだん赤くなっていく。

「え、え……。」

動揺している彼が、可愛らしく感じた。これが恋という感情なのか。このドキドキと、愛おしさが、恋という感情なのか。

「ひ、平山さん。」

「なに?」

愛おしい彼は顔を真っ赤にしながら私に手を差し出した。

「俺と、付き合ってください。」

私は竹上くんの望む心からの笑顔で彼の手を握り返した。

「よろしくお願いします!」




 大きな音を立てながら、掃除機をかける。これももう古いから、もう少し静かな音の掃除機に買い替えたいものだ。

「え?」

タンスの裏に、何かが挟まっているのが見えた。なんだろうと掃除機を止め、手に取る。

懐かしい。中学生の頃つけていた日記だ。

「それ、なに?」

信二くんが聞いてくる。私はページをめくりながら

「日記。中学生の頃つけてたの。」

中学生の頃といえば、旦那さんの信二くんと出会った頃だ。

「ああ。懐かしいな。」

慈しむように、日記帳を撫でる。それを見た信二くんが焼きもちでも焼いたのか、不機嫌そうな声で

「なんでつけてたの?」

ときいてきた。信二くんのそばによりながら答える。

「私が生きていたと言う証を、残せたらなと思っていたの。」

私がそう言って笑うと、信二くんは私の頭を撫でながら

「なら、もうそれは必要ないな。」

と言った。私が

「なぜ?」

と尋ねると、信二くんは

「今はあるだろう?俺らの生きた証が、ここに。」

と言って私の頭を撫でた。幸せな気分に包まれる。今の私は、妊娠しているのだ。

私は日記帳を、ゴミ箱の中にポイッと放り投げた。今までありがとう。あの頃、私の心の支えになってくれていたのは友達だけじゃなかった。きっとこの日記帳も、私をささえてくれていたのだ。

今ではもう遠いあの、夏の日々に。

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