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愛の共鳴  作者: MV E.Satow maru
第1楽章 2016年
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2016年9月 平愛美

 愛美の記憶は事故が起きた直後に途絶えている。愛美も怪我をしたけど死ぬ事はなかった。


 何があったのか教えてくれたのはお母さんだった。愛美が病室で目覚めて病室からいろんな機械が減っていき、愛美の体に貼られていたガーゼや包帯類があらかたなくなった頃だった。


「お母さん、事故があったんだとは分かるんだけど、他のみんなは大丈夫なの?」

「愛美は今は心配せず体を治して。先生はあと2日で退院できますよって」


 お母さんは目を合わようとせずカーテンを開けたりした。


「お母さん。祈里は?」


 祈里は愛美の中学時代からの親友。家族ぐるみの付き合い。お母さんは愛美の近くに来て顔を覗き込んできた。


「祈里ちゃんの他に10人の人達がね、亡くなってそれで」



「お母さん、教えてくれてありがとう。……ちょっと一人になりたい」


「分かった。ソファーのあるところにいるから」

そういうとお母さんは小さなポシェットを手にして病室を出て行った。


 愛美は嗚咽して泣いた。本当につらいとこんな泣き方をするんだというのが発見だった。


 愛美は数日で退院となってあとは通院してリハビリという事になった。 


 警察の人が家に事情聴取に来て席配置など確認された。担当は椿つばきさんという30代ぐらいのショートカットでシュッとした女性刑事だった。


 家のダイニングテーブルにはコーヒーが3つと警察のICレコーダーが並び、お母さんが隣で心配そうに愛美の様子を見ていた。


「……いろいろ細かい事を聞いてごめんなさいね」と椿さんが言う。

「いいえ。お仕事でしょうから」


愛美は手元のコーヒーカップを見つめた。病院からこの日までいろんな所で聞かされた断片は概ね椿さんの事情聴取の中ではっきりとした。


 愛美は部屋に戻って一人物思いにふけった。


 祈里はバスの車体が壊れて当たりどころが悪く死んだ。

 通路側なのに死んだ。

 窓側だった愛美は大丈夫だったのに。

 何故祈里は助からなかったのか。


 リハビリを終えた愛美は10月前に学校へと戻った。そこで祈里のお母さんの事を聞いた。


 祈里のお母さんは祈里がどんな子であったか新聞取材には応じていて毎朝新聞が記事を載せていた。デジタル版で愛美も読んだ。祈里の美点もちょっとした欠点も描かれたいい記事だった。お母さんは祈里という子がいた事を知ってもらいたかったのがよく分かった。なのに。


 噂話が大好きなクラスメイトが珍しく寄って来て愛美の前の椅子を引いて座った。愛美と彼女はお互いに嫌っている間柄だと確信していた。なのに寄って来た。何か餌を見つけた猛禽類みたい。


「ねえ、平さん。天本さんの話聞いてる?」

「祈里のこと?何の話?」

「天本さんのお母さんがね」


 なんでも学校の先生方や吹奏楽部の保護者を中心に祈里のお母さんが取材を受けた事を悪く思う人がいて「取材する方が悪いけど天本さんもおかしくない?」といった批判の陰口が出ていた、らしい。

最近のハゲワシは女子の格好をしてあまつさえ言葉を話したりする。


「平さんはどう思ってるの?」


ハゲワシはやけに嬉しそうに聞いて来た。愛美は答える気になれなかったのでそっと首を横に振った。ハゲワシは愛美が何も言う気がないと知って「つまんない奴」と捨て台詞を吐くと立ち上がってこれ見よがしに大きな音をさせて椅子を戻した。そして次の獲物を求めて去って行った。


 吹奏楽部は休止状態になった。仲間が11名も亡くなったのだ。顧問の先生にも残った部員にも続ける気力はなく東関東大会への出場は辞退した後しばらくしての決定だった。


 フルートの個人レッスンを受けるのを再開した愛美は顧問の先生に頼んで放課後の音楽室利用を許可してもらった。家での練習はちょっと厳しいものがある。そんな愛美を見て吹奏楽部でも練習熱心な1,2年生が数名同じように学校で個人練習をするようになった。


 ただ吹奏楽部の部活として戻ることはなく、翌年度はウィンドアンサンブル同好会として届け出て音楽愛好者の練習の場としていく事になり、愛美が初代会長になった。互助会みたいなもの。誰かがまとめなきゃいけないからなっただけ。惰性だった。

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