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ゾンビガチャSSR

 赤司は村人の希望者だけをゾンビにして、試験的に働かせる。他の村人は家に帰る。まだ早朝だ。


 そして、ペガサスがゾンビにした生物を呼び寄せる。当たりがあるかもしれない。


 そして、30分後。

「大当たりじゃねえか」


 赤司は爆笑した。魔物数体と人族が2人。

 一人は恐らくドワーフ。低い背に立派な髭。筋肉質の体。イメージ通りのおっさんだった。

 そして、もう一人は赤司をいじめていた杉野だった。


 赤司は杉野のチートが欲しかった。だから、いつか杉野とは因縁の劇的なバトルがあると思っていた。しかし、こんな実験ついでに獲得されるとは、恥ずかしい奴だ。


 杉野だけゾンビから従者にする。


「ん?なんだ?」


 杉野は状況を呑み込めないでいた。早すぎる何かに襲われ、気付いたら自我を失っていたのだ。


 赤司はゾンビドワーフに耳を塞ぐように命令し、杉野に話し掛ける。


「よお、杉野。俺だ。赤司佐久真だ」


 杉野は理解が追い付かない。杉野は既に複数の転生者と出会っている。その中で顔が変わっている者などいなかったのだ。


 赤司は状況を察する。


「俺のチートは顔を変えることが出来る。そして、魔法でお前を操っているんだ」


 赤司は嘘を付く。その方が話が早い。


 杉野は相手が元格下の赤司だと気付き調子づく。


「あ?赤司の分際で何を偉そうに。調子に乗るな」

「ひざまずけ」


 赤司は殴りかかってきた杉野をひざまずかせる。


「てめえ、ふざけんな。ぶっ殺すぞ」


 赤司は杉野の罵倒に安堵した。

 良かった。これで、杉野を人道的に扱わなくて済む。


 杉野のチートは『地球工学知識』。あの、地球の物の材料や作り方が完璧に分かるという、超便利チート。

 しかし、戦闘力は皆無。大方、地球の武器を大量生産して、軍隊雇って無双。そんな考えだったのだろう。


 なるほど、だから、ドワーフか。自分では作れずに、手先が器用なドワーフを攫ってきたのだろう。

 カモがネギしょってやって来たな。


「杉野、俺の質問に正直に分かりやすく答えろ。余計な事も言うな」


 杉野が無言で睨む。


「そのドワーフは何だ?お前のチートについては把握している。説明は不要だ」


「マシンガンを作ろうとしたが、俺の技術では無理だった。だから、ドワーフを攫ってきた」


 予想通りだった。安直な奴め。


「で、お前じゃ勝てないだろ?どうやって攫った?」


「青木と一緒だった。青木に戦わせた」


 青木は杉野の腰巾着だ。チートは思い出せない。つまり、警戒に値するものではない。


「青木は今どこ?」


「知らない。俺やドワーフが襲われた後、一人だけ逃げた」


 人望なくて笑ってしまう。

 杉野が睨むが、声は出せない。


「じゃあ、運が良ければ、最後の質問だ。俺が知っていた方が良い情報ある?」


 杉野が焦った顔をする。どうやら彼にとっては運が悪かったらしい。


「数日以内に四人でこの村を襲う予定がある。だから、青木はその下見として近くに来ていた。俺もドワーフを襲うついでだったしな」


「で、下見は出来たのか?あと、目的は何だ?」

 赤司は焦った。見られていたのなら、自分がゾンビだとバレた可能性がある。


「いや、下見の前に襲われたから、失敗した。目的は……、四大侯爵家が勇者や転生者を集めている話は知っているか?」


 赤司は安心し、敵の正体を落ち着いて考察する。


 赤司は異世界予備知識と杉野から聞いた情報を比べても矛盾はないと判断した。 


 四獣連合国は、中心に王都を構え、それ以外の土地は東西南北でほぼ四等分されている。その土地をそれぞれ治めているのが四大侯爵家である。


 四大侯爵家はその土地の守護神である、玄武、朱雀、青龍、白虎と契約している。つまりは、一族だけで神話級の戦力を有しているのだ。国でも絶大な権力を誇る。


 だが、侯爵家は神獣を使役しているわけではない。実際には協力関係に近い。人間が神獣に貢物をする代わりに、その土地の人間を襲わない。そして、何者かが縄張りに入ってきた場合は協力して排除する。


 つまり、四大侯爵家は防御力だけ神話級であり、攻撃力はゴミ。侯爵家同士で揉め事を起こそうとしても、自分の陣地でしか勝ち目が無い。必死に挑発して相手を誘き寄せるという方法しかない。


 勿論、そんな挑発に乗る馬鹿はいない。


 だから、侯爵家は勇者や転生者を集めて、攻撃力を補強しようとしている。


 数十人の転生者が一気に現れた事により、四大侯爵家や王国はお祭り状態らしい。現在は王国が人間の軍隊により、最も強大な戦力を誇っている。しかし、四大侯爵家のどこかが転生者を独占すれば、この均衡は崩れる。


 神話級神獣よりも、人間の王国軍が強いというのは誇れる話だ。だが、神話級と戦えば、王国もただでは済まない。だからこそ、侯爵家は絶大な力を持っているのだ。


 そして、玄武の森を治める侯爵家は、既に杉野をはじめとする4人を獲得できた。


 その4人に、この村を襲う事を命じた。戦闘力の調査、人殺し等の汚れ仕事ができるかのテスト、そして、空気を読めるかも見られているらしい。

 村を襲う命令を出したのが、侯爵家だと知られるわけにはいかない。空気を読むなら皆殺しだった。


「それに、他の三人は反対したか?」


 赤司は聞く。他の三人が悪人かは今後の行動を左右する重要な事項だ。


「いや、ここは地球じゃねえし。魔法で殺せばゲーム感覚だしな」


 赤司は良かったと思う。悪人はいくら雑に扱ってもいい。

 向こうから来てくれるのであれば、従者にして便利なコマに出来る。


「杉野、ゲーマの本気見せてやるよ。お前の仲間三人を倒すのに強い魔物は使わない。一般市民級だけで倒してやるよ。お前らに勇者としての死はやらねえ。雑魚の一人として死んで行け」


 レベル1でボス戦に挑む。赤司が好きな縛りプレイだった。

 舐めているわけではない。杉野から敵の情報や、チート、持っているスキルは聞き出せる。


 赤司の憂さ晴らしだった。


 しかし、杉野は微笑んだ。誰かが赤司を倒してくれれば、自分も解放される。そしたら、もう一度、上下関係を教えてやろう。そう思っていた。


 「耳を塞ぐのをやめろ」。赤司は頭の中で念じた後、ドワーフのゾンビ化を解く。

 杉野に対する興味はほぼなくなっていた。


「なんじゃ……。一体……」

 ドワーフは予想通り、戸惑う。


「貴方を助け出すために一時的に従者にしました。ここから、商売の話をしましょう」


 赤司は魔術師としてのロールプレイを始める。


「いくら欲しいんじゃ?」

「お金ではありません。私の為に働いてください」


「儂らドワーフは誇りある仕事しかせん。感謝はしておる。礼もする。じゃが、作りたくないものは作らん」

 しっかりとした意志を感じた。


「ちなみにどれくらい器用なんですか?」


「人とは比べ物にならんよ。儂はもう年寄りじゃが、自分の技術には自信を持っておる」


 ドワーフがステータスを表示する。普段、人間相手には隠しているらしい。


------------------------------------------------------

<名前>

バルカン=ゴッダード


<クラス>

聖騎士級


<職業>

生産職・機械


------------------------------------------------------


 かなり仕事が出来そうだ。しかも、イメージ通りの性格だった。職人肌。扱いやすい。


「杉野、エンジンの作り方を説明しろ」


 バルカンはきょとんとする。しかし、杉野の説明を聞くうちにどんどん目が輝きだす。


「次は、銃の説明。その後は……エアコンかな」


 最後は赤司の願望だった。

 だが、バルカンには何でもよかった。異世界の知識。転生者から話を聞く事はあったが、作り方や仕組みまで理解している者は皆無だった。


 体がそわそわしだす。


「作ってみたいですか?」


「作る!!じゃが、条件を教えてくれ。そして、一旦、儂の村に帰って、皆を連れてきたい」


「条件は私が作って欲しい物を優先的に作る事です。それと、私の従者になったままでいてもらいます。人質みたいなものです。しかし、それ以外の時間は彼を好きにしていい。勿論壊さないのが条件ですが」


 一応念を押しておく。ドワーフを襲った主犯が杉野だ。恨まれていない訳がない。


「よし、受ける。その程度であれば、何の問題も無い。早速、村に戻って、道具と仲間を連れてきたい」


「いいですよ。道中危険でしょう。私の従者である狛犬をお供に付けますよ」


 杉野もちゃんと交渉すれば、こんなに簡単に友好関係を結べたのだが。


「非常に申し訳ないんじゃが、この物知りな男を連れて行きたい。皆を説得するのに必要じゃ。あと、その間は従属化を外してもらわんことには……」


 バルカンの言う事はもっともだった。攫われたドワーフが従者になって、仲間を誘いに来る。どう考えても罠だった。


「だが、それは出来ない。その男を壊されたら困る」


 バルカンは溜息を吐く。


「お主、儂は確かにこの男を心底恨んでおる。じゃが、この儂がこんな宝の山を壊すと思っておるのか?何があってもこの男を守り抜き、この男の気が狂うまで知識を絞り出す事を、誓おう」


 なんて綺麗な目なんだ。赤司は諦めた。狛犬をお供に付けるのだ。大丈夫だろう。


 杉野にドワーフから物の作り方について質問を受けたら、全て答えるように命令して送り出す。


 そして、杉野とは念を飛ばして話す。念を飛ばせる限界の距離と、仲間の情報を聞き出すためだ。


 転生者VS一般市民級魔物。赤司はわくわくしていた。

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