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謝罪

 赤司は泉の守護者から離れると、進化を選択し、ステータスを確認する。

 いくら死体とはいえ、ペガサスの経験値は凄い。

----------------------------------------------------

<称号>神獣使い

<種族>ゾンビ【将軍】

<レベル>30

<クラス>聖騎士級・上位


<スキル>

『噛みつき』

『感染攻撃・改』→『感染攻撃・改二』に進化

効果が及ぶ範囲を拡大する。


『従属化』←New

支配下にあるゾンビを『従者』にする。


『指揮者』→『支配者』に進化

操れる対象がゾンビと従者になる。

効果が及ぶ範囲を拡大する。


<特性>

『腐った体』

『高知能』に進化

人間と同等の事が出来る。

-------------------------------------------------------

 待ちに待った『従属化』だった。これで、相生を人間に戻せる。


 試しに狛犬をゾンビから従者にする。

 元の可愛い目に戻った。ステータスを確認しても、種族がゾンビ【狛犬・幼生】から、ただの狛犬・幼生に戻っている。

 クラスが騎士級・中位まで上がっているが、一旦気にしない事にする。


 狛犬たちは急に自我が戻った事で、一瞬戸惑った様だが、顔をぺろぺろ舐めてくる。しっかり、懐いている。ゾンビにしたことを怒っていないらしい。


「お前達は先に村に戻ってくれるか?」

 両手で頭を撫でながら、聞く。


「くぅーん……」

 頭の中に嫌だという感情が流れてくる。

 しゃべれない相手ともある程度意思の疎通が取れるらしい。『従属化』のメリットだ。


「俺はペガサスに乗って相生を助けに行かないといけないんだ。ついて来れないだろ?すぐに帰って来るから」


 二匹は分かってくれたようで「わん」と元気に吠えて、村に向かい始めた。なかなか賢いらしい。


 赤司はジャンプしてペガサスゾンビに乗る。今の赤司は5m程度であれば垂直飛びできる。

 とりあえず、練習しながら相生の所に向かうか。



 ――――死にかけた。想像以上の速さだった。

 乗っているだけでダメージが入る。

 今の赤司に回復手段はないのだ。死活問題だった。

 それに、動体視力が追い付くレベルではなかった。普段、本気を出させるわけにはいかない。


 相生はすぐに見つかった。大体の方角と距離は分かっている。そして、その辺りで一番高い木だ。いくら森とはいえ、空から探せば一発だった。


 とりあえず、相生を縛っている蔦をほどく。拘束した状態でゾンビ化を解くのは失礼だ。

 自由にすると、相生は再び徘徊しだす。


「今、戻してやるからな」


 赤司は声をかけ、相生を従属化する。

 相生も狛犬と同じように状況判断に、数瞬掛かる。


「あの……、相生……」

「怖かったよーー」


 相生は赤司に抱き着いて泣き出す。

 赤司は相生を抱きしめるか悩んだ。だが、何もしなかった。自分にはそんな資格無い。そう思った。


 相生はゾンビ化されている間の記憶があった。だから、自分が大切に扱われていたのを知っている。

 だから、赤司を責める気はなかった。危害を加えるつもりはなかったと察していたからだ。今は自分が人に戻れたことを純粋に喜んでいた。


「えっと、チートやスキルが使えるか確認してくれるか?」

 赤司は相生が落ち着くのを待って聞いた。


 強制ではなく、相生の意思を尊重したかった。だから、命令ではなく質問をしたのだ。

 相生は涙をぬぐい、確かめる。


「うーん、スキルもチートも消えてないよ。使ってみようか?」

 相生は赤司に魔力を向けようとする。元々、赤司を治療しようとしていたのだ。


「ちょっと待ってくれ。俺はヒールを打たれると死ぬ。だけど、相生が俺を恨んでいるなら、受け入れる。さあ、打ってもいいぞ」

 赤司は20歳の魔術師の口調ではなく、同級生の赤司佐久真として話す。そして、自分の唯一の弱点を教える。 

 贖罪のつもりだった。


 赤司の中にははっきりとしたルールがある。自分に善意を向けた人や、魔王を倒すのに無意味な相手には危害を加えない。自分の種族がゾンビになった後でも、元人間として超えてはならない一線だと考えていた。今回はそのどちらも守れなかったのだ。


 それでも、普段の赤司なら治して謝って終わりだっただろう。高潔なペガサスに会った直後で、影響されていた。ルールを守る事に拘ってしまっていた。


 勿論、ヒールを受けて死ぬつもりはないが、相生がそれで納得するのなら、死なない程度のダメージは受けようと思ってる。


 相生はあくまで善意で赤司を治そうとしただけであって、危害を加えるつもりはない。魔力を引っ込める。

 だが、試そうとされている事は伝わった。自分は信用されていない。それだけが少しだけ不満だった。


「そんなことしないよ。だから、貴方が誰で、何のためにこんな事をしたのか教えて」

 相生はこの見た目が20歳になろうかという魔術師の正体がクラスメイトであるという事や、それがゾンビであるという事も知らないのだ。

 赤司は正直に話した。自分の正体がが赤司佐久真であるという事を含めて。


 そして、相生は賢かった。一晩で一般市民級から聖騎士級に成長した赤司の規格外さと、その正体や弱点を知る事の意味を理解した。


「そういうことだ。確か相生は状態異常解除魔法も持ってたな。解除していいぞ」


 相生は試しに解除魔法を打つ。従属化は解かれた。


 赤司には実験の意図もあった。自分で解除できる従属化を相生自身に解かせたのはその為である。

 そして、結果は予想通り簡単に解除された。本当に拘束したい相手は、ゾンビのままがいいのかもしれない。


「赤司君はこの後どうするの?」


「村に戻って、ゾンビ化を解くよ」


「私も付いていく。怪我した人もいるんでしょ?」

 相生は寂しかった。異世界に来て、元クラスメイトからパーティーを外されたのだ。そして、自分のチートの回復速度が遅い事から、劣等感を持っている。冒険者でない村人なら、受け入れてくれると思った。

 それに、赤司は優しかった。地球の話が出来る者とも一緒にいたかった。

 相生は断られたら、この先一人でどうしようと、内心怯えていた。


 しかし、これに赤司は喜んだ。どう相生について来てもらうか考えていたからだ。赤司は彼女のチートの有能さを理解している。それに、ゾンビの天敵である以上、近くに置いて監視しておきたい。

 願っても無い提案に即答するしかなかった。


「じゃあ、すぐ行こう。このペガサスに乗って」

 相生が心変わりしないうちに出発する事にする。ペガサスの自慢もしたかった。

 

「いいなー。かっこいいなー」


 このペガサスが速すぎる事を知らないのだろう。少し驚かせてやろう。赤司はそう思った。


 赤司が先に乗り、相生の手を掴んで後ろに乗せる。


「どこ掴めばいいの?手綱とかは?」


 筋力が並みの人間を大きく超えている赤司には、必要のないものだった。


「俺を掴んで」


 相生は素直に赤司に掴まる。

 ここで、赤司は自分が自転車の後ろにも女の子を乗せた経験がなかったことに気付く。

 背中が柔い物に包まれる。

 人間が怪我しないギリギリの速度で飛ばそう。そう決意した。



 ――――数秒で着いた。

 相生は赤司を力いっぱい抱きしめて離さない。


「あの……、着いたんだけど」

 赤司はその状況に戸惑うしかなかった。人がダメージを受けない速度で飛んだ。まさか、男の自分の体を基準にしてはいけなかったのだろうか。

 相生は赤司の背中に顔をうずめていて、表情も読めない。


 数秒後、ようやく相生は顔を上げた。真っ赤で少し泣いていた。

「死ぬかと思った……。これは許さないよ!!本当に怖かったんだよ!!」


 激怒だった。

 青春を女子ではなく、ゲームに捧げた赤司には言い訳のしようがなかった。


「次からはゆっくり飛びます。ごめんなさい」

 規格外の化物は女子高生に心から謝った。

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