ドジっ子研究者『大災厄のマッドサイエンティスト』
赤司は外で体操座りしていた。
何となくだが、小さく縮こまっていたかったのだ。
自分のステータスを開いてみる。
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<称号>神獣使い←New
<種族>ゾンビ【隊長】
<レベル>21
<クラス>騎士級・下位
<称号>神獣使い←New
<スキル>
『噛みつき』
『感染攻撃』→『感染攻撃・改』に進化
吐いた血を自身から20m以内の対象の体内に入れると、相手の種族をゾンビにできる。
『指揮者』←New
自身がゾンビにした、もしくは支配下の相手が近くにいる時、操ることが出来る。
<特性>
『腐った体』
『低知能』→『中知能』に進化
遠距離武器や道具も使用することが出来る。
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レベルは大して上がっていないのに、クラスだけ急成長してしまった。
騎士、つまり王や侯爵に仕える程の戦闘力を持っているらしい。おそらく原因は称号だ。兵士級・中位の神獣二体が支配下にある。更に言えば、ゾンビ化したここの住民50人も操ることができる。
早速、集落一つを壊滅させてしまったな……。
進化したステータスを順番に考える。
まず、『感染攻撃・改』。ありがたい。これで、矢に自分の血を塗っての、遠距離攻撃が可能になる。いずれ銃を製作してもいい。トラップを作ってもいい。
20m以内というのがネックだが、近接武器に縛られないのは、作戦の幅が大きく広がる。
そして、『指揮者』。これが『従属化』に繋がるのだろう。
ゾンビを操ることが出来る。
だが、これについては早速欠点が見つかった。
最初に狛犬を操ろうとしたのだが、失敗したのだ。通常のゾンビ隊長は話せない。だから、念じて命令するのだが、この念の届く範囲が非常に短い。
『感染攻撃・改』と同じように20m程度だった。
さらに、ゾンビ化している生物は知能が低い。狛犬に「甘噛みで」は命じられたが、「静かに」は理解してもらえなかった。そもそも犬に静かにするなんて概念は無かったのかもしれない。おかげでプチパニックが起きていた。
寝ていたら犬がドアをぶち破って入って来るのだ。驚かない方がどうかしている。
現在は狛犬たちにこの集落の人間を全てゾンビにするように命じている。途中までは詳しく指示をしていたが、20m離れた辺りで、また制御不能になった。
だが、「甘噛みで人間を全てゾンビにする」という命令は、一度してしまえば、遠くに離れても有効らしい。
その証拠に操れるゾンビとレベルが勝手に増えていく。
この支配下のゾンビが経験値を得ると自分のレベルも上がるシステムは地味に嬉しい。戦わずして、安全にレベル上げが出来る。
『中知能』については特に考える事が無い。魔法が使えない以外は、ただの人間と同等になったという事だ。
さて、レベルが23から上がらなくなった。ゾンビ化していない人間がいなくなったのだろうか。狛犬たちを探しに行く。
小さな集落。すぐに見つかった。二匹は一つの家の前をうろうろしていた。
この集落の中では大きな家。レンガ造りで二階まである。
嫌な匂いがする。おそらく魔物除けのお香の様なものだ。狛犬が近づけないのも分かる。かなり不快だ。
他の人間の所に行け。
赤司は狛犬に命令するが、二匹は動こうとしない。どうやら、ここが最後の人間の様だ。
仕方ない。自分が行くしかない。下手に一人だけ住民が残っていると、ゾンビを退治される可能性がある。
お前たちはここで待ってろ。
狛犬たちに命じて、マスクをつける。このマスクは死体をあさって見つけていたものだ。おそらく毒ガス用だが、こんなところで役に立つとは。
この集落では珍しく鍵付きの扉だ。この程度の鍵、今の赤司の筋力であれば簡単に壊せる。だが、これだけの外敵対策をしているのだ。住んでいるのが名のある冒険者や魔術師などの可能性もある。
赤司は緊張していた。
素手で鍵を壊し、ゆっくりと中に入る。最初の悲鳴から1時間は立っている。待ち構えていたり、トラップがあるかもしれない。
赤司は時間を掛けて進む。実はもうある程度の速さでは走ることが出来る。だが、やっとスピードが上がったのに、この牛歩。都合よくいかないものだ。
一階の部屋は研究物や謎の道具で埋め尽くされていた。足の踏み場もない。
二階に向かう階段にも、道具や資料が両脇に積まれている。これではトラップがあっても見分けがつかない。
しかも、あちこちに気を使わなければ、物が落ちて音が鳴る。手ごわい。
しかし、意外にも罠はなく、二階に到達できた。
二階も物であふれている。下に落ちている物で扉の開閉も自由に出来ないようで、開きっぱなしになっている。しかし、倉庫と思われる小さな扉だけはきっちり閉まっていた。ここか。
赤司はマスクを外した。中に入ってしまうと、あのお香の様な香りは少ない。我慢できなくもない。
それよりも、マスクを外し、人間だと勘違いしてもらう方がありがたい。
警戒をしつつ、扉を開く。
嘘だろ……。
赤司は思わず零れそうになった言葉を飲み込んだ。
ベッドで一人の女が寝ていた。幸せそうな顔だ。
寝たふりで油断させようとしているのだろうか。少なくとも数回は結構大きな悲鳴が上がったのだ。その状況でまだ寝ているというのは希望的観測過ぎる。
彼女のステータスを確認する。
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<名前>
メアリー・ブリリアント
<クラス>
騎士級
<職業>
魔道具開発者
鑑定士
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騎士級の魔道具開発者だった。仲間にすべき人材だ。友好関係を築きたい。敵対するのは愚かだ。
「狸寝入りなのは分かっている。話したい」
赤司は大きめの声で女に話し掛ける。
「ふえ?」
女は目をこすりながら、枕元の道具をいじる。一瞬身構えたが、部屋の明かりがついただけだった。
意外と若い。20歳ぐらいだろうか。部屋と同じように見た目にも気を使っていないのが分かる。寝巻もボロボロだ。
だが、顔は整っている。磨けばかなり光りそうではある。
「え?どっ、泥棒?」
あたふたしだした。これが騎士級の役者だったら、警戒している。だが、分かった。彼女は完全に寝ていたのだ。
「えへへへ」
ベッドの上に座ったままの彼女は何故か嬉しそうだった。
「ねえ、何を盗みに来たの?最近の発明だと……。あっ、絶対にあげないからね!!私の大切な子供みたいな物なんだから!!」
数多のゲームをやりこんだ赤司は彼女のキャラを直感した。ドジっ子研究者だ。
「いや、そういうんじゃなくて……」
赤司は彼女を仲間にすべきか迷い始めていた。騎士級の力があっても、何かミスしそうな気配がある。
赤司の直感は正しかった。元々、侯爵の元で研究していたメアリーは、研究を失敗し、侯爵の施設を爆破した。その結果、島流しの様な形でここに送られている。
普段は隠しているが、彼女に付いている称号に『災害の科学者』というものがある。
「え?じゃあ、何?あっ、魔術師さんだから鑑定依頼?勝手に入られたら困るんですけど。わー、よく見たらイケメンさんだ」
赤司はどうでもよくなりつつあった。
「それより、もっと危機感持ちなよ。女の子の寝室に男が潜り込んでるんだよ?自分を大切にしないと」
赤司は女の子に対して気が利いたことを言ったつもりだったが、モテない男しか言わないセリフであった。
「……?……私狙い?そんなまさか。私可愛いとか一回も言われたことないのに。そもそも、研究ばっかりで恋愛とかそんな……。しかも、こんなイケメンさんが私を?絶対嘘だ」
赤司は相生を噛んだ時の事を思い出していた。
そういえば、あの時はすごく罪悪感があったな。
「待って。無理無理。私貴方の事何も知らないし、それに私こんなんだから、多分幻滅とかさせちゃう……」
気付いたら、棘で刺していた。
心を埋め尽くしたのは虚無感だった。
せっかく見つけた騎士級研究職。しかし、性格に難がありそうだ。
仲間にする必要はないかもな。
赤司はそう考えていたが、騎士級の頭脳は伊達ではない。
数日後、彼女が四獣連合国の人口5分の1にバイオハザードを起こす。
彼女に付く称号は『大災厄のマッドサイエンティスト』。
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