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パニック

「うー……、あー……」

 相生はその場で徘徊を始めた。

 せっかく真面目で可愛かったのに申し訳ない。


 だが、助ける方法はある。

 レベルを上げて、自分が進化すればいい。そうすれば、先にゾンビにしていた相手も、従属化出来る。相生の種族をゾンビから人に戻すことが出来る。


 それには問題が二つ。


 一つは相生が制御不能な事。この状態で魔物に襲われたり、人に退治されたらひとたまりもない。


 そして、二つ目は、相生がゾンビ化している以上、体が腐り始めるという事だ。一定以上、体が壊死していると、ゾンビ化を解いた瞬間に死んでしまう。


 方法は一つ。急ぐことだ。

 相生が腐る前に、進化する。こうなったら、人を襲うしかない。


「ごめんな。すぐ元に戻してやるからな」


 赤司はそう言うと、相生を縛って、木に括り付けようとする。相手は女の子だ。失礼が無いように肩を握った。


「……柔らかい」

 独り言が出る。

 女子の肩が柔らかいという事実を、赤司は異世界に来て初めて知った。


 赤司は一瞬浮かんだ不純な考えをすぐに捨て去る。

 自分に悪意を与えた人間には圧倒的な悪意を返す。

 だから、善意を向けてくれた相手には、善意を向けるべきだ。


 近くにあった蔦で相生を結ぶ。相生は抵抗するが、ゾンビがゾンビに攻撃する事はない。軽く暴れるだけだった。


 赤司は自分のステータスを確認する。


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<種族>ゾンビ→ゾンビ【兵】に進化可能

<レベル>10

<クラス>一般市民級・下位


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 レベルが上がっている。『聖騎士級』の相生を噛んだのだ。当然の結果だ。

 そして、分かったことがいくつかある。

 レベルは進化可能まで上がった時点で、カンストする。聖騎士級を倒して、1から10では低すぎる。いくら戦闘職じゃないとは言え、騎士団を殲滅させたレベルの経験値が発生したはずなのである。


 更に、『英雄級』のチートを持っていても、本人の技量が育っていなければ、クラスは『聖騎士級』程度。

 スキル一個で聖騎士でも、十分ではあるが。


 赤司は進化を選択する。


----------------------------------------------------


<種族>ゾンビ【兵】

<レベル>10

<クラス>一般市民級・上位


<スキル>

『噛みつき』

『感染攻撃』←New

吐いた血を塗った近接武器で傷を負わせた相手の種族をゾンビにする。


<特性>

『腐った体』

『知能なし』→『低知能』に進化

近接武器と防具を使用することが出来る。


-------------------------------------------------------


 赤司は満足だった。

 『感染攻撃』は『噛みつき』の上位互換チートだ。


 噛みつきであれば零距離まで接近する必要があるが、感染攻撃は数メートル以内に近づくだけでいい。

 この差はデカい。

 更に、両手に武器を持ち、複数人同時に攻撃する事も出来る。

 もう、魔王に挑んでも良いのではないだろうが。


 赤司は近くに生えていた植物の棘を毟る。

 相生を結ぶ蔦を探したとき、偶然見つけた物だ。


 それに血を垂らす。

 ナイフも持っているが、僅かな傷をつけるだけでいいのだ。棘の方が使いやすい。


「じゃあ、いってくる」


「うー」


 まともな返事は返って来ないと分かっているが、赤司は相生に声を掛ける。

 赤司自身気付いていないが、普段から孤独だった赤司でも、異世界は不安なのだ。仲間を求めるのは自然な事なのである。


 赤司は近くで一番大きな木の上に登る。

 ゾンビ【兵】になってから、動きはかなり速くなった。

 更に、力も人間だったころよりも遥かに強くなった。

 握力に物を言わせて、簡単に上に登れた。


 日が落ちかけている。

 しかし、ゾンビになった影響で夜目は利く。


 2kmほど先に集落を見つけた。

 かなり頑丈な柵で囲まれている。


 高台などの見張りが立つような施設は見当たらない。夜に侵入する事にする。それまでに近くに行き、集落の様子を下見したい。


 赤司は急いだ。イメージでは落ちる太陽よりも速く走った。

 だが、実際には急ぎ足程度の速度しか出ない。


 魔物のスピードまで調べておくべきだったと後悔する。

 メインの特性やスキルは勉強したが、歩く速度までは考えていなかった。

 辿り着くまで30分。赤司は競歩について考えていた。





 赤司は夜になるのを待ち、集落への侵入に成功した。門が閉まっていた為、柵を登った。

 知性ある魔物に対する対策が何もない。もし、柵を壊して入って来る魔物がいれば、音で起きるという考えだろう。


 建物の多くは土レンガや木造で作られている。電気や水道はないようだ。大体の文明レベルが分かる。

 しかし、魔法がある世界。電気は必要ないのだろう。


 赤司の作戦は、寝静まった家に忍び込み、棘を刺す。そして、そのゾンビ化した村人が外に出て他を襲う前に、次の家に忍び込む。

 ゾンビパニック映画のようにではなく、暗殺者のように、音も無くゾンビにしていくのだ。

 50人程の集落。うまくいけば、3時間で終わる。


 パニックは起こしたくないのだ。その騒動でケガをされると心が痛む。ゾンビ化した人間が倒されても、生き返らせることが出来ない。


 赤司の元に、白と黒の二匹の子犬が尻尾を振ってやって来る。放し飼いの様だ。ずんぐりむっくりした体形で、足が短い。日本人体型だ。

 夜は誰も相手してくれないから寂しいのだろう。

 可愛い。癒しだ。

 頭を撫でまわすと、緊張がほぐれていく。アニマルセラピーの効力を実感する。


「それはそれとして」


「きゃん」「きゃいん」


 赤司は両手で隠し持っていた棘で二匹の犬を刺す。

 今は大人しいが、これから集落はゾンビだらけになるのだ。吠えて寝ている人間を起こされたら、作戦が壊れる。


 赤司は急に力が漲ってきた事に戸惑う。

 ステータスを確認。


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<種族>ゾンビ【兵】→ゾンビ【隊長】に進化可能

<レベル>15

<クラス>一般市民級・上位


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 赤司は色々な可能性を考慮する。

 おかしい。ただの犬をゾンビ化しただけで、こんなにレベルが上がるわけがない。


 赤司は恐る恐る二匹の犬のステータスを確認した。



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<種族>ゾンビ【狛犬・幼生】

<クラス>兵士級・中位


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 なるほど。魔物だったらしい。

 さっきの様子を見るに、普通の犬に擬態して、幼生の間は人間に育ててもらうのだろう。

 

 兵士一人の戦闘力は一般人の集団を殲滅できる程度。この集落全体としての戦力が、丁度このゾンビ犬一体と同じぐらいだろう。

 それが二体。

 

 さっきまで可愛かったはずの禍々しい目を見つめる。


「ステイ、ステイ。分かってくれる?」


 赤司の願いを横目に、二匹は近くの家の扉を爆音と共に突き破って入って行った。


「ちくしょう!!」

 赤司は急いで追いかける。歩いて。

 自分はまだ走れないのに、ズルい。


 家の中から悲鳴が聞こえる。

 あーもう、作戦がグダグダだ。

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