異世界転生の舞台裏
突発短編です。個人的な異世界転生の舞台裏について妄想していて、冒頭だけ思いついた感じです。
続かないです。
やあ、おはよう。僕はなるべく気さくに話しかける。ここへ来たニンゲンは、大抵動揺していたり、変に開き直っていたりと愉快な反応をする。
目覚めの気分はどうかな? うん、あんまりよさそうではないね。
「ここはどこだ?」
目の前にいるのは、平凡な容姿の、確かニンゲンが言うところの高校生ってやつか。彼は不運にも、イレギュラー……と僕は呼んでいるけれど、まぁ、事故で死んでしまったわけだけど。
彼で何人目だったかな? 一万人までは数えていたんだけど、いい加減面倒になってやめてしまった。
「確か、俺は死んだはず」
もう途方もない回数聞いたことのある、月並みなセリフだ。僕にとっては、だけど。
僕は簡単ではあるけれど、彼がイレギュラーな事故で死んだことを告げる。そして、補償として、彼のいた世界とは異なる世界での第二の人生を与えることを。
大抵みんな、理不尽に対して怒り、嘆き、最終的には第二の人生を受け入れる。逞しく生きてくれることは、僕としても喜ばしいことだ。
どうにもこのイレギュラーというやつは、僕がどんなに綿密に調整を重ねても起こってしまうものらしく、まったく困ったものだ。
「……じゃあ、別の人間として生きることになるのか」
彼が呆然とするのも致し方がない。それでも断れば、そのまま長い時を次の転生まで魂の浄化に費やさなくてはならないし、その際は記憶のバックアップなんて特典はないんだからね。
新しい世界で生きていくための、ちょっとした能力のプレゼントだってつけているんだ。喜んでもらえないと、僕だって少しは傷つくっていうものだ。
結局この彼も、なんだかんだと小言を言いつつも第二の人生を歩むことに決めてくれた。聞き分けが良くてたすかるよ。
前に世話したオジさんは、とても怒り狂って僕を滅茶苦茶に揺らして床に叩きつけたものだから、それはもう痛くて大変だったんだ。
なんでも、愛する妻と子を遺してきてしまったとか。申し訳ないとは思うけど、こればかりは僕にもどうしようもないのだ。
「じゃあ、新しい人生に幸多からんことを」
ちょっと最後はカッコつけてみる。淡い光に包まれて、彼の姿が光の粒子となって消えていった。
一仕事終えた後って、なんだかとってもいい気分だ。実態はただの後処理だとしてもね。
え? 僕が誰かって?
君たちが神様って呼ぶ存在さ。だけど、実は違うんだ。
僕は蛹。繭とも言うかな?
僕の役目は、世界を形作る夢を見ること。そして、歪んで路線を外れたイレギュラーを、別の世界へと誘うこと。
蛹にも繭にも見えないって?
それはそうさ、もし君がイレギュラーで、僕の見た目が蛹だったらどうする? 信用なんてできっこないだろ?
だから僕は、イレギュラーの最もイメージしやすい神様ってやつの形を見せているだけなのさ。
いつか僕が羽化した時。僕のふりまく鱗粉が、新しい世界を創る種となる。僕はそのために、ここで古い世界の夢を見続ける。
ふふ、難しかったかな。でも、そうだね。次にできる世界は、イレギュラーなんてないといいね。
ふああ、少し眠くなっちゃったよ。そろそろ眠るね。
また会いたくなったら遊びにおいで。僕はいつでも待っているよ。
そうだね……じゃあ、一緒に夢を見よう。きっと素敵な夢になるさ。
そうだ、さっきの彼の様子を見に行くのも、悪くはないかな。