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You're My Lady, I'm Your Knight.  作者: 岩淵 笑実
本編
55/64

LⅣ   最後の決着

 ガキィン、と一際大きく響いた音に、ノエルは背筋を強ばらせた。彼女の目に映ったのは、剣を取り落とし、黒髪の男に剣を突きつけられ追い詰められた騎士の姿。

「オニキス!」

 叫んだのはノエルだけではなかった。

「オニキス! 何をしている!?」

 両腕を脱力させ立ち尽くす騎士に切っ先を突きつけて、異国の男は震えながら叫んでいた。

「君の剣には、全く殺気がないじゃないか。私を侮っているのか!? 本気で闘え、オニキス!」

 叫びながら、彼は何故か泣いているようにも見えた。オニキスは動かない。やがて、かすれた声で言った。

「……そんな事、出来る訳ないじゃないか。私は、君とは戦えない。」

「オニキス!」

 ノエルは再び叫ぶ。その声に、オニキスは顔を上げてそちらを見た。

「ノエルお嬢様、奥方様、そしてミカエル様……申し訳ございません。私は今から、皆様をお守りする騎士としてあるまじき事を申します。どうかお許しを。」

 ノエルは何も言えなかった。オニキスの言う意味が分からなかったのだ。戸惑っていると、不意に肩に置かれた手に力がこもるのを感じて振り向いた。

「母様……。」

 サーヤは子供たちを抱き締め、少し青ざめた顔でオニキスを見つめていた。唇が震えている。母にはオニキスの言った意味が分かっている……ノエルは何故かそう感じた。サーヤは、騎士に向かってゆっくりと頷いた。

「……有難うございます、奥方様。」

 何かを堪えながら彼は言った。自分に剣を突きつける相手に向き直る。オニキスの目が濡れたように光る。そして彼は、何かを抱きとめようとするかのように両腕を広げた。

「私を殺せ、アロン。」

「なっ!?」

「君とは戦えない。友と呼んだ相手に剣を向けることは出来ない。……それを君が望むなら、この命だってくれてやる。私を殺せ。」

 唖然として言葉を失うアロン。彼を真っ直ぐに見つめるオニキスの目は毅然として、しかし穏やかだった。

「オニキス……。」

 アロンはかすれた声で呟いてよろめくように一歩、彼を友と呼んだ男に歩み寄る。手を差し延べるオニキス。ノエルは怖くて、思わずぎゅっと目を閉じた。

 響いたのは、硬く乾いた金属の音だった。

 剣を地面に投げ出して、彼はオニキスを抱き締めていた。肩を震わせ、泣きながら小さく呟く。

「僕だって……僕だって、君を殺せる訳ない。君は、この国で初めて僕を友達だと言ってくれた。だからこそ信じて欲しかった。それだけなんだ……。」

「ありがとう、アロン。」

 オニキスはゆっくりと目を閉じた。

 彼らに見入っていたノエルたちは、新たに聞こえた物音と小さな悲鳴に我に返る。ガーネットが、ローズの短剣を弾き飛ばした。彼女が拾おうと手を伸ばすより早く、女騎士のブーツが短剣を踏み付ける。ガーネットはひょいとかがんでそれを拾い上げた。

「もう終わりよ。こんな物、あなたが振り回すものじゃないわ。危なっかしいったらありゃしない。」

「まっ、まだよ! まだ諦めてたまるものですか! 素手でだって戦うわ!」

「終わりったら終わりよ。私、無駄な争いはしない主義なの。」

 また別の方では、もう一つの戦いが終わる。ミカエルがイリスを後ろ手に捕え、膝をつかせていた。イリスは深く俯き、その表情を窺うことは出来ない。ミカエルの顔も、辛そうに歪んでいた。

 アレスは周りを見渡し、顔をゆがめて舌打ちした。

「役立たず共め。」

 彼はつかつかと歩み寄り、乱暴にアロンの肩を掴んで自分の方へと引き寄せる。その耳元で囁いた。

「お前はもう、私の『リー』ではなくなってしまったのか?」

「……申し訳ございません、アレス様。」

 蚊の鳴くような微かな応えは、ただアレスの怒りを買っただけだった。アレスは彼の鳩尾に拳を叩き込み、意識を失ったその体を無造作に投げ捨てる。

「アロン!」

 慌てて友の体を受け止めたオニキスの喉元に、剣が突きつけられた。

 睨み合う、白と黒の騎士。

「貴様とは、私が決着をつけねばならぬようだな。」

「……父親同士は親友だったというのにか。」

「だからこそ、だ。私は父が嫌いだ。憎んでいるとさえ言ってもいい。生きている限り私は父も、父の親友だった騎士も、アンヴェリアル伯爵家も、この世の命運(さだめ)も理不尽な神も、全てを憎み続ける。子供じみていると言われようが構わぬ。全て壊してやる。」

 その目は今まで以上に暗い光で満ちていた。彼が促すまま、オニキスはゆっくりと立ち上がる。

「貴様の個人的な憎しみなど知った事ではないが、この伯爵家に手を出させる訳にはいかないな。」

 彼は自分の剣を拾い、軽くヒュッと振る。

 それが合図だったように、白と黒は激しくぶつかっていった。

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