ⅩⅩⅩⅠ 過去の謎
イリスとロビンが部屋に戻った時、ノエルはもう泣いてはいなかった。何やら真剣な様子で、オニキスやミカエルと話し合っている。
「じゃあ、あたし達を襲った奴のことは何も分かっていないの?」
「はい。彼が何故この伯爵家に危害を加えようと企み、どうやってノエル様を探し当てたのかも。分かっていることはたった二つです。あの男はアレスと呼ばれ、妹らしき若い娘を含む数人の手下がいること。そしてもう一つは、八年前に死んだある騎士の嫡子を名乗っていること。」
「八年前……。」
ノエルは考え込んだ。この屋敷が火災に見舞われ、主を失い、令嬢ノエルが行方不明となったのも八年前だ。何か関係があるのだろうか。
「関係がある、と考えた方が自然ですわね。むしろ全部繋がりますわ。」
ガーネットは部屋に入って来ると、兄の隣に腰を下ろした。ノエルが尋ねる。
「繋がる、って?」
「八年前に亡くなったその騎士……シメオン=バダンテールは、我が父の親友でした。そして先代伯爵とも面識があり、その、彼の死にはどうも我が父と先代伯爵が関わっていたらしいのです。私やミカエル様はまだ子ども扱いされていた頃の話で、詳しいことは殆ど聞かされていないのですが。そしてシメオン殿が亡くなった数ヶ月後、あの火災が起きました。」
「父様が関わっていた?」
オニキスの答えに、ノエルは耳を疑った。一人の騎士の死、それに関わった伯爵の屋敷の火災、そしてその伯爵家を未だに付け狙う、死んだ騎士の嫡子を名乗る男……。
「繋がるどころか、お話が出来すぎなくらいですわ。でもシメオン殿は私たちの父上と同年代、その息子の年だって私たちとそう変わらない筈でしょう? 父を喪った十代の少年が、八年間もその敵討ちのためだけになんて生き方しますかしら。私にはそんな執念、全くもって理解できませんけど。」
ガーネットは溜息まじりに肩をすくめる。いかにも真っ直ぐでさっぱりした性格の彼女らしい言葉だ。オニキスもちょっと肩をすくめ、たしなめるような目でそんな妹を見た。自分も同意見ではあるが決めつけるのは良くないというようなことを言いたいらしい。
この話題の間、イリスが微かに辛そうな顔をしていることに気付いた者は誰もいなかった。
と、ノエルはふとあることに気付いた。
「ねえ兄様、ちょっと話題を変えてもいいかしら。ロビン、こっちおいで。」
ノエルに手招きされて、少年は子犬のように駆け寄ってその隣にちょこんと腰かけた。




