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第1話:プロローグ

「はあ…なんでかなあ」

 そうわたしはつぶやいた。

 おかしい。

 これでも練習してきたし、演出にも気を配っているつもりだ。強制的に習わされたカリキュラムで、心理学についても多少の心得がある。人の気持ち、心理を読むということは大切なことのひとつだったからだ。

 まあ、あくまでも欺くためにだけど。

「レイナちゃん。確かに君は上手といえばそうなんだけど…こう、人が集まらない分にはねえ」

 控えめな支配人の言い回し。はあ。この次の言葉を何回聞くはめになったんだろう。

 その真意は悪魔の一言だ。人を落ち込ませて、路頭に迷わす、そんな言葉だ。

「その悪いんだけど、僕にも生活というか、劇団をきりもりする使命があるからね? その…」

 遠まわしに言う。その先は聞きたくないけど…でも結果はわかっているし、支配人を困らせたくない。こんなわたしを雇っていただいたのは嬉しいし、感謝もしていた。それになにより―――客を集められない手品師じゃ、解雇されても仕方ないだろう。

 はあ。わたしも駄目ね…

「わかりました。明日からわたし、また旅にでますね。ここじゃもう、仕事を探せないと思いますし…」

「その、悪いね。僕にも生活がかかっているから…」

 そのへりくだった言い方に、わたしは嫌気がさしてしまう。支配人に対して、ではない。嫌なのは支配人にこんな風に言わせてしまうわたし。

 わたしのような境遇に対しては政府から「人道的支援」を最優先するように言われている。レジスタンス活動に目を光らせている今、政府の意向に背くまねをすればそれこそ首が飛びかねないと聞いた。

 だから、支配人はわたしに対して、こんなにも苦労しなければならないのだ。でも、わたしはそれを盾にするつもりなんてない。そもそも自由であるわたしがそれに固執するのも可笑しな話じゃないか。

「じゃあわたし、支度します。明日にはもう旅立とうと思います」

「そうかい。また機会があったらよろしくね」

 そういった淡白な会話は幾度となく繰り返す。手品師と支配人なんて、そんなものだ。

 この町に着て一週間ほど。

 わたしの手品は見向きもされなかった。

 まあ、こんなときもあるわよね! そういって自分をごまかす。

 きっとめぐり合わせが悪かったんだ。きっとなんとかなるわよね。これまでもそうだったし…

 あ、あはは。


いつもでしょ? という内なるわたしからの突っ込みを強靭なる意志でねじ伏せて――――


 ヨーロッパの小国にタリアという国がある。わたしの生まれ育った場所であり、今もわたしはタリアの国のなかで奇術師として活動している。

 国教はキリスト教であり、わたし自身もそこまで熱心なクリスチャンではないとはいえ、信仰している宗教といわれれば「キリスト教」と答える。国民の大部分はカトリックであり、わたしもそれだ。

 時は二十一世紀。二十世紀から叫ばれていたエネルギー不足の懸念は、結局これといった解決策もなく、今に至った。おかげで、国際情勢はおせじにもいいとはいえなかった。

 後に勃発することになる世界規模の大戦の前にも、国と国とのいがみあいが戦争に発展するケースはあったし、東の小国が「核」の開発に成功したとか、黒いうわさは耐えなかった。

 そんな背景もあって、第三次世界大戦も時間の問題と、よく騒がれたものだ。

 それから、さらに幾年。

 タリアでは対人兵器として、ある計画が持ち上がった。PLOW計画。プロジェクトオブリーサルウェポンの略らしいのだが、語感がいいとかの理由で綴りが入れ替わっているらしい。もしくは他国に少しでも推測されるのを避けるため、とも言われている。

―――そんないい加減でいいのか、とわたしは思うのだけど。「超人化計画」とも訳されたそれは、戦争における革新的兵器、とタリアの一部では騒がれた。

 劣悪な国際状況も相まって、軍事分野に限っては劇的な進歩を告げた。

 その計画は順調に進展していく。

 目的は発案段階でも多数あったが、PLOWの中でも目玉は生身の人間に現実に存在する動物の力を持たせる、というものだった。

 いわゆる獣人化。

 初期の案ではもっと抽象的、いうなれば銃に撃たれても死なないとか、車並みのスピードを出せる、とかだったが途中で計画が変更になったらしい。

 それが頓挫なのか、進展なのかはわたしの知るところではないけど。

  さらに計画が発展していくと、この世にあらざる生物――たとえば、神話に登場するような――なんかにも着手していったと聞く。


 そんな折、二十一世紀も中ごろ。オーストという国が元々一色触発と言われた隣国に対し、王室殺人事件がきっかけとなって宣戦を布告する。

 そうなれば、後は簡単。

 オーストに加勢する国。隣国に加勢する国。直接は関係ないにしろ、利害関係の理由から参戦する国。

 あっという間に、そんな言葉は実に間抜けだけど、でも本当にそんな感じで全世界規模の戦争と化した。

 わたしの祖国も含んで。

 十五年戦争と呼ばれたそれは、わたしが生まれた年に始まった。それは総力戦になった。利益の一致など政治的な思惑は陣営をまさに真っ二つにする。

 西側陣営と東側陣営。最初はPLOWの技術を用いた西側陣営か断然に優勢だった。摩訶不思議な奇術(と思われた)を操るというのは東側を大いに悩ませたらしい。

 だがギリと呼ばれる東側の大国が「対人用兵器メリウス」を発明したことにより状況は一転。

 メリウスとPLOWは能力としては違いがあるものの、戦力としてみたとき拮抗しており、両陣営の戦力差は実質なくなったといわれている。

 最初の戦争から、十五年。口に出してしまえば、たかだか数語のそれはしかし、長かった…と思う。その戦争はひとつの結末を迎えることになった。

 なんてことはない。「休戦」という形で折り合いがついただけだ。

 「休戦」というのは一応の名目であって、実際にどこの国も再び戦争をする気力がないというのが実情だ。もっと具体的にいえば予算がない。だから、専門家たちも実質的な終戦、と見られている。


 戦後人道に反するものとして、他国のメりウス―――完全な機械だった噂も?―――と共に国際的にも大変な非難を浴びた政府にとって、目下の課題はPLOW被験者に対する人道的支援だった。「彼らの人権は最大限に保障する」とは、国家の首相の言葉だ。

 …国家のできることなんて、言葉以上に少ない。わたしなんか――少なくてもわたしは――頭を下げられたことすら、ないのだから。別に、それを望んでいるわけでもないけど…。

 ああでも直属の上司である、アルバ先生は別です。


 戦争の終わったわたしたちは、様々な条件つきとはいえ自由を保障されている。

 高校進学なんかも提示されていたが、わたしは断った。

 もとよりわたしは夢があったから。

―――それが手品師で、そのの道を歩んでいるってわけ。



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