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小杉祐輔の呟き その5

Web拍手のお礼SSだったものです。

 澄香からの素っ気ないメールの後、オレは姫路に連絡した。

 予定が変わったから、今夜の合コンに参加してやっても良いと。

 姫路は喜んでオレの申し出を受け入れた。

 これでS女の東さんが来る!

 とか電話の向こうで誰かに言っていた。

 S女の東樹里亜というのは、桧山恵美子とは全く違うタイプの美人だ。

 直接会ったことはないが、誰かが撮ったらしい写メで見たことがある。

 桧山が純和風で透明だけど硬質な雰囲気なのに対して(中身の硬度はダイヤモンドより硬そうだが)、東はどこもかしこも柔らかそうだ。

 噂によると、ハーフだかクォーターだからしい。

 実際、東は色素が薄い。

 樹里亜という日本人にはどうかと思う名前も、それなら頷ける。

 その東が来るのならこの合コンに参加するのも悪くない、とオレは思った。

 しかし、姫路はどういうコネクションで東を呼べたのか?

 そもそも今朝の段階で東の話が出てれば、断ったりしなかったのに。

 この時、オレの頭の中には現在澄香とつき合っているという意識は全くなかった。

 待ち合わせの時間を十二分程過ぎて、俺は店に入った。

 会場となった<ランブル・フィッシュ>は無国籍創作料理の店だ。

 小綺麗な内装と、リーズナブルな値段設定で若者に人気の店だ。

 とはいっても、学生の身には少々高く感じる。

 ちゃんと時間制限付の飲み放題コースもあるのだが、店にいるのは殆どが若いサラリーマンやOLで、学生のグループは俺たちだけのようだった。

 多分、東樹里亜が来るというので姫路が奮発したんだろうが。

 姫路によると、女子には三千五百円ポッキリと言ってあるので、足りない分は男子が補うことになるらしい。

 後で男共から苦情がでなければいいのだが。

 俺は勿論、苦情なんて言わない。

 俺はルックスのいいフェミニストというだけじゃなく、金離れの良い男でもあるからだ。

 店員に姫路の名前を告げ、席へと案内される。

 俺たちの席は、店の奥の半個室になった一角だった。

「少し遅れたか? 悪いな」

 爽やかな笑顔を浮かべながら、俺はサラリと女子達に視線を流した。

 ………………………なんで澄香がいるんだ?










「どうした、小杉?」

「え?」

 姫路の呼びかけに、俺は自分が数瞬固まっていたことに気が付いた。

「さっさと座れよ」

「あ、ああ」

 姫路に促されて、ともかく俺は空いた席を見つけて座った。

 それは姫路の隣で。

「とりあえずビールでいいか?」

 と訊いてきたので、

「ああ」

 と答えた。

 その間も、俺の目は澄香から離れない。

 澄香の「約束が出来た」というのは、合コンのことだったのか。

 しかしなぜ澄香は俺という彼氏がいながら、合コンなんてものに出るんだ?

 と考えてハッとなる。

 まさか、俺がこの合コンに出るって知ってたのか?

 いやいや待て待て。

 俺が合コンに参加することになったのは、澄香から断られたからだ。

 いや、断じて俺が断られたわけじゃないっ。

 そうだ、俺の方が先に断ったのだっ。

 俺がグルグルとそんなことを考えてると、姫路が可笑しそうに耳打ちしてきた。

「流石のお前も、東さんに見惚れてんのか?」

 東…、東?

 ああ、東樹里亜のことか。

 正直な話、俺はまだ東を見ていなかった。

 いたか?

 と思いつつ、まさか「東はどこだ?」とは訊けないので、

「ああ、流石にアレにはちょっと見惚れるな」

 なんて答えながら、俺は視線を泳がせて東を捜した。

 東はいた。

 澄香の隣に。

 二人は既にうち解けたのか、親しげに話をしてる。

 あれ程の美人に何故気づかなかったのか我ながら不思議だが、なるほど、これなら俺が東を見ているように見えるのも無理はない。

 いや待てよ。

 俺は本当に東を見ていたのかもしれん。

 だってそうじゃないか、俺が澄香程度の女をジッと見つめているわけがない。

「じゃあ、取り敢えず全員揃ったので、乾杯といきますかっ」

 姫路が朗らかな声で声を掛ける。

 すると全員がジョッキを掲げて。

「カンバ~~~~~イ」

 あちらこちらから、カチンカチンとジョッキの当たる音がする。

 俺がビールで喉を潤してると、姫路がまた耳打ちしてきた。

「言っとくけど、東さんは譲らないから」

「ふうん」

 俺は素っ気なく答えた。

 姫路という男は、顔こそは普通だが、陽気で話していて楽しいので女子には人気だ。

 面倒見が良いので、友人も多い。

 だが悲しいかな、「楽しい人ね」で終わりがちだ。

 女というモノは、楽しいだけでは満足しない生き物なのだ。

「東狙いなら、席さっさとシャッフルしないと。東の前に座ってんの、安田だぜ?」

 安田というのは、メガネを掛けた細身の一見草食風だが、実はバリバリの肉食系だ。

 狙った獲物は即食いという、恐ろしく手の早い男だという噂だ。

 そんな安田が東の前にいる。それに対して俺達は、東達とから一番遠い席にいる。

 ところが姫路は、平然と返してきた。

「ああ、大丈夫。安田は普通専だから」

「普通専?」

「ブス専、デブ専とかあるだろ? あれの普通バージョン。安田はさ、普通の女を狩るのが好きなんだよ」

「つまり?」

 答えが分かっていながら、俺は敢えて訊ねた。

「つまり安田の狙いは、今夜の場合、東さんの隣の彼女ってことだよ」

 言っとくけどな、姫路。

 澄香は「普通の女」じゃない。

 俺は内心でだけそう呟いて、ジョッキを飲み干した。


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