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小杉祐輔の呟き その8

Web拍手のお礼SSだったものです。

 その週の土曜日、俺は澄香と映画を見に行く事になった。

 所謂デートというヤツだ。

 先日、そう、澄香が休講で会った時、カフェでそういう話になったのだ。

 ――映画? なんで?

 ――え? 見たくないのか?

 ――見たいって、何の映画?

 ――それはまだ決めてない。

 ――は? えっと、何か観たいヤツあるワケ?

 ――特にない。

 ――じゃあ何で映画?

 ――遊園地でもいいけど?

 ――遊園地ぃ?

 ――じゃあ、水族館か?

 ――う~んと、ともかく週末出かけたいワケね。

 ――別に俺は出かけたくはないが、澄香が出かけたいだろう? 俺と。

 ――ええと、う~~ん。ああ、そうか、デートか。そうだね、デートは必要だよね。

 ――じゃあ、水族館に行くか?

 ――ああ、う~ん、じゃあ映画で。

 デートというモノは、女の方から強請るものだと思っていた俺は、しかし奥手な澄香に関しては俺の方から動いてやるしかない。

 そう思って話を向けてみれば、案の定澄香は嬉々として承諾した。

 どうやら澄香は、「必要」だとか言う程、俺とデートしたかったらしい。

 照れ隠しにアレコレごねて、結局俺の案を採るトコロなんか、初心すぎて笑えた。

 口元が緩むのを我慢するのが大変だった。











 澄香は待ち合わせの時間五分前に来た。

 澄香の化粧っ気のない顔は、どこかまだ眠そうだった。

 きっと俺とのデートにドキドキしすぎて、夕べはよく眠れなかったに違いない。

 眠ったのは明け方で、目覚まし時計を無意識のうちに止めていて、起きてみると時間が迫っていて驚いたってトコロだろう。

 一昔前の少女漫画みたいな女だな。

 それでも遅れなかった事は、褒めてやろう。

 男に気を持たせようと態と遅れてくる女がいるが、俺はそういう手管は嫌いだ。

 というのも、俺は待つのが嫌いだからだ。

 待つくらいなら、さっさと他の女でもナンパしてどこかへ行くさ。

 俺?

 俺は勿論熟睡したさ。

 何百回となくデートをこなしてきた俺が、そんな中学生みたいなマネをするわけがないだろう。

 ただ夕べは、いつの間にか欠席していたらしい英語の課題を出されて、それを仕上げるのに深夜まで掛かってしまったが。

 一体いつの間に、欠席してしまったのか。

 英語は必須科目だから、休まないように注意していたのに。

 全く身に覚えがない。

 英語の講義があったのは、三限目だ。

 澄香とカフェで待ち合わせしたのは四限目の時間帯だから、欠席するはずもないんだがな。

 何故かあの日の記憶は曖昧なのだ。

 ひょっとして、疲れているんだろうか??

 しかし疲れる様な事をした覚えもないんだが。

 まあいい。

 今は澄香とのデートに集中しよう。

 待つのは嫌いだが、俺は必ずデートの相手に集中する事にしている。

 それがモテる男の秘訣なのだ。

「澄香、今日は一段と寝癖がチャーミングだな。カエルプリントのTシャツと良く合ってるぜ」

 相手のファッションを褒める事も重要だ。

 それが例え、慌ててそこら辺のモノを着てきた様にしか見えなくても、きっと何時間も掛けて選んだのに違いないからだ。

 そしてさりげなく独占欲を見せたりなんかすると、もうそれだけで女は舞い上がってしまう。

「けれどデニムのクラッシュ具合はもう少し控えめな方がいいかな。そんなに足が見えていると、他の男達にまで澄香の綺麗な足が見えてしまう」

 俺の言葉を聞いて、突然澄香がしゃがみ込んだ。

「ど、どうした? 澄香??」

 俺も慌てて澄香の隣にしゃがみ込む。

 子供でもあるまいし、街頭で二人して座り込むなんてバカみたいだが、俺が座らなければ澄香一人が恥ずかしい事になってしまう。

 フェミニストたる俺には、そんな状況は捨て置けない。

 ひょっとしたら、体調が悪いのかも知れないのだ。

「澄香?」

 名前を呼びながら澄香の顔を覗き込む。

 すると澄香は、顔を真っ赤にさせて震えていた。

「お、お腹痛いっ。か、勘弁してっ」

 またか。

 俺は肩の力を抜いた。

 それが呆れのためなのか安堵のためなのかは、自分でも分からなかったが。

 澄香は照れると腹が痛くなるというのは、既に実証済みだった。

 なんでそうなるのかは不明だが。

 人体の不思議というヤツだろう。

 しかしあの程度の言葉でここまで照れるとは。澄香は何て初心なんだ。

 何時までも蹲っている澄香を見ていると、俺の中でほんのちょっとだけ、澄香を大切にしてやってもいいという気持ちがわき上がってくるのだった。



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