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隙間SS オーランドの秘密

Web拍手のお礼SSだったものです。

隙間SSとは、流れ的に本編に入れられなかったエピソードなどです。

ある意味ヤオイ(ヤマなしイミなしオチなし)ですが、楽しんでいただけたら幸いです。


挿話「耳に残るはカエルの歌声」の後のエピソード。

「幾ら何でも、分厚すぎはしまいか?」

 第一近衛隊隊長オーランドが、本を拾い上げながら言う。

 彼の気遣わしげな視線は、昏倒する国王侍医に向けられている。

 しかし王佐は、ニッコリと晴れやかに笑って言った。

「それでも薄くなった方なんですよ?」

 そんな彼の姿を、百人いれば百人共が思うだろう。

 黒い、と。

「そ、そうか…」

 イスマイル王国きっての精鋭部隊を率いる隊長は、そんな王佐を真っ正面から見ることができなかった。

 ただこの場に国王侍医の熱狂的支持者である彼の助手がいなくて助かったと思い、清廉な騎士はそう思った自分を僅かに恥じた。

「は~、こうなったら仕方ねえ。代わりに俺が治療するから、お前ら並べ」

 第一近衛隊副隊長ディンゼアが、癖のある明るい茶色の髪を掻き上げて言った。

 如何に怠惰な雰囲気を纏わせていようと、彼は軍人である。ちょっとした怪我の治療程度ならお手の物だ。

 そもそも単なる擦り傷なので、本来ならば医者の手など必要ないくらいなのだ。

 ディンゼアの言葉に同意する代わりに、倒れた椅子を起こして宰相が座る。

 当然の如く国王侍医は床に放置されたままだったが、今その場に彼を顧みる者はいなかった。

「ナジャは私が診よう」

 四人なのだから、二人づつで交互に治療すれば効率がいいと思っての、オーランドの提案であったが、

「丁重にお断りさせていただきます」

 王佐が、これまた爽やかに笑って言った。

 騎士の中の騎士と称されるオーランドは、その巧みな剣技からは想像も付かない程日常生活において不器用だった。

 彼の部下の中には、怪我の治療と称する傷害事件に遭遇した者は少なくなかった。

 何故治療行為が傷害事件になるのか、被害を受けた人間にすら全く分からないため、彼の「治療行為」はイスマイルの七不思議として密やかに噂されていた。

「そうか…」

 寂しそうに目を伏せるオーランドだったが、怪我をすると分かっていて彼を慰めるなどという奇特な心の持ち主は、その場にはいなかった。


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