小杉祐輔の呟き その7
Web拍手のお礼SSだったものです。
宮本澄香とつきあい始めて一週間。
最初の三日間と違って、俺達は頻繁にメールをしあっている。
――今日昼飯一緒に食べねえ?
――今日講義午後からだから、昼ご飯は家で食うから。
――今日友達と飲みに行くけど、澄香も来るか?
――明日朝一の講義だから、止めておく。
――今日は何時なら時間空いてる?
――今日は一分たりとも空いてない。
澄香は一体何に照れているのか、中々色よい返事をしない。
きっと、合コンで俺の事を「恋人宣言」したことを照れているんだろう。
今思えば、澄香が合コンに参加したのも、きっと俺が参加すると知っての事だろう。
その理由はただ一つ。
嫉妬だ。
きっと俺の誘いを断ったのも、俺を試すためだったんだろう。
澄香は、もっと俺に食い下がって欲しかったに違いない。
ふむ。
俺を百戦錬磨と知って、駆け引きを仕掛けてきたか。
俺に言わせればお子ちゃま過ぎて、作戦だったことすら気がつかなかった。
恋愛初心者の澄香なりの精一杯の駆け引きだったんだろう。
ところが俺が乗らなかったものだから、ああして合コンに乗り込んできて「恋人宣言」までしてしまったと。
あんなに大胆な行動に出るかと思えば、こうして初心な所もある。
澄香は俺の相手としては役者不足だが、俺に恋する余り右往左往するなんて可愛い所もあるじゃないか。
タイプは様々ながらも遊び慣れた女とばかりつき合ってきた俺には、澄香の行動は新鮮だった。
だから俺は仕方なく、澄香の講義スケジュールを事細かに調べ上げ、澄香が承諾しやすい誘い方をするように心がける事にした。
その効果は直ぐに出た。
――今日、四限目休講なんだろ? お茶しねえ?
――何で知ってんの? まあ、構わないけど。
こうして俺は澄香との約束をゲットした。
どうだ! この俺の優秀さ!
狙った獲物は逃さない、ハンター小杉祐輔とは俺の事だ!
俺は気分が良くなって、待ち合わせ場所のカフェに向かった。
ところが途中、会いたくもないヤツに会ってしまった。
「小杉じゃないか。何か、スゲぇにやけてるけど、何か良い事あったのか?」
自称「普通キラー」安田だ。
しかし澄香を平凡な普通の女と思い込むあたり、まだまだな男だ。
「何か用か?」
「別に。ただ、小杉がスキップなんかしてるから、余程の事があったんだと思うだろ、普通」
「何言ってんだ? 俺がスキップなんかするわけないだろう。子供じゃあるまいし」
「………無意識?」
「お前、メガネ変えた方がいいんじゃね?」
「………で、何処行くんだ?」
「お前に関係ないだろう」
「待ち合わせか?」
しつこい男だ。
俺は些か鬱陶しくなってきた。
そもそも俺にはこの男と馴れ合うつもりは欠片もない。
「澄香が休講になったっていうからな」
俺はそれだけ言うと、その場を後にした。
俺は基本的に、待ち合わせ時間には少し遅れて行く方だ。
しかし、相手は恋慣れない澄香だ。
下手に待たせて不安がらせるのは、特に今の澄香にはキツいだろう。
俺は瞬時に安田の事など頭の中から消し去った。
だから安田が実は澄香と同じ史学科で。
「今日の休講は四限の長野教授の講義だけじゃなかったっけ? ………今まだ昼前だぞ?」
なんて呟いていた事など全く知らなかった。