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アルクの誕生

泣くつもりなんて、なかった。


けれど喉は勝手に震え、肺は空気を求め、世界に向かって声を吐き出した。

それが「産声」だと理解した瞬間、僕はもう赤ん坊ではいられなかった。


視界はぼやけている。まぶたは重い。四肢は思うように動かない。

それでも、思考だけは異様に鮮明だった。


(……覚えてる)


前の世界を。


*前世:十九年間の後悔


僕は、生まれつき直感が鋭かった。


それは占いみたいな華やかなものじゃない。

胸の奥が「嫌だ」と小さく鳴る。あるいは「いける」と静かに決まる。

言葉にならない“確信”だけが先に来る。


小学生の頃、友達が川に降りようとしたとき、胸が冷えた。

「やめとけ」って言ったら、案の定、足を滑らせて転んだ。

先生に叱られたのは僕じゃなくて、その友達だった。


中学生の頃、同じ班のやつが「この道近道だって」と言ったとき、背中がぞわっとした。

ついて行かなかった。数日後、その道で財布を取られたって話が回ってきた。


僕は何度も助かった。

自慢じゃない。むしろ、ずっと怖かった。


直感が当たるたびに、思った。


(僕は“外れない代わりに”、何かを失ってるんじゃないか)


でも十九歳の僕は、結局それを確かめようとしなかった。

確かめるには、勇気がいるから。


好きなもの


僕はゲームが好きだった。


勝つのが好きだったわけじゃない。

“理解できる世界”が好きだった。


努力すれば強くなる。

数値が増える。選択が結果になる。

昨日できなかったことが、今日できるようになる。


現実は違う。


努力しても、報われないことがある。

頑張っても、評価されない日がある。

自分が正しいと信じた選択で、誰かを傷つけることもある。


ゲームだけが、僕に「分かりやすさ」をくれた。


夜中、ヘッドホンをつけて、音量を少し下げる。

家族が起きないように。

暗い部屋で、画面だけが明るい。


クリアした瞬間の達成感。

レアドロップが出た瞬間の小さな幸福。

たったそれだけで、明日も生きていける気がした。


――それだけで、良かった。


良かった、はずだった。


学校での出来事


高校に入った頃、僕はまだ「普通」だった。


クラスに馴染めないほど暗くはない。

人気者じゃないけど、笑うことはできる。

休み時間にゲームの話で盛り上がる友達もいた。


でも、少しずつズレていった。


体育祭。文化祭。合唱。

みんなが「熱くなる」瞬間に、僕だけ置いていかれる。


盛り上がってるのは分かる。

楽しいのも分かる。

だけど心のどこかで冷めた自分が見える。


(どうせ終わる。どうせ忘れる。どうせ――)


口に出さない。

言えば嫌われるって直感が言った。


そうして僕は、無難に笑うのが上手くなった。


無難に合わせる。

無難に「うん、いいね」と言う。

無難に空気を壊さない。


その代わりに――僕は、自分の本音が分からなくなった。


好きだった子


彼女は、窓際の席だった。


名前を出すべきなのに、今でも喉に引っかかる。

出した瞬間に現実になる気がして、怖い。


彼女は目立つタイプじゃない。

でも、静かな強さがあった。


笑うときはちゃんと笑う。

怒るときはちゃんと怒る。

人の悪口に流されない。

誰かが困っていると、自然に手を伸ばす。


僕と真逆だった。


僕はいつも“様子見”だ。

失敗しないように。傷つかないように。

直感を盾にして、踏み出さない。


でも彼女は踏み出す。


その姿が眩しかった。


ある日の放課後、彼女と二人で準備をした。

委員会の資料整理。誰もやりたがらない雑用。

僕は「断れなかった」だけ。

彼女は「やろう」と言っただけ。


教室に二人。

夕方の光。

机に落ちる影。


彼女が、ふと顔を上げて言った。


「……ねえ、あなたってさ。優しいよね」


僕は固まった。


優しい?

僕が?


(違う)


僕は優しくない。

ただ怖いだけだ。

誰かに嫌われるのが。

誰かを傷つけるのが。

失敗して笑われるのが。


でも彼女は、そんな僕を“優しい”って言った。


その瞬間、胸の奥が熱くなった。

言わなきゃいけないと思った。


(好きだ)


言えば、変わる。

言えば、何かが始まる。

言えば、世界が少しだけ自分のものになる。


直感が言った。


――今だ。


でも、同時に別の直感が言った。


――失敗する。気まずくなる。終わる。


僕は笑ってしまった。


「……そうかな」


それだけ。


彼女は少し寂しそうに笑った。


その顔が、今でも脳に焼き付いている。


告白しなかった理由は、勇気がなかったからじゃない。

それだけならまだ救いがある。


僕は――“傷つかないために”、彼女を選ばなかった。


それが一番、最低だった。


家族


父は、真面目な人だった。

母は、優しい人だった。


僕は家族に恵まれていた。


夕飯の時間。

「今日どうだった?」って聞かれる。

「まあまあ」って答える。


本当は言いたいことがあった。


「友達ができない」

「好きな人がいる」

「将来が怖い」

「何者にもなれない気がする」


でも直感が言う。


――言うな。面倒になる。心配される。気まずくなる。


僕は平気なふりをした。


一番近い人たちに、本当のことを言えないまま、僕は大人になってしまった。


大学、そして孤立


高校を卒業して、大学に入った。


ここで人生が変わると、どこかで思っていた。

“環境が変われば自分も変わる”っていう、都合の良い期待だ。


現実は変わらない。


講義に出る。

最低限の会話。

サークルには入らない。

気づけば、誰とも深く関わらないまま時間が過ぎた。


帰宅してゲーム。

またゲーム。

眠くなるまでゲーム。


その繰り返しが、だんだん“苦”になっていく。


楽しいはずなのに、楽しくない。

好きなはずなのに、虚しい。


それでもやめられない。

やめたら何も残らない気がするから。


気づいたら、僕の人生は「回避」の連続だった。


そして、あの夜


その日も、直感は告げていた。


――今日は外に出るな。


理由は分からない。

でもいつも当たる。

だから本当は、従うべきだった。


けど僕は思った。


(直感に従ってばかりじゃ、何も変わらない)


それは“挑戦”じゃない。

ただの反抗だった。


深夜二時。

スマホ片手にコンビニへ向かった。


いつもどおり、カップ麺とエナジードリンク。

いつもどおりの店内。

いつもどおりのレジ。


店を出て、歩き出して――


見慣れない二つの光が、猛スピードで近づいてくる。


ヘッドライト。


理解するより早く、衝撃。


身体が浮いた。

景色が回った。

アスファルトが迫った。


痛みは最初の一瞬だけだった。


遠くから誰かの叫び声が聞こえる。

駆け寄る足音。

運転手の泣き声。


視界が暗くなる。


僕は思った。


(ああ、結局僕は――)


何も変えないまま終わるのか。


好きな人に言わなかった。

家族に本音を言わなかった。

友達を作る努力もしなかった。


守るものも、残すものも、何もない。


クソッ。


まだ何もしてないのに。


「人生ってこんなものなのだろうか」


暗闇が落ちた。


*産声:やり直し


胸の奥が鈍く苦しい。


その苦しさを「後悔」と呼ぶことを、僕は知っていた。


「お名前、決めてたでしょう?」


女の声がすぐ近くでささやく。


「……アルクだ。アルクにしよう」


男の声が言った。


その瞬間、視界の隅が点滅した。


透明な板が、目の前に滑り込む。


《ステータス》


名前:アルク

年齢:0

レベル:1


STR:1

AGI:1

VIT:2

INT:5

MND:4

LUK:3


固有スキル:未発現


息が詰まる。


(……僕だけか)


母も父も、何も見えていない。

この世界は普通だ。異常なのは僕の方だ。


だけど不思議と、恐怖より先に温かさが来た。


母の腕。胸の鼓動。柔らかい布の匂い。

父の指が、恐る恐る僕の手を撫でる。


「……小さいな。こんなに小さいのに、ちゃんと生きてる」


その震えた声を聞いて、僕は父の指を握り返した。


弱いけれど、確かに握れた。


父が笑い、母が泣く。


そして僕は決めた。


(今度は、逃げない)


前の世界でできなかったことを、ここで。

この世界で。


*五年:温かい日々


五年は、思ったより長かった。


赤子の身体は思うように動かない。

立つことも、走ることも、こんなに難しかったのかと驚く。


だが家は、温かかった。


父はよく笑い、よく働き、よく僕を肩車した。

母はよく歌い、よく叱り、よく僕の髪を撫でた。


「アルク、金色の髪が本当にきれいね」


鏡に映る自分を見る。


淡い金髪。

黒い瞳。


(……勇者みたいだな)


そう思った瞬間、胸の奥がわずかに疼いた。


“勇者”。


なぜか、その言葉だけが引っかかった。


村は小さく、穏やかだった。


そしていつも、隣にはセリナがいた。


白い髪。

澄んだ瞳。

転んでも泣かない、強い子。


「アルク、いっしょに森の入口まで行こ!」


無邪気に笑う。


僕はうなずきかけて、止まった。


視界の端に、あの黒い染みが浮かぶ。


今日は消えない。


文字が滲む。


《警告》


固有スキル判明まで:残り27日


(……カウントダウン?)


意味は分からない。

だが嫌な予感だけが、確かにある。


その瞬間。


森の奥から、冷たい風が吹いた。


夏のはずなのに、骨に触るような冷たさ。


木々がざわめき、鳥が一斉に飛び立つ。


遠くで父の怒声が響く。


「アルク! 戻れ!」


僕は森を見る。


黒い影が、木々の間を滑る。


人でも、獣でもない“何か”。


父が剣を抜く。


僕のステータス画面が歪む。


固有スキル:未発現


その文字が、笑うように揺れた。


セリナの手が、僕の袖を掴む。


「アルク……」


怖い。


間違いなく、怖い。


それでも、どこかで理解している。


(……始まる)


この幸せな時間が、永遠に続くはずがない。


残り27日。


なぜだ。


何が起きる。


答えはない。


ただ一つ、確かなことだけがある。


この世界は、優しくない。


それでも僕は、生きる。


アルクとして。

まずはご覧いただきありがとうございます。

初めて小説を書くもので表現などが拙かったりダラダラと話を進めてしまうかもしれませんが暖かい目で見てくださると光栄です。これからたくさん頑張っていきますので応援の方よろしくお願い致します。

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