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人生2周目は、300万円で買ったゴミ山に引きこもります。〜世界崩壊まであと1ヶ月、私だけが知ってる『絶対安全地帯』〜  作者:


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第28話

4月30日、木曜日。

世界の崩壊まで、あと1日。


最後の夕食は、牛肉のシチューにした。


理由はない。ただ、今日くらいは一番好きなものを食べようと思った。モグが収穫したジャガイモと人参、シノが「栄養価が高い」と選んだ玉ねぎ、それから備蓄の和牛をたっぷり入れた。四時間コトコト煮込んだ。


「美味い」


ゲンタが最初に言った。


それが全員の言いたいことを代弁していた。誰も特別なことを話さなかった。いつも通りの食卓だった。モグが「おかわり!」と言い、ユリが「私も!」と続け、蒼が黙って皿を差し出し、シノが「カロリー過多だけど今日だけは黙認するわ」と言いながら二杯目をよそった。


食後、私はテーブルを見渡した。


「今夜から、各自の持ち場についてもらう。いつでも動ける状態にしておいて。でも——眠れるうちは眠っておくこと」


「眠れると思うか?」ゲンタが苦笑した。


「思わないけど、言わないといけない気がした」


笑いが起きた。


「ユリは私と一緒にいて」


「はい」


「怖かったら言って」


「言います」


「よし。じゃあ、準備しよう」


---


夜の九時。


ネロが情報処理室から声をかけてきた。


「全員に共有する。今夜の外の状況だ」


八台のモニターには、日本全国の情報がリアルタイムで流れていた。


「首都圏で大規模な暴動が発生している。複数の商業施設が略奪された。警察の機動隊が出動しているが、対応が追いついていない。自衛隊の一部部隊が都心に展開を開始した」


「早い」


「崩壊が予定より早まっている可能性がある。念のため——」


「結界を今夜から最大出力で稼働させる」


私が先に言った。ネロが頷いた。


「あと、電力グリッドが不安定になってきている。今夜中に広域停電が起きる可能性がある。俺たちの電力は独立系統だから問題ないが、外の通信インフラが落ちると俺の情報収集にも影響が出る」


「どのくらい?」


「衛星通信は生きる。地上波は落ちる可能性がある。基本的な監視は継続できる」


「わかった。引き続き頼む」


ネロが頷いて、画面に向き直った。


---


夜の十時。


蒼が監視塔に上がった。


見送りに行くと、蒼が梯子を上りながら短く言った。


「何かあれば呼べ」


「そっちこそ」


「ない」


「絶対に無理はしないで」


蒼が少し止まった。振り返らずに、「わかった」と言った。


それから、暗い空へと上がっていった。


四つの監視塔のうち、蒼は一番高い南塔を選んでいた。この山で一番遠くが見える場所だ。


ゲンタが正門に向かった。ドローブリッジのチェーンを一本ずつ確認して、油を差して、「問題ない」と言った。それからドローブリッジの横の小屋に腰を落ち着けた。今夜はそこを離れない、ということだ。


「ゲンタ」


「なんだ」


「寒かったら言って。コーヒー持ってくる」


「あとで頼む」


シノが医療室に入った。入口に「準備完了」と書いた紙を貼った。崩壊後に怪我人が出た場合に備えて、処置台の準備、薬品の配置確認、血液型別の輸血パックの整理——昨日から少しずつ準備していたものを最終確認している。


「シノ、今夜は眠れそう?」


「眠れない。でも作業があるから平気よ」


「何かあれば呼んで」


「そっちこそ」


シノが医療室のドアを閉めた。


---


夜の十一時。


モグが中庭に出た。


地面に座って、両手を地に触れた。目を閉じて、何かに耳を澄ませるように静止している。


「モグ」


声をかけると、モグがゆっくりと目を開けた。


「土の中、聞こえる?」


「聞こえる。ざわざわしてる。いつもより多くの声がする」


「大丈夫?」


「大丈夫。モグが守る」


モグが再び目を閉じた。すると、拠点を覆う結界の光がわずかに変わった。青白かった光が、少しだけ濃くなった。温かい色が混じった気がした。


【結界魔法:モグとの共鳴を検知】

【出力強化:通常比147%】

【防御強度:最大値を更新】


私はシステム通知を確認して、小さく笑った。


モグが結界に力を重ねてくれている。私一人の魔力より、モグと組んだ方が強い。そういうことか。


「ありがとう、モグ」


「うん」


モグはそのまま地面に座り続けた。


---


夜の十一時半。


私はコーヒーを淹れた。


豆はちゃんとした豆だ。崩壊後のことを考えると贅沢かもしれないが、今夜くらいは構わない。ハンドドリップで、丁寧に。湯気が立ち上がる。


「お姉さん」


ユリが隣に来た。


「コーヒー、私も飲んでいいですか」


「眠れなくなるよ」


「どうせ眠れないから同じです」


「……一杯だけね」


カップを二つ持って、中庭に出た。


空を見上げた。


星が出ていた。いつもの星降る森の空だ。この空の下で何も変わっていないように見えた。でも、遠くの山の向こうに、ぼんやりとオレンジ色の光が見えた。火事だろう。外のどこかが燃えている。


「あれ、火ですよね」


ユリが小さな声で言った。


「そうね」


「怖い」


「怖いね」


「マナさんは怖くないんですか」


私はコーヒーを一口飲んだ。


「前世でも、あの光の中にいたから。どういう結末になるか、知ってる。だから——怖くない、というより、覚悟ができてる」


「前世」


「いつか全部話すって言ったでしょ。その時に」


「……はい」


ユリがコーヒーを両手で包んで、空を見上げた。


「でも、ここは大丈夫ですよね」


「大丈夫」


「絶対に?」


「絶対に」


迷わなかった。


迷う理由がなかった。ゲンタが壁を作り、蒼が空を守り、シノが毒を調え、ネロが情報を掴み、モグが大地を固めた。残りは私の結界だけだ。これだけのものを積み上げて、破られる道理がない。


「絶対に大丈夫よ」


ユリが少し頷いた。それから、またコーヒーを飲んだ。


二人で、しばらく空を見ていた。


---


午前0時まで、十分。


ネロから全員に通知が来た。


『外の電力グリッド、大規模停電開始。複数県で電力供給停止を確認。通信インフラも順次停止中』


山の下の方角を見ると、街の灯りが消えていくのが見えた。


ひとつ、またひとつ。


黒い塊が広がっていく。


「来る」


私は立ち上がった。


【結界魔法:最大出力稼働確認済み】

【全防衛システム:正常稼働中】

【拠点ステータス:異常なし】


システム通知が静かに流れた。


コーヒーカップをテーブルに置いて、両手を広げた。


「モグ、一緒にやる」


「うん!」


モグが立ち上がって、私の隣に並んだ。二人で同時に地面と空に向かって魔力を注ぎ込む。


拠点全体を覆う結界の光が、一段と強くなった。


外から見たら、この山だけが光って見えるだろう。


午前0時まで、三分。


二分。


一分。


「マナ」


蒼の声が、監視塔から降りてきた。


「何?」


「地面が揺れてる。微弱だが——確かに揺れてる」


「感知した。結界内は安全よ」


「わかった」


三十秒。


二十秒。


私は空を見上げた。


星が出ていた。きれいな星空だった。


そして——


午前0時。


轟音が来た。


空が割れるような、地の底から来るような、耳ではなく体全体で感じる低い振動が、山全体を包んだ。


ユリが息を飲んだ。


モグが地面に手を押し付けた。


遠くの空で、光が走った。稲妻ではない。もっと根源的な何かが、世界の縫い目から滲み出るような、青白い光だった。


一筋。


二筋。


三筋。


直後、はるか下界の方から、地の底を引き裂くような地鳴りと、遠いサイレンが幾重にも重なった音が、微かに届いた。


だが、結界の内側にはそよ風ひとつ吹いていない。


草が静かに揺れている。虫の声がしている。


情報処理室の方から、ネロの短い声が聞こえた。


「……国内の全インフラ、ロスト。地上波モニター、全滅しました」


【システム通知:特異点を検知】

【結界、正常稼働中——異常なし】

【星降る森自治区:安全を確認】


「来た」


私は静かに言った。


世界が、変わり始めた。



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