表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人生2周目は、300万円で買ったゴミ山に引きこもります。〜世界崩壊まであと1ヶ月、私だけが知ってる『絶対安全地帯』〜  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/19

第16話

 4月8日、水曜日。

 世界の崩壊まで、あと23日。


 「死の菜園」での激闘から二日が経った。

 昨日は一日、全員で泥のように眠り、傷を癒やし、英気を養った。

 おかげで今朝の目覚めは最高だ。


 爽やかな朝の光が差し込む「研修棟」のホールで、私たちは作戦会議を開いていた。

 かつて林間学校の生徒たちがカレーを食べていた広い食堂は、私が生活魔法でリフォームしたおかげで、ピカピカのフローリングと高い天井を持つ、開放的なミーティングルームへと生まれ変わっている。


 中央の長机には、モグが育てた採れたてレタスと、一昨日爆買いした厚切りベーコンのサンドイッチ。そして、湯気を立てる淹れたてのコーヒー。

 その横に、キャンプ場全体の「測量図」が広げられている。


「……いいかオーナー。城を作るなら、まずは『整地』と『区画整理(ゾーニング)』だ」


 ゲンタがプロの顔つきで、赤ペンを地図に走らせた。

 彼は昨日、私たちが休んでいる間に、一人でキャンプ場内を歩き回り、地形や地盤の固さを徹底的に調査してくれたらしい。

 さすが元現場監督だ。図面には、等高線や地盤のデータまで細かく書き込まれている。


「このキャンプ場は、北側が急斜面の山、南側が唯一の侵入ルートである『一本道』に面している。天然の要害だが、逆に言えば南側を突破されたら逃げ場がねぇ」


 ゲンタが地図の南側――入り口ゲート付近を指で叩く。

 そこは現在、朽ちかけた木のゲートと、ゲンタが到着初日に作った高さ3メートルの丸太の柵があるだけだ。


「現在あるのは、俺が即席で作った丸太のバリケードだけだ。……ハッキリ言うぞ。これじゃあ、暴走した4トントラックに突っ込まれたら終わりだ」


「トラック……」


「ああ。パニックになった暴徒が、車でバリケード突破を図るケースは想定内だろ? それに、ゾンビの群れが数万単位で押し寄せたら、質量だけで押し潰される」


 その通りだ。

 ゾンビだけじゃない。極限状態の人間こそが、最も恐ろしい敵になる。

 食料や安全を求めて、なりふり構わず突っ込んでくる暴徒たち。彼らを止めるには、「中途半端な柵」では意味がない。


 そこで、腕を組んで黙って聞いていた蒼が口を開いた。

 彼もまた、昨日の休息で完全に体力を回復させていた。その瞳は、獲物を狙うスナイパーのように鋭い。


「俺からも提案がある。……今の配置は、防衛上最悪だ」


「えっ、最悪?」


「ああ。建物が点在しすぎていて、死角が多すぎる。敵が侵入した場合、どこに隠れられるかわからない。……射線を通すために、不要な樹木は伐採し、見通しを確保すべきだ」


 蒼は冷徹に、地図上のいくつかの木々に×印をつけていく。


「それに、入り口は一つに絞るべきだ。敵を一点に集中させ、そこを十字砲火(クロスファイア)で殲滅する『キルゾーン(殺害エリア)』を作る」


「うわぁ、エグいこと言うわね……」


 シノがサンドイッチを頬張りながら、少し引いている。

 だが、否定はしないあたり、彼女も合理的だ。


「生存戦略だ。甘い考えは捨てろ。……ここは戦場になるんだぞ」


 蒼の言葉に、場の空気が引き締まる。

 建築のプロと、防衛のプロ。

 二人の意見を統合すると、やるべきことは山積みだった。


1. 外壁の強化:丸太ではなく、車も防げる強固な壁。

2. 堀の作成: 壁の手前に、侵入を防ぐ物理的な溝。

3. 監視塔の設置 : 四方を監視し、狙撃できる高い場所。

4. 居住区の整備 : ライフラインの安定確保と、籠城用の備蓄倉庫。


「……理想はわかるわ。でもゲンタ、それを作るのにどれくらいかかるの?」


「重機と資材が潤沢にあれば半年。……だが、俺たちにはユンボもクレーンもねぇ。スコップと人力じゃ、壁を作るだけで10年はかかるぞ」


 ゲンタがお手上げだ、という風に肩をすくめる。

 人力では限界がある。

 世界崩壊まで、あと23日。

 どう考えても間に合わない。


 だが、私はニヤリと笑った。

 常識で考えれば無理だ。

 しかし、ここには常識外れの戦力がいる。


「だから、彼にお願いするのよ」


「モグ?」


「そう。……モグ、ちょっと来て」


 私は足元でレタスの芯を齧っていた「小さな相棒」を抱き上げ、地図の上に乗せた。

 彼は一昨日の泥だらけの姿から一変し、今は私が洗ってあげたおかげで毛並みがフサフサだ。


「モグ、この赤い線のところ。……土を動かして、深い穴を掘れる?」


「穴掘り? 得意モグ! おいらは土の精霊モグよ!」


 モグが自信満々に小さな胸を張る。

 頭の双葉がピコピコと揺れている。

 ゲンタと蒼は「おいおい、こんなマスコットに何ができるんだ?」という顔で見ている。


「ふふっ。……じゃあ、ちょっと実演してもらいましょうか」


     ◇


 私たちは外に出た。

 場所は、キャンプ場の入り口ゲート付近。

 ここを第一防衛ラインとする予定地だ。

 春の日差しが森の木々を照らし、鳥のさえずりが聞こえる。今はまだ平和な風景だ。


「俺の計算だと、ゾンビや暴徒の侵入を防ぐには、最低でも幅5メートル、深さ3メートルは欲しい。……これなら普通車は飛び越せねぇし、人間なら落ちたら這い上がれねぇ」


 ゲンタは自信満々に言った。

 確かに、日本の城郭や現代の工事現場の常識で言えば、十分な規模だ。

 しかし。


「……甘いわね、ゲンタ」


「あ?」


 私は腕組みをして、首を横に振った。


「幅5メートル? そんなの、助走をつけたスポーツカーなら飛び越えるわよ。それに、ゾンビが数万体で押し寄せてきたら? 死体の山ができれば、3メートルなんて一瞬で埋まるわ」


 私はニヤリと笑い、足元のモグを見た。

 これから私たちが相手にするのは、常識を超えた「終末」だ。

 ならば、対抗策も常識を超えていなければならない。


「やるなら徹底的に。……『絶望』が見えるくらいの穴じゃなきゃ意味がないわ」


「お、おい……まさか」


 私はモグを抱き上げ、森を指差した。


「モグ、全力でいいわ。……やりなさい」


「わかったモグ! おいら、本気出すモグ!!」


 モグが短い両手を掲げ、その小さな体からは想像もできないほどの、膨大な魔力(マナ)が噴き出した。

 大地の精霊としての本能が覚醒する。


「うぅぅぅ~~~……ふんっ!!!」


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!!!!


 世界が揺れた。

 地震ではない。地殻変動レベルのエネルギーが、地面を引き裂いたのだ。

 

 バリバリバリバリッ!!

 木々が根こそぎなぎ倒され、岩盤が砕け散る音が轟く。

 ゲンタと蒼、そしてシノが悲鳴を上げて尻餅をつく。


 もうもうと立ち込める土煙。

 それが晴れた後。

 そこにあったのは、「堀」などという生易しいものではなかった。


「……な、なんだこりゃぁぁぁッ!?」


 ゲンタが絶叫した。

 無理もない。

 目の前に出現したのは、幅50メートル、深さ20メートルの、底が見えないほどの巨大な「峡谷キャニオン」だったからだ。


 幅50メートル。

 断崖絶壁。落ちれば即死。

 もはや重機云々のレベルではない。地図が変わるレベルの地形操作だ。


「……これなら、戦車でも渡れないな」


 蒼が崖の縁から恐る恐る下を覗き込み、顔を引きつらせた。


「深さ20メートル……ビル6階建て相当か。ゾンビが何万体来ようが、ここを埋めるには東京中の死体が必要になるぞ」


「でしょ? これくらい派手じゃないと『聖域』とは呼べないわ」


 私は満足げに頷いた。

 底の方では、地下水脈が破れたのか、水がチョロチョロと湧き出し始めている。


「これが土の精霊の力よ。……彼がいれば、ブルドーザーもショベルカーも要らないわ」


 私は呆然とするゲンタの肩を叩いた。


「さあ、現場監督。最強の重機(モグ)は用意したわ。……あなたの設計図通りに、この森を改造しなさい」


 ゲンタの目が、徐々に輝きを取り戻す。

 いや、それは「建築バカ」としての狂気を帯びた輝きだった。


「……マジかよ。使い放題か?」


「ええ。燃料は私の魔力と、美味しい野菜だけよ」


「……クックッ、ハハハハ!! 最高じゃねぇか!!」


 ゲンタは笑い出し、バシッと自分のヘルメットを被り直した。

 スイッチが入ったようだ。


「おい蒼! 測量の手伝いだ! 杭を持って走れ!」


「俺は警備だと言ったはずだが……」


「うるせぇ! こんな面白いオモチャを見せられて、指くわえて見てられるか! お前の言う『キルゾーン』を作るんだろ? 射線を通すなら、お前が指示しねぇと意味がねぇぞ!」


「……チッ。人使いの荒い現場監督だ」


 蒼は文句を言いながらも、まんざらでもない顔で杭の束を受け取った。

 自分の理想とする「最強の狙撃ポイント」が作れるのだ。職人として燃えないわけがない。


「おいモグ! まずは外周だ! ここに幅50メートル、深さ20メートルの『峡谷』を掘れ! 排土は内側に積み上げろ! それを土台にして、明日は『城壁』を作る!」


「わかったモグ! 掘るモグー!」


 ゲンタの指示で、モグが猛然と地面を掘り進む。

 いや、掘るのではない。土が勝手に避けていくのだ。

 ズゴゴゴゴゴ……ッ!!

 まるでモーゼの海割れのように、キャンプ場の周囲に巨大な断層が形成されていく。


「すげぇ……! これなら一日で基礎工事が終わるぞ……!」


「オーナー、木が邪魔だ。射線が通らない」


「わかったわ! 伐採班、出動!」


 私はチェーンソーを構えたゲンタに指示を出す。

 ウィィィィン!!

 巨木が次々と倒され、視界が開けていく。

 倒れた木材は、私が生活魔法で【乾燥】させ、【加工】して、建材へと変える。


 システムウィンドウ展開。


 【対象:丸太(杉・檜)】

 【実行コマンド:生活魔法・乾燥(ドライ)切断(カット)防腐加工(コーティング)

 【消費MP:50】


 シュゥゥゥ……。

 切り倒されたばかりの生木から水分が抜け、数秒で製材所から出荷されたばかりのような角材へと変わる。

 それをゲンタが受け取り、次なる防衛設備の材料にする。


 完璧な連携。

 建築士、精霊、魔法使い、そして元SAT。

 それぞれのスキルが噛み合い、何もない荒野に、少しずつ「要塞」の輪郭が浮かび上がっていく。


 その様子を、シノが離れた場所から眺めていた。


「……ねえオーナー。私にも何か手伝わせなさいよ」


「あら、珍しい。研究以外のことに興味あるの?」


「暇なのよ。それに、私の(ラボ)を守る壁なんでしょ? ……少しは貢献してあげるわ」


 シノはビーカーに入った紫色の怪しげな液体を振った。


「峡谷の底に、これを撒いておいて。私が調合した『強酸性・溶解スライム』の培養液よ」


「……えぐいことするわね」


「侵入者が底に落ちたら、まずは酸で皮膚がただれる。そしてスライムが肉を消化する。……骨も残らないから、死体処理の手間が省けるでしょ?」


「採用。……ただし、絶対に味方が落ちないように看板を立てておいてね」


 恐ろしい女だ。

 だが、頼もしい。


 夕方になる頃には、キャンプ場の外周には見事な「大峡谷」が完成していた。

 幅50メートル、深さ20メートル。

 底にはシノ特製の溶解液と、ゲンタが作った鋭利なスパイクがびっしりと並んでいる。

 落ちたら最後、生きては出られない「死の谷(デス・バレー)」だ。


「……壮観だな」


 仮組みした見張り台の上で、蒼が夕日を見ながら言った。


「これだけの土木工事、国がやれば数千億はかかる。重機を入れても数年はかかる作業だ。それをたった半日で……」


「俺たちの腕と、オーナーのチートのおかげだな。ガハハ!」


 ゲンタが泥だらけの顔で笑う。

 その顔は、充実感に満ちていた。

 「100年保つ家しか作らない」と言って干された男が、今、誰にも邪魔されずに「最強の城」を作っているのだ。


 私は完成した峡谷を見下ろし、小さく息を吐いた。


 【システム通知:拠点の防御レベルが Lv.1 → Lv.3 に上昇しました】


 レベル3。

 まだ基礎工事が終わっただけだ。

 明日は、この内側に掘り出した数十万トンの土を使って、巨大な「城壁」を築く。

 そして、その壁の上に、難攻不落の「監視塔」を一体化させて建設するのだ。


 世界が終わるまで、あと23日。

 私たちの「聖域」作りは、まだ始まったばかりだ。


 それは、大人の本気の秘密基地作り。

 絶望的な未来が待っているからこそ、今この瞬間だけは、最高に楽しく、熱い時間だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
初期のシステムにあった、500ポイントはいつか役に立つのでしょうか。 生活魔法なるものですべて解決されてますが
深さ20メートルって幅が50メートルもあれば底が見えちゃいますね。
ざまぁとか崩壊も何も始まってないけど チート集団のサクサク建築とは言えコツコツ?とモノを作って あらすじから用意されている決定的崩壊への準備を整えてる姿が 実際に起こった時にどれだけ助かるのか活躍する…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ