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【番外編/碧玖サイド①】憧れだった人

     1

     

 ボクは小4でバレーボールと出会った。

 身長が高いからという理由だけで、無理やり地元のバレーボールのクラブチームへ入れられたのが始まりだった。最初は嫌々だったものの、そこで活躍していくことでバレーボールに夢中になっていった。

 

 ある時テレビで中学の強豪校特集を見た。そこには、チームを纏めるキャプテンとして笑顔が眩しい人がいた。

 ボクには無い社交的でひょうきんそうな、そんな印象だった。軽やかで爽やかで、チームのムードを盛り立てていく。なのにしっかり周りを見ている人だと思った。その日からその人はボクの憧れになった。

 その人のいる中学の情報を集め、雑誌の記事もスクラップした。時には試合を見に行ったこともあった。高校での活躍も変わらず追っていた。

 


 中学生のボクは周りとは上手くやりつつも、時々息苦しさのようないずらさを感じていた。

 ボクは目立ちたくもなかったけれど、身長は止まることなくぐんぐん伸び、そのうちに道を歩くにもジロジロ見られることが多くなり、その視線が憂鬱になっていった。

 学校では小学生の頃以上に女の子からの視線を感じるようになり、通りすがりの女の子達にキャーキャー言われたり、急に知らない子から声をかけられたり、告白されたり、落ち着かなかった。

 友達から「碧玖(りく)はカッコイイからな、女の子選び放題で羨ましいや」なんて言われたこともあったけれど、ボクにとってはそんなことには全然価値は無かった。

 

 ボクは自分を知っていた。

 ボクの恋愛対象は男性だった。気付いた時にはもうそうだったとしか言いようがなかった。

 何となくこれは口にしてはいけないことだと感じていた。それにボクは恋愛をしたいとかそんな気持ちもあまり湧いてきたことは無かった。

 あの強豪校のあおぎりさんだって、憧れであって、恋愛対象だなんて大それたことを思ったこともなかった。

 ボクはただひっそりと普通に生きていければ充分だった。今は続けているバレーボールをして、勉強をして、いつか医師になりたいと夢を持って、淡々とそこに向かおうと思っていた。

 

 

 

*****

 

 そんなある時、家族にボクがゲイであることをカミングアウトする状況になってしまった。もう取り繕えず言うしかなかった。

 その後家族は変わらないようでいて、でもギクシャクした空気になったのを感じた。

 ボクはその空気には浸らないように、毎日を淡々とやり過ごすことに集中した。

 

 中3になり、進路をじっくり考えた。

 思えばボクはいつも自分の心の中で生きてきた。自分で信じるモノを選んできたし、信じるモノを決めてきた。

 ボクが居なければ家族はまた以前のように戻ると思った。

 そして、ボク自身が違う心になれる場所を選ぼうと決めた。

 

 

 

     2

     

 ボクは実家から遠く離れた男子高を選び、寮生となった。

 寮生活は思ったよりも順調だった。同室になった2年の先輩は寮の中を案内してくれたり、寮生の心得的な事を面白おかしく教えてくれた。

 その中でも変わったルールを教えてくれた時があった。その一つに、「同室同士の恋愛は禁止」があった。色々な事で勉強に支障が出たり、風紀を乱す可能性があるから出来たということだった。

 しかし、結構経った後に「まだ信じてたの?そんなマンガみたいなルールは無いよ」と言われ「碧玖は可愛いね」と笑われた。

 それ以外も、冗談を真に受けるボクを面白がって、時々わざと嘘の寮のルールを吹聴したりもした。「碧玖信じすぎだよ」と笑いながら訂正はしてくれて、ボクも一緒に笑った。何かと親切で面白くて話しやすい人だった。

 

 バレーボールは相変わらず続けていた。今までと同じポジションで落ち着きそうだった。強豪校では無かったけれど、バレーに打ち込むことで、その間は余計なことを考える時間も無いのがボクには丁度良かった。

 子供の時は嫌々始めていたのに、今となっては無心で自分に戻れる時間になっている気がする。

 ボクがファンだったあの4歳年上の憧れのあおぎりさんは、高校卒業後の進路も、バレーボールを続けているのかさえも分からなくなり、新しい情報はもう2年も途絶えていた。

 

 

*****

 

 高校にも慣れてきた頃、母親から驚くような連絡が入った。詳しくは郵送で送ると言われ、それでも半信半疑だった。


 数日後ボクの手元に届いたのは、ある男性のスナップ写真数枚と、経緯を書かれた手紙だった。

 男のボクに、男のお見合い相手を見付けたと書いてあった。

 

 母親なりにボクを心配し、ボクを理解しようとLGBTQについての勉強会に参加するようになり、そこで同じように息子のことを理解しようと勉強会に参加していた人と友人になったという。

 何回か足を運ぶうちに理解も深まり、そのうちに『信用出来る素性で親の目が行き届く相手ならば安心ではないか』と母親同士が意気投合し、このお見合い話は生まれたらしかった。

 普通ならそんな馬鹿げた話しと一蹴してしまいそうだったが、母のボクのためを想ってくれる気持ちも嬉しかったし、何よりスナップ写真に写る男性は確実に誰だか分かった。

 あの頃より少し大人びていたが、ボクが見間違えることなんて有り得なかった。

 

そして名前には、「あおぎり 颯真そうま」と書いてあった──。

 

 


✧••┈┈┈┈┈┈••✧


【番外編/碧玖サイド②】憧れと、恋をする へつづく







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