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悪役令嬢狩り

作者: 山田 勝

「ウワ~ン、お姉様ズルイ、ズルイ!フランソワのドレス欲しー」


「あげないわよ」


 どこの家にもあることかもしれないけれど、ここ最近、妹の欲しがりが度を過ぎている。

 お父様とお母様も止めないどころか妹の味方だ。


「マルガーテ、ブリッタの希望を叶えてあげなさい。君は王宮にあがるのだからいいだろう」

「ええ、そうです。可哀想にあんなに欲しがって泣いています。お姉様なのだから我慢をしなさい」



「・・・はい、分かりましたわ。アン、どこかしら」


「マルガーテお嬢様、私がブリッタお嬢様に渡しておきます」


「アン、お願い」



 一体、いつまであげ続ければ飽きるのかしら。婿を迎えてブリッタに侯爵家を継がせるつもりだけど、大丈夫かしらね。



「お嬢様、王子殿下が来られました」

「えっ、早くない。急ぐわよ」



「お嬢様、御髪を整えますね」

「お願い」


 姿見で表情を確認する。

 ただでさえ顔が細くブラウンの瞳の目は切り目だ、最近、妹のおねだりのせいで眉間が上がりすぎていないかしら。厳しい顔に思われがちだ。

 ホワイトブロンドの髪をとかしてもらいながらそんな事を考えた。






 お茶会の会場に向かう。植物園、ガラス室の中で準備されている。

 スカートを少しあげて急ぐ。


 しかし、この国のスカートは長い。踝までピッタリだわ。




 予定より一時間も早く来ているから、遅くなりましたとは言わない。

『お待たせしました』で良いかしら。


 外から分かった。殿下は、少女と一緒にいる。妹君ではないわね。

 まさか。浮気?あのピンクの髪は・・・


「お嬢様、こちらへ」

「有難う」


 ドアを開けてもらって中に入ると甘ったるい少女の声が耳に届き始めた。





「キャ、キャ、キャ!殿下、この植物園中々ね。でも、王宮には及ばないかも~」

「まあ、そういうな」



 第2王子グフタフの隣にピンクブロンドの少女が寄りかかっていた。

 ピンク色の肩と胸元が見えるセクシーなドレスだ。


 二人の周りに王宮の騎士一名と従者が離れて控えている。



 ふう、グフタフ殿下は優秀だけど、ここ最近、平民学生と戯れるようになったわ。

 まさか、お茶会まで連れてくるなんて。

 私の面子はまるつぶれだわ。

 いえ。グラウテ侯爵家を軽んじているわね。

 彼女は一月前、相談役として王宮に召し抱えられた。


 嫌みの一つでも言いますか。


 しかし、お茶会は殿下よりも先に少女の開口一番の言葉で始まった。


「アルガーテ様!こっち、こっち、座って」


「名前を呼ぶ許可は出しておりませんわ」

「そう固い事をいうな。サリーは聖女だぞ。平民出身だから貴族のルール外だ」


 この少女、聖女のお勤めをしているところを見たことがないわ。

 王宮に侍らすための方便ね。



「実は、サリーがどうしてもアルガーテと話したいと言っている。私は席を外すから、存分に話すが良い。面白いぞ」


「は~い」

「殿下・・・」



 しかし、彼女の話はくだらないわ。


「私の向かいの家に向かって右隣の家で子猫が生まれたの。毛色は何だと思う?」

「分かるはずはないわ」

「え~、サリー、『思う』と聞いた」



 生意気ね。侯爵令嬢なのに、でも、いいわ。私には・・・・



「ところで、アルガーテ様、私、悩みがあるの。前世を思い出して、ここはゲームの世界らしい。どう『思う』?」



「はっ・・」



「馬鹿でしょう。何故、死んだらアマテラスオオミカミの身許とか、ゴクラクジョウドとか。いや、ジゴクとかに行かないのかな。ねえ、そう思わない?」



「・・・意味が分かりません。殿下を呼んで下さい!」



 あら、侍従、騎士、メイドがいないわ。


 席を立ち。出口に向かうと、殿下とお父様たち家族とメイドたちがいた。ドアの向こう側にいる。


 ガチャ、ガチャ


 ドアが開かない。


「開けて!開けなさい!殿下!お父様、お母様、ブリッタでも良いわ。開けて、ドレスあげたでしょう。ルクセンのお人形もあげたでしょう!」



「・・・お姉様、フランソワのドレスもルクセンのお人形も存在しない商会の物ですよ」


「えっ」


「お父様、お母様!」



「お前は誰だ。アルガーテを返してもらおう」

「そうよ。思慮深く思いやりのある子よ」


「お嬢様にとりついた者よ、熱病が完治した後、『テンセイシタンダー』とつぶやいているのを聞きました。異世界文字で書かれたノートを模写しました。解読も成功しています」


「アンまで!」



「殿下!これは王族の婚約者に対する無礼ですわ!助けて下さいませ!」


「ふう。まだ。言うか。10歳の頃から婚約者だ。この国の男子は、スカートの裾の音だけで近親者や婚約者が分かるのだ。軽やかでいて、他者を配慮する静かな音だ」



「そんな。設定はありませんわ!この変態!」



「クククククッ!ここはゲームの世界ではございませんよ。ゲームの世界に転生したかもと言えば、普通の令嬢は呆気にとられるものでございます」


「サリー!貴女はいったい」


「それに、このピンクの髪を見たら、この国の者はビビるものですよ。『あら、殿下、どこかで転生者が現れましたの?』なんてね」



 ガサガサ!


 植物の陰から、戦闘メイドが二人出てきてサリーを中心に横に並ぶ。


「さあ、異世界の聖女殿!」


「はい、悪役令嬢狩りを始めるかね。でも、その前に説明をしなきゃ」


「マドマンギって魔道少女アニメの最終回知っているかい?過去、未来が改変される。ありゃ、インド的思考だ。

 日本には仏教で伝わった。お釈迦様がなくなって、久遠成仏された。

 まあ、つまり、お釈迦様はお化けになってあちこちに現れるようになったのさ。キリスト教なら、復活かね。お前を中心に世界が改変される恐れがある」



「意味不明だわ。分からないわ」


「あ~、具体的に言えば、スーパーダーリンもいないし、ヒーローもいない。何故なら、アルガーテ様は悪役令嬢ではない。しかし、これからお前が作るかもしれない」


「何を言っているの!」



「私のやることは、お前を中心に世界を回らせないってことさ。さあ、戦闘メイドさん。抑えて」


「「畏まりました」」


「ヒィ」



 両肩を押さえられて、膝をつかされた。


「楽士さん。お願いします」

「承りました」


 また、一人出てきた。あれは王宮の楽士。

 手にはリュートを持っている。


 ベン♩ベン♩ベン♩


 単調な音、まさか。



「催眠術をかけます。頭の良い人はかかりやすいって言いますから大丈夫でしょう」


 まるで、奴は両手に皿を持つように手のひらを上に向け肩まであげて、首を左右にふりながら語りかけた。滑稽な踊りだ。


 馬鹿にするような仕草だわ。いえ、馬鹿にしているわ。

 私はそこまで馬鹿じゃない。


 頭は・・・いいわ。




 日本語で語りかけた。反応してはいけない。

 私は侯爵令嬢よ。



 ベン♩ベン♩べべベン♩


「(高校生?大学生?OL?お前の出自は何だろう?)」

「平民学生、アカデミー、商会の女事務員、貴女はどこの所属ですか?」


 楽士が通訳するわ。答えて大丈夫だわね。


「ですから、貴族学園淑女科2年ですわ」


 ベンベンベン♩


「(ニート?)」

「低級遊民?」


「違うわよ」


「聖女殿、わずかに眉が上がりました!」

「私は低級遊民ニートじゃないわよ!」


 ベン♩べべべべベン♩


「(ニートは恥ずかしいことではない。そりゃ、辛いよな。日本はルッキズムだ)」


不細工ブスではないわ。私はモテたわ!」


 ベン♩ベン♩ベン♩


 ベン♩ベン♩ベン♩


「(お年寄り?それとも中年?若者?お前の年齢を教えて欲しい)」



 ベン♩ベン♩ベン♩


「・・・若いわよ」


 ベン♩ベン♩ベン♩



「(中年?・・・中年?)」


「違うわ。違うわ・・」


「聖女殿、声が細くなっております」


「(そうか、お前の年齢は若いのか)」



 通訳無しで未知の言語に応えている。

 いつの間にかに、植物園に入った殿下達は静かに見守る。

 その目には心配の情が浮かんでいた。


 ベン♩ベン♩ベン♩


 サリーの質問は続いた。その間、滑稽な仕草を続ける。この踊りは日本、桃髪神社に伝わる秘伝の踊りだ。



「(実家は金持ちで、若くてバリバリのキャリアウーマンで彼氏持ちなら、そりゃ、帰らなければな。心配しているぞ)」



「帰らないわよ!私は侯爵令嬢よ」



「(お前を信じる者がいる。そいつはお前を何と呼ぶ!ニートでふくよかなお前を愛する者は何て呼ぶのだ?)」


「だから、違うって!」


 母さん。みどり・・・・



 ドタン!


「倒れた。寝室まで連れて行くぞ」




 ☆☆☆日本



「アルガーテさんと言う名で、アルグリッツ王国のグラウテ侯爵家の長女・・」

「はい、先生、みどりが一月前から・・」



「・・ウグ、殿下、お父様、お母様、ブリッタ、もう、自由になりたいとは思わないから、体を返して・・・オークの体はキツいわ」



「フウ、ネット小説の読み過ぎでしょうな。お薬を出します。体重も心配です。もう、更年期障害が出る年齢です。ご注意を」



「はい、頑張るわよね。みどり」



 ドン!


「倒れた!」

「みどり!」

「ここでは対応出来ない。緊急搬送だ!」




 ・・・・・・・



「お姉様!」

「アルガーテ!」

「グスン、アルガーテ!」

「お嬢様」


「殿下、お父様、お母様、ブリッタ、アンまで会いたかったわ」


「ああ、王子妃教育辛かったか?休ませよう。いや・・・もし、嫌なら解消も・・」

「殿下!私頑張りますわ」

「そうか、でも、少し、休むのだぞ」



 さて、帰りますか。私の一族は長いこと、この常世の国に行き帰りを出来る能力を受け継いで来た。


 時々、転生が行われる。

 昔は、この世界を常世の国と呼び。魔道師を重宝したが、今は文明が逆転したのさ。


 時々、王宮から呼び出しを受ける。この世界の住人と入れ替わり。髪は弩ピンク髪になる。それが印だ。


 いつ来るか分からないから高校は通信だ。はあ、華の女子高生なのに・・・




 ☆☆☆桃髪神社



「美味しいーーー!」


「サリーちゃんや、そろそろいいのかね。それ食べ終わったら帰ろうか」


「ねえ、ねえ、ここにいたい。ここは豊かな世界だよ」


「ごめんね。中世世界から見ればそうなるだろう。全く、異世界転生をして何が面白いのかね。さあ、おフダだよ!天地天明に基づき。正常に戻されたし!」


 ピカッ!


「フウ、お婆ちゃん。戻ったよ。早く熱いお風呂に入りたい」


「この子今朝入っているよ」

「気分の問題よ」



 その頃、異世界ではサリーの髪はピンク髪から茶髪に変化をした。



「あれ、ここは、お貴族様の屋敷、何かスゴイドレスを着ている」


「サリーよ。大儀であった。褒美を取らす」

「孤児院出身の子でしょう。そうね。ブリッタのメイドとして採用するわ」

「食べ物に困らないわ」


「はい、お願いします」


 やはり、ナーロッパ社会においても、弩ピンク髪は異常であった。


 奴らは令嬢、令息に好んで成り代わりたがる。

 異常者の通報を受けたら、調査をし。転生者だと判明したら王宮は儀式を行い。人為的に転生をさせる術を持っている。



 弩ピンクの少女が現れたら聖女として王宮に招く慣習がいつの頃から分からないほど昔からある。


 異世界よりも日本の方がチャンスはまだあるのかもしれない。





最後までお読み頂き有難うございました。

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