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恋人に別れを告げたら

「ぐあっ!?」

男の呻き声が室内に響く。

彼の腹には包丁が突き刺さっていた。


目の前の女に刺されたのだ。

彼女の目は狂喜に染まり、ニタリと口角を上げる。


「やめ……ろ……こんなことしたって……」


「うるさい!お前なんか!!死ね!!」

包丁を引き抜かれ、足蹴りされて床に転がる。

倒れた男の上に馬乗りになると、彼女は包丁を何度も何度も突き刺してきた。


彼ら2人は恋人同士であった。

付き合う前は可愛くておとなしい女性だった彼女は、付き合いだしてすぐに豹変した。


女友達と縁を切らないと死んでやるだとか、職場で女と話しただけで浮気などと言い、癇癪を起こした様に喚き散らしてきた。


一緒に住めば落ち着くかなと、同棲を始めると、それは更に悪化してしまった。

家族にも会うな、友達と会うな。私だけで十分。と、彼女は何度もそう言い、彼はどんどん追い込まれていった。


元より、彼は家族、友人知人、恋人を大切したいという性格なので、彼女の言うそれとは相容れなかった。


数年間連れ添ったこの日、我慢の限界から別れを切り出して口論になり、彼は彼女からメッタ刺しにされたのだった。


(なんでこんなことに……俺が……何したってンだ……)

未だに刺されながら、彼はそう思った。



「毎日毎日うるせーぞ!!お前ら!!うわぁぁぁ!!何してんだお前!!」

隣に住んでいた強面のお兄さんの声がしたかと思うと、その人は彼女を止める為に彼女を羽交い締めにする。


「うるさい!!こいつが別れるって!!」


「どうしたんだよ!?これは!!?おい!!救急車!!誰か!!急げ!!」

隣人達が次々に雪崩れ込んで来るなか、彼はゆっくりと目を閉じる。


(あぁ……くそ……死ぬんだな……俺……願わくは……趣味だった女の子キャラのコス、もう一回だけやりたかったなぁ……)

オタク趣味であった彼の唯一のコスプレ趣味が出来なかった事を悔やみながら、彼は意識を手放した。

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