トンネルの中の年若い男女
トンネルの少し手前、制服姿の若い男女の背中が見えた。
横に並んだ肩と肩は触れそうなほど近い距離で、けれども二人の手は重力に逆らわず、それぞれ真っ直ぐ下に伸びていた。
自転車の速度は緩めない。
日が急に陰ったのはトンネルに差し掛かったから。
勢いよく追い越して、後ろは振り返ることなく、薄暗いトンネルを一直線に突き進む。
あっという間に戻って来た外の世界の眩しさに目を細めながら、若い二人が手を繋ぐに至る様を想像する。
太陽の光から遮断された二人きりの世界。
訪れたばかりの闇に紛れ、心はソワソワと、伸ばされた手もソワソワと。
甲と甲とがトンと触れ、彼の手が彼女の手を、彼女の手が彼の手を求め、互いに指をそらし、距離を無くすようにそっと近付ける。触れた手と手で彼は彼女の、彼女は彼の熱を知る。
接する面は、手の甲から手の平へ。
そうして内側の温かさ、また、柔らかさを知る。
固く結ばれた手と手はトンネルを出ても一つのままで、明日、またトンネルを通る二人の手は、きっと始めから繋がれていることだろう。