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話相手

「 」は日本語。

『 』は英語で話している事になっています。


ジャンルは恋愛ですが、サスペンス要素が含まれています。

私の名前は伊藤恵(いとうめぐみ)。23歳。


私は刑務所にいる。

でも罪を犯したわけじゃない。


刑務所は罪を犯した人がやってくる場所。

入るのは簡単でも、出るのは難しい。


私がそんな場所にやって来たのは父の為だ。


父は麻薬や銃を海外のマフィアと取引する仕事をしていた。

二年前に警察にバレて捕まり、あと28年間刑務所にいなければならない。

懲役30年。

日本じゃ重くても、ここでは違う。むしろ30年なんて軽いほうだ。

そう、ここはロサンゼルス刑務所。

父はこの刑務所にいる。


「・・・」


私は看守に案内されて面会室に行き、椅子に座った。

そこは両側に壁、目の前には分厚いガラスで挟まれた個室。

壁には受話器がある。

ガラスの向こう側でオレンジの囚人服を着た男が目の前を通り過ぎて行く。

すると、くたびれた囚人服を着た白髪の混じったくせっ毛な髪の男がやって来た。

父だ。


私が受話器を取ると、父も受話器を取って椅子に座った。


「恵、久しぶりだな」


「お父さんが欲しがってた新しいハブラシとタオル、それにお煎餅持ってきたよ。後で渡されるから。

 あと、髭剃りはやっぱり取り上げられた」


父はため息をついた。


「髭剃りが無いと髭が伸び放題でまいるな」


そう言いながら父はクシャッとした髭を撫でた。

二年前までは貫禄があり大きく見えた父も、今では痩せこけて小さく見える。


「まぁ、良いだろう・・・どうだ?最近、仕事のほうは」


「まあまあかな。充実はしてるよ」


「そうか」


父はそう言って頷きながら懐を探った。


「・・・いかん、お前に渡す物を牢屋に置いてきた。待ってろ」


父は席を外れ、立っている看守に話して面会室を出た。

私は深く息をついた。

すると誰かが目の前に座ってきた。

短髪で茶髪、目は青みがかった白い肌の外人が目の前にいた。

外人が受話器を取ったので、私は受話器を取った。


『ごめんなさい。まだこの席は面会は終わってないんです』


私は英語でそう伝えた。

小さい頃から外国には頻繁に移住していたので、英語は私にとって母国語のようなものだった。


『知ってる。でも、今は話し相手いないだろう?』


向こうは少し訛った英語を話した。


『俺には誰も面会に来てくれる人がいないんだ。少しの間だけ、話相手になってくれよ』


私は少しためらったが、すぐに微笑んで頷いた。


『ありがとう。俺の名前はエミール。フランス生まれだけど、ほとんどアメリカ育ちさ』


『だから訛ってたのね。私は恵。恵み(グレース)よ。日本人』


(めぐみ)・・・グレース(めぐみ)か。良い名前だ。日本人って事は・・・もしかして

 ミスター・イトウの娘かい?』


『えぇ、そうよ。父を知ってるの?』


『知ってるとも。彼はこっちじゃ人気者さ。俺も色々と世話になっているよ。

 グレースは彼に面会しに来たんだね』


父がそんなに刑務所で有名だったなんて知らなかった。

するとエミールはニッコリしながらポケットから何かを取り出した。


『これ、彼が教えてくれたんだ』


それは少し不器用に折られた鶴の折り紙だった。


『日本人は誰でも出来るんだろう?凄いな。俺は折るのに凄い時間がかかったよ』


『私も最初は折るのに苦労したわ』


私が言うとエミールは微笑んだ。


『彼には日本語も少し教えてもらったよ。「こんにちは」、「ありがとう」

 それから・・・あぁ、「今日は良い天気ですね」』


『今日は雨だけど』


私が笑って言うとエミールも一緒になって笑った。

周りの囚人や看守が不思議そうに私達を見ていた。

面会室の扉で父が持ち物検査を受けていた。


『彼が来たね。もう退かなきゃ。話せて楽しかったよ、グレース』


『私もよ、エミール』


エミールが受話器をかけようとして、また手に取った。


『また・・・話せるかい?』


私は微笑んで言った。


『もちろんよ。今度はあなたに面会しに行くわ』


そう聞くとエミールは嬉しそうに頷いて、父とすれ違いに面会室を出て行った。

そして再び、父が目の前に座り受話器を取った。


「今誰と話してた?」


「エミールっていう人よ。お父さん、折り紙とか日本語教えたのね」


父はそれを聞くと頭を掻いた。


「それはお前に知られたくなかったな。エミール・・・分からないな。人の顔を覚えるのは苦手だ」


父はブツブツ言いながら懐から封筒を出した。


「これをお前に渡したくてな」


父はそう言うとガラスの下の薄い隙間から封筒を私に渡した。


「これは?」


私は封筒を手に取って開けようとすると、父が止めた。


「それは家に帰ってから見てくれ」


「・・・分かった」


私は封筒をバックに入れた。


「恵、お前は・・・」


父が何か言いかけようとして看守がやって来た。


『時間です』


『おいおい、待ってくれ。私は途中で面会室を出たから話はまだ充分にしてないんだ』


『時間は時間です』


父は濃いため息をついた。


「そういう事だ。また来てくれ」


私が頷くと父は看守と共に面会室を出て行った。

私もバッグを持って、面会室を出た。

そして刑務所から出ると外はすっかり晴れていた。


車に乗って、私は刑務所から離れていった。

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