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アギトの銀弾  作者: 前世は猫
2/2

アンガジェマン

対戦よろしくお願いします


天使の出現によって人類は、警察、軍隊、協会の3つに分裂した。

その軍隊───特別自衛組織「バリケード」の本部は、第5東京中央区画のど真ん中に存在している。

本来は軍事基地のはずであったが、天使に’’海の水’’を避ける性質があると判明した際に、大幅な改築を施した。

各フロアから海水が流れ施設を囲んでいるその様は、さながら、アクアリウムである……。


「遅い……」


現在の第5バリケード支部長、浅倉は呟く。

沈黙の支部長室。

「……」

壁掛けの時計を見る。

腕時計を見る。

通信機の時間を見る。

どれもがどれも、狂っていない。

つまり、自分の方がおかしいわけではない。

「綾瀬のヤツ……どこで油売ってやがんのさ……」

であるとするなら、

この綾瀬という女───本日付で軍に復帰する片桐綾瀬・元特務中佐が1時間の遅刻をしている、

……ということになる。


「舐めているな……正直言って、俺を舐めてる」


浅倉の額から汗が垂れる。

「まぁまぁ、綾瀬ちゃんといえば遅刻常習犯ですし……」

「いや、そうなんだけどねぇ、うーん」

部屋中央の長椅子に腰掛けているシスターの鹿目がなだめる。

鹿目はかつて綾瀬とチームを組んでおり、比較的親しい仲にあった。

彼女がいれば、3年ぶりの気まずさは解消されるだろうという魂胆での同席になる。

顔見知りという点で言えば浅倉もそうでもあるのだが……

「………」

あまりいい記憶がない。

思い返せば思い返すほど、片桐綾瀬は遅刻をする、ということに妙に納得してきてしまっていた。

「支部長、気長に待ちましょうよ。ほら、トランプとか、ありますよ」

「鹿目君ね……トランプしてる時に綾瀬が来たらどうするつもりさ?アイツのことだ」

「私も混ぜろよ!とか言う」

「バーカね。一生いじられるに決まっているよ」

「それはそれでって感じかな」

「気楽だな………しかし、最悪来ないなんてことは……ないよな」

浅倉は、一末の不安を吐露する。

事実、バリケードは綾瀬にはここ2年間に渡って幾度となく勧誘を続けていた。

そしてその殆どは無視されていたのだ。

しかし先月。

彼女の方から軍に戻りたいという要請があり、浅倉は二つ返事で了承した。

ここに来て彼女が折れた……というのは勝ち組の言い分だろう。

彼女にも、何か目的があるのだろうが……。

「それはないと思いますよ?」

シスター鹿目は、キッパリと言う。

「なんでさ」

「ほら綾瀬ちゃんって雑な人ですけど、約束は守りますから」

「こんなに遅刻してるのに?」

「こんなに遅刻しても、です」

鹿目には、確かな自信があるようだった。

かく言う浅倉も、何となくはそう思っていた。

「ふむ……ま、真剣衰弱かな」

「いいですね、真剣衰弱。私強いですよ」

そう言って鹿目が立ち上がったその時。


『緊急連絡です!!』


浅倉の手元にあった通信機が声をあげた。

2人に緊張が走る。

「何があった!」

『第5東京行きの列車に、天使が出現したようで……!』

「列車だと……よし、3番隊を出せ。近隣のホームも全て封鎖だ!全てだ!」

『いえ!あの……それが』

「なんだ」


『天使は、既に倒されているようなんです……』


「何……?」

浅倉は、立ったまま静止する鹿目と顔を見合わせる。

何か、嫌な予感がする。

「倒されただと?誰にだ?まさか警察か?部隊を出撃させた記憶はないぞ」

『あの……それが、通信部にアギトの使用許諾が届いておりまして、ですね…』

冷や汗が伝う。

恐る恐る、浅倉は問う。

「………それは、誰からだ」


『片桐綾瀬・元特務中佐、と───』



太陽がちょうど真上に来た時間。

レーザービームの如き日差しが、列車に差し込む。

時期ということもあり、かなりの蒸し暑さだ。

何せ、車両に穴が空いているのだから……

警官・半田淳平は手庇を作り、その暑さに抗っていた。

「凄まじいな……」

「暑くなってきたねぇ、こりゃたまらん」

独り言だったのだが、聞かれていたらしい。

同じく手庇を作った軍人・綾瀬が車両の反対側から歩いてきた。

「一応、軍には通報しといたから。その内やってくると思うよ」

「あぁ……」

淳平は、あちー、と手でパタパタと仰ぐ綾瀬を見つめる。


『この女が、天使を殺したんだよな……』


改めて、その情景が脳裏を過ぎる。

自分からアギトを受け取った後、なんの躊躇いも無く、天井を崩落させ天使と対面。

そして、その後は……まさしく神業と言えよう。

淳平が乗客を車両の更に後ろへ誘導した隙に、


彼女はたったの3発で、天使を無力化していたのだ。


全人類が彼女だったら、天使なんて瞬く間に殲滅できただろう……そう思ってしまうほどであった。

結局、そのまま近隣のホームに停車し、一部を除いた乗客を全員下ろした。

淳平の部下はその誘導を担当し、一足先に帰投させた。

これが、一連の流れだ。

天使の死体処理や列車の移動などは全て軍が取り行う。

彼らが来るまでは、しばらくは暇だ。


「……何ジロジロ見てんの?スケベ刑事」

「一体どこからあんな力が出るのか不思議でね。……天使って、人の2倍くらいの筋力、あるんだろう?」

「そりゃ個体差よ。今回のは小さいし、やろうと思えば1発で殺せたかも。」


サラッと恐ろしいことを言いながら、綾瀬は天使の死体に目をやった。

頭がひしゃげ、弾痕が2つ。

そして、心臓に1つ、穴が開いている。

人と違うのは、天使の死体に蝿は近寄らない。


「まるで超人だな……。まさかお前、祝福者じゃないよな?」

「……サイテーね。私をあんな貴族もどきと一緒にするんだ?」

「悪い、ちょっとした比喩さ。君があの連中と違うのは、何かこう、肌で感じているよ」

「はは、どーも」

綾瀬が笑う。

淳平も、ふっと笑った。

警察と軍人、お互い敵対しているものの、彼らには不思議な感情が芽生えていた。

天使という第3の脅威がそうさせるのか、そう考えざるを得ない。


ブロロロロロ………


遠くに走行音を認める。

どうやら、軍の連中が到着したようであった。

「んじゃ、俺もそろそろ逃げるかな……」

「おう、気をつけろよ」

「……こんなこと言っても無駄なんだろうが」

「なによ?どした?」

「告げ口、するなよ」

「安心しろって!そこんとこはさ」

綾瀬は淳平の肩をポンポンと叩く。

「馴れ馴れしくするな。次会った時は、また敵同士だ。じゃあな」

まるでお決まりのような言葉を放ち、淳平は去ろうとする。

その時、綾瀬は思わず口を開いていた。


「なぁ、どうして私のことを信用したんだ?」

「……」

「軍人を見逃してくれる警察なんて、聞いた事ないぜ」

「お前が言ったんだろう、それが最善策だと」

淳平は、いかにもな答えを言う。

が、本心でないことは何となく感じられた。

「それだけじゃないだろ、きっと。お前からは感じられないんだよな、なんかこう、警察特有の傲慢さというか……」

綾瀬は、自分が感じた印象を必死に言語化する。

何故かと問われれば、それこそ言語抽出に時間を有する問題ではあるのだが、

彼女は直感で感じていた。


この男は、私の”崇高なる目的”において必要不可欠な存在だ、と。


「なぁあんたは、」

「俺がお前を見逃したのは、ひとえに、お前が警察の不祥事を抱え込んだ爆弾だからだ。」

「……そうか……」

「まぁ、それか───」


「───俺が、今の腐った警察に疑問を抱いているから、かもな……」


それはまるで自分に言い聞かすように、呟いた。

何せそれは己の組織への宣戦布告。

反逆罪に等しい発言。

しかし

「───」

それが、綾瀬の感じた直感を更に加速させた。

「これ以上は知らん。後者の方は、ことにな……」

「……いいね」

「あ……?」

「半田淳平、あんた最高だ。あんたみたいな存在を探してたぜ」

風が、吹く。


ブロロロロロ………


装甲車の音が大きくなる。

列車の窓の向こうには、既にその姿を認めていた。

しかし、故にこそ。

綾瀬は敵である淳平に手を差し伸べる。

「なぁ、淳平。お前──」

それは天使の囁きか、

或いは悪魔の……


「手を組もうぜ、あたしと」






対戦ありがとうございました

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