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アギトの銀弾  作者: 前世は猫
1/2

第五東京行き特急列車

かなりボカしています


ガタン、ゴトン。

列車と呼ばれる鉄の蛇は、不規則にその体を揺らしていた。


「分かった、ドッキリだこれ……」


「あ……?」

ガタン、ゴトン。

第五東京行き特急列車「守風」7・8号車間に設けられた休憩室。

綾瀬は、苦虫を噛み潰したような顔をしながら、彼女の両手を繋ぐ腕輪を凝視した。

それはいわゆる手錠。

現行犯逮捕され、その事情聴取を受けている最中であった。

無論、本人にその自覚はない。

「そっかぁ、ドッキリだったんだ。そうだったんだ。カメラは?スタッフは?」

「……」

ガタン、ゴトン。

昨今のテロ増加に伴い警察組織の装備を一新するというアナウンスがされていたはずだが、今綾瀬を拘束しているのは塗装の禿げた従来品。それだけではなく、ピストル、通信機、エトセトラ……全てが旧式だ。

全く持って、刷新されていない。

彼らの装いからも、刑事警察機構という組織の”いい加減さ”が見て取れた。

「……ねぇってば」

「はいはい騒がない。もう終わりだからね」

警官の男は騒ぐ綾瀬を尻目に、バインダーにセットされた紙にペンを走らせる。

手慣れた対応だ。

「……」

おそらく、彼は相当なベテラン…、と綾瀬は推察してみるのである。

であればこうして茶化すのは逆効果というものだが、それ以上に謎が残る。


『何で通常運行の列車にポリ公が乗り合わせてんだ……?』


綾瀬の疑問も当然だ。

警察とは元来、事件発生後、通報を受け、駆けつける。そういう”システム”のはずだ。

それがこうして予め列車に乗っているということは、それはつまり━━

「ふむ……」

疑問の目を感じ取ったのか、警官はペンを胸ポケットに収納し、綾瀬に向き合った。

「悪いがドッキリじゃないぞ。綾瀬・元特務中佐殿」

「む」

「君のライセンス、照合が取れたよ。しばらくは私が預からせてもらうが……、元軍人とはな。それも結構な成績だ。」

警官の男は調書を眺めながらつぶやく。

いやみな言い回しに、綾瀬は眉をひそめた。

「だったら何なワケ?」

「何ということはないさ。ただ、純粋な驚きと……、そうだな、関心に近い」

「あそ。お巡りさん、差別主義者なんだ」

「よしてくれ。本当の事だ。自分が古い人間ということは、最近よく思い知らされるがな……」

警官は冷や汗を垂らしながら、コホンと咳ばらいをすると、

「だがな。君も軍に所属していたのなら、知っているはずではないかな」

その声を低くした。

鞄からプラスチックバックを取り出す。

その中には綾瀬から押収した黒いハンドガンが証拠品として入っていた。

”アギト”と書かれた付箋が張られている。



基本形状こそ50.GSと大差はないものの、増設された十字架の装飾がその異質さを際立たせている。

「ライセンスの無いものがアギト(これ)を携帯することは、銃刀法違反に該当する。習ったろうに」

「ライセンスは見せたじゃん」

「期限切れだった」

「更新してないからね」

「しなさいよ」

「だから、もう軍はやめたんだってば」

「であれば、このアギトは然るべき場所に納品すべきでしょうが」

「それはだね、まぁなんというかさ、」


「兎にも角にも、だ。元特務中佐。」


ガタン、ゴトン。

「……」

警官はあからさまに声のヴォリュームを上げた。

「これは立派な犯罪だ。君が元エリートだろうが何だろうが、事実は事実、軍機違反ものだよ。」

煮え切らない綾瀬に業を煮やしてか、あるいは走行音にかき消されないためか。

おそらくは両方なのだろう。

「あー、はいはい…。そうらしいですね、うん、ようやく飲み込めてきたよ」

綾瀬は両手を繋がれたまま、お手上げのポーズを取った。

「分かったならいい……。がしかし、」

「あ?」

「尚更気になるな。女性の君が何故軍に……?」

「別に。天使をぶっ殺したい。シンプルに。ただそれだけ」

「……正気か?」

「聴取で嘘つけってのかよ」

「つくべき嘘もある、ということだよ…。周りには気をつけろ」

「ご忠告どうも」

そこで何か感づいたのか、警官は調書と綾瀬の顔を交互に眺める。

数秒の後、


「君…、綾瀬って、ああ、あの綾瀬」


勝手に独り言ちた。

その一連の光景が、綾瀬は嫌で仕方なかった。

「一応聞くけどさ、お巡りさんは私が人を撃つような人間に見えるワケ」

「今、確信に変わったという感じだ」

「ちーん」

「とりあえず七号車に来い。詳しいことはそこで話す。」

「あいよぅ……」


              ◇


ガタン、ゴトン。

綾瀬は車窓から外を眺める。

未だ両手は繋がれたままで───それだけでなく、ドアの手摺に潜られ身動きすらままならない。

『ひでぇ仕打ちだ』

この辺りはまだ田畑も多く、同じ第五東京区域といえど、えらい違いだ。

天使の被害で都市一極集中の危険性は大いに示されたはずだが、東京ですらこのザマだ。

世の中、甘くないのである。

『クソみたいな仕組みだ……』

近くの物体ほど、勢いよく後方に飛んでいく。決して一枚絵ではない……、幾重にも事象が重なった現実リアルであると教えられるようであった。


「淳さんあの人?通報にあった女って」


数列前の席から、コソコソとした会話が聞こえる。

「あぁ」

「へぇ……、結構美人」

どうやら、先程の警官の部下のようだった。

着崩した制服と金髪、分かりやすく愛嬌だけで生きてきたタイプの男だ。

「あまり気を抜くなよ。……、とりあえずお前は待ってろ」

「何すんすか」

「取り調べ」

そういって淳と呼ばれた先ほどの警官が立ち上がり、

ドアの手すりに手錠をくぐらされた綾瀬と向き合う。

「何よ、また聴取?」

「罪状の確認だ。本部とも連絡を取った。君の暫定的な判別は、ここで決めさせていただく。異論は認められない、すまないね」

「あそ」

警官は先ほどの調書を取り出す。

そして、これまでに起きた事柄を語り始めた。

「午前11:46分。当列車5号車にて、君の隣に座っていた老婆が君のバックから落ちた銃に発狂」

「うん」

「そして即座に通報。偶然にも居合わせた私が君を銃刀法違反の容疑で現行犯逮捕した…、この筋書きで間違いないな。」

「指摘するほど物はない」

納得しながらも、綾瀬は眉をひそめる。

「では単刀直入に、綾瀬クン。君は何故、アギトを持っていた?」

「……」

「一丁前に黙秘権(だんまり)かよ?」

「はぁ……再雇用さ。あっちから声がかかった。今日から軍に戻る予定だったんだよ。」

「今日?こんな時期に?信じられないな」

「信じろよ。…、給料が良いんだ。金は欲しいさ」

「……」

警官は調書に目を落とす。

矛盾がないか確認している……という素振りである。

この淳という警官は綾瀬の言動に一貫性があることは確かに認めていた。

しかし綾瀬が軍人だと分かった以上、それをみすみす逃す義理はない。

でっち上げて、昇格を狙う。

それが今の警察という組織だ。

「辻褄は合うが、やはり怪しいな。何か、引っかかる」

「どこがよ」

「全体的に」

「……」


ガタン、ゴトン。

数秒の沈黙。

そして、


「怪しいって言うなら、あんたらもじゃないか?お巡りさん」


綾瀬がそれを破った。

「……何?」

「何じゃねーよ。何で通常列車にお前らがいんだよって話だよ」

「…分からないな」

「図星って顔してやがんぞ」

綾瀬は、警官の額に汗が浮かんだのを認めた。

それはひとえにサインである。

「ま気持ちは分かる。”不祥事”は避けたいよな」

「何が言いたい」

「とぼけんなよクズ。そりゃぁお前らがーーー」

その刹那。


グワンッ!!


「うおっ」

車体が大きく右に傾いた。

「ほら来た………!!」


ビビーッ!!

ビビーッ!!

耳障りな警報音が、車両に木霊する。

電灯はバチバチと音を立てたと思うと、

ブオン、ブオン、ブオン………

前の車両から順に、すぐにその光を赤色に変えていく。

一瞬にして、車内は真っ赤に染まった。

ざわつく乗客は互いに顔を見合わせ、安否を確かめている。


ガンッッ


直後、前方の車両から鈍い音がした。

同時に金切り声のような悲鳴が発せられ、乗客全員が、異常事態を自覚した。


『緊急停止。緊急停止、致します。車体に物体が接触した模様。ご乗客の皆様は手すりやつり革をしっかりと掴み、衝撃に備えてください。』


嫌に落ち着いた車内アナウンス。

ざわつきは更に大きくなる。

身を屈めるもの。

騒ぐもの。

泣きわめくもの。

それを慰めるもの。

そして、この綾瀬という女。

「……クソお巡り、これ外せ。あとアギト返せ」

「この異常事態にか……?冗談も休み休み言え。まずは私が状況を────」

「アホ!だから外せっつってんだよ!こりゃ確実に──」

怒鳴る綾瀬。


ガンッッ


再び鈍い金属音。


ガンッッ!!


三度。確実に大きくなっている。

それはつまり、"何かが向かって来ている"ということを意味する。

いや、何かと定義するまでもない。

間違いなく、紛れもなく、いや確実に


「───天使……!」


綾瀬が呟く。

人類を分裂に追い込んだご本人様が、この車両の上に降臨していた。

「だろうな……」

ガンッッ


「何独りごちてんだ政府の犬が……テメーらのせいだろうが!さっさと外せよこの手錠……!天井突き破られるぞ!」

「……」


ガンッッ!


「……外さない」

「あぁ……?」


ガンッッ!


「……"外せない"の間違いだろ?クソ犬が……!」

「ああそうだ!無理な話だ!外せばお前は口外する!そして俺と俺の部下のクビが飛ぶ!」

「開き直るとこじゃねぇだろ……!」


ガンッッ!


綾瀬と警官は互いに唇を噛む。

ジリジリと時だけが流れ、その間も、車両に取り付いているであろう天使は、確実に歩を進める。

警官はいよいよ、ホルスターに手をかけた。

「……おい、クソ刑事。」

「……話しかけるな……」

「交渉しようか」


ガンッッ!


「交渉だと……?ハッ、笑わせるな軍人」

「そりゃこっちの台詞だよ。そんな玩具で、天使を殺せるとでも思ってるとはな。笑わせるな」

「足止めくらいは」

「できねーよ」


ガンッッ!!!!


金属音は更に大きさを増した。

パラパラ……と天井から粉が落ちる。

それが何を意味するかは、明らかである。


「要件次第だ……。要件次第、だ、言ってみろ」

「それを早く言えよ。……簡単だ、手錠を外して、アギトを返せ。」

「無理だ。繰り返させるな。お前は口外──」

「口外しない」

「……何?」

「目を瞑る。お前らはこの列車にはいなかった。私は何も見ていない。」


ガンッッ!!!


「信用できない」

「信用するさ、お前なら」


ガンッッ!!!


「………ふざけろ、軍人!目を瞑る?そんな口約束、信用に値しない!いい加減にしろ!」

「……」

「いいか、俺たちが選べるのはこれだけ!!一つ、三人の死刑囚が生贄になって死ぬ!二つ、罪のない乗客が大勢死ぬ!!」


ガンッッ!!!!!!!!

ギギギ………!!!


「軍人なら、どっちを優先すべきかくらい、判別できるんじゃないのか!?ええ、言ってみなさいよ!」


「三つ。私が天使を殺す。誰も死なない」


「───」

「お巡りさんなら、それを優先すべきかくらいわかるよなぁ」

綾瀬はニヒルと笑う。

「くっ………!!!」

警官は拳を振りかぶって

「………参った」

綾瀬の顔面すんでのところで止め、苦笑する。

「そりゃ交渉成立ってことでいいのかな?」

「あぁ───お前を信用する……他なさそうだ」

「分かる男でよかったぜ、名前は?」

「半田淳平」

カチン。

警官のIDをスキャンすると同時、綾瀬の両腕が解放される。

「淳平くんか……いい名前だ」

軽く伸びをした後、非常灯で真っ赤に染まった車内を見渡す。

問題は、これからだ。

天使は以前として、車両の上を歩行しこちらに向かっている。

「淳平くん、生贄は何号車にいんの?」

「………」

「淳平くーん」

「いや、お前がどこでその知識を得たのかは聞くまい……、最後尾車両だ。」


ガンッッ

ガンッッ


「しかし元特務中佐、どうするつもりだ?かなり不味い状況だが」

「ん?あぁ。ま、安心していなさい」

「あぁ言った手前アレだが、生きて返してくれなきゃ困る」

「事実隠蔽、だものな?」

「っ……あぁ。辛いな、そう言われると」

「はは」

綾瀬は乾いた笑いを浮かべ、アギトを手に取る。

その瞬間、銃のボディに青く毛細血管のような光が走る。


『特務兵器アギト、待機します』


「それが、……アギトか……」

「そ。天使をぶっ殺す唯一無二の手段……見惚れるよ」

「………」

警官は、先の言葉を思い出す。


『別に。天使をぶっ殺したい。シンプルに。ただそれだけ』


清々しい程に、単純な動機。

その潔さは、逆に恐怖すらも抱かせる。

『この女……過去に一体何が………』

「さてと。お巡りは乗客誘導させとけ」

綾瀬は歩き出す。

「お、おいっ」


ガンッッ!!!!!

グ……ギギギ……


「くっ……、皆さん!慌てないで聞いてください!私は警察です!」

指示通り、警官は乗客を前車両と後ろ車両、半分に誘導させる。

7号車に残るは、綾瀬ただ1人。

「んじゃ、やりますか」


ガンッッ!!!!!

グググ…………


「おい気をつけろ、天井の崩壊が近い……!」

「あぁそれなら大丈夫───」

綾瀬は銃アギトに弾を込めると、腕を天高く掲げ、


「私がぶっ壊すから」

バンッッ!!


ヒビの中心目がけ発砲した。


「んなっ───!!!???」

警官は廊下から身を乗り出す。

ドオオオオン……………

果たして天井は崩れ、粉塵に紛れ、黒い物体が落下する。

「………さぁ、ご対面だ」

少しづつ粉塵は晴れ、それの輪郭が浮き上がってくる。

鋭利に隆起した皮膚に、血のまなこ。

人と呼ぶにはあまりにも雄々しく、

神と呼ぶはあまりに禍々しい。

人類はその黒い生命体を、天使と呼んでいた。


〈滅殺……撲殺……暗殺……惨殺〉


天使は器官を通さず、脳内に語りかける。

「相変わらずうるせーな。」

綾瀬はポケットから十字架を取り出し、額に掲げる。

「さぁ、クソ天使。堕天の時間だ…………」

そして、十字架をアギトに装填する。

銃身に左手を添え、構える。

狙い真っ直ぐ、天使の頭を捕らえる。


その美しいとも形容できる所作は、

さながら儀式のようであった。


「────アーメン」


アギトの銀弾が、放たれた。


続く






一話です

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