戦史における小失敗の研究 著:三野正洋
本を読みました。
●戦史のおける小失敗の研究 著:三野正洋 光人社NF文庫 本体840円+税●
書店で「小失敗」という文言に惹かれた。
失敗の本質という書籍は、かなり有名だ。では、小失敗とは何かが気になったのだ。
そこで、手に取って目次を見てみた。
すると、「なぜこれほど駄作ばかりなのか 大戦中のイギリスの戦車開発」という章が目についた。
失敗兵器にはそれぞれに失敗に至った開発背景や機能的特徴があって面白い。この本には何が書かれているのだろうということで購入した。
この章について特に感想を書いていないが、簡単には技術者の勉強不足とのこと。
【】の中は章のタイトル、『』は本書の中に類似の内容が書かれている。
なお、『』内は同主旨で書き直している。
その他は、私の考察や調査メモだ。今回は、本の内容というより調査メモが多い。
大体の場合、本を読みながら他のことを考えているためだ。
私の書いた内容には誤りが含まれている可能性が大いにある。
本書に関心を持った人は、書籍を購入してそれぞれで確認してほしい。
【ロシア戦車部隊の壊滅 チェチェン紛争】
チェチェン紛争は、新聞の国際面などに掲載されているのをリアルタイムでみたはずだが、チェチェン共和国がどこにあるかもよくわかっていなかったし、関心をもっていなかった。
しかし、本書を読んでで少しわかった気がする。
まず、チェチェン共和国について調べてみた。
親ロシア派がいる点や石油、ガスなどの資源がかかわる点、ロシアから独自路線をとろうとした点などウクライナと共通点がある。
チェチェン共和国
1859年にロシアに併合された。
黒海とカスピ海の間にあり、ジョージアとの国境線沿いに位置する。
イスラム教を信仰している地域。ロシアはロシア正教。信仰が異なる。
第二次世界大戦中に50万人が強制移住させられ、約半数が寒冷、飢餓により死亡。
ソ連における被差別民族。
反ロシア感情が強烈。
1988~1991年にかけてソ連崩壊。
それを受けて1990年にチェチェン共和国を建国、独立宣言。
ただしロシアは独立を認めず。
ロシアはチェチェン共和国内に親ロシア派と反ロシア派がいると主張。
ロシアからの独立を望む。
地下資源豊富。資源は石油、ガス、建築材料。ロシアは何としても支配下に置きたい。
2002年の人口約110万人
第一次チェチェン紛争(1994年~)で一般市民約10万人死亡。
第二次チェチェン紛争(1999年~)で一般市民約20万人死亡。
著者はイスラム教拡大防止のために、ロシアが西側諸国から不介入の同意を取り付けているとみている。
プーチン大統領の任期中に、独立派を徹底的にたたいて、現在は親ロシア派が首相。
メディアの分析では、ロシア・ウクライナ戦争ではチェチェン紛争の結果を受けて、ロシアが柳の下のドジョウを狙ったとのこと。
今なお、ソ連崩壊の周辺地域の離反とロシア支配地域の再確立の過程にあるといえるのだろう。
ロシアは、異なる人種、文化、信仰の地域を力で支配しており、現在も正しく帝国の定義にあてはまる国だと思う。
【繰り返された全く同じ失敗 インドシナ戦争とアルジェリア戦争】
『この2つの戦争は、もっとも規模の大きな独立戦争と位置付けるべきもの。欧米の植民地政策崩壊の端緒となり歴史の転換点である。』
これらの2つの戦争をほとんど知らなかった。調べてみよう。
宗主国は両方ともフランス。
植民地が独立を望むのに対して、フランスが植民地状態を維持しようとした戦いである。
最終的に敗れてフランスがそれぞれの植民地を放棄する結果になっている。
第一次インドシナ戦争 1946年~1954年
四半世紀前の河合塾の大学受験のテキストによると、日本の太平洋戦争敗戦により、ベトナム民主共和国が成立した。フランスは再植民地化しようとベトナムへ侵攻し、インドシナ戦争が勃発。フランスは傀儡政権を作りベトナム民主共和国へ対抗。しかし、ティエンビエンフーの戦いに敗北してフランス軍は壊滅、フランス軍はベトナムから撤退した。
フランス軍・フランス連合軍死者 九万四千人
ベトミン死傷者 五十万人、ベトミン民間人死者 二十五万人
アルジェリア戦争 1954年~1962年
フランスは、アルジェリアの独立運動鎮圧のためにフランス軍を派兵した。しかし、その影響で多額の戦費を浪費し、フランス経済は壊滅。フランスに政情不安と社会不安を引き起こした。その結果、フランスの国内世論が厭戦気分に偏り、アルジェリア独立承認へ傾いた。しかし、それに反対するアルジェリア駐留フランス軍は反乱を起こして、フランス本国への逆侵攻を企てた。ド=ゴール フランス大統領が事態収拾に乗り出し、アルジェリア独立承認で解決した。
色々調べていると下記のような感想をもった。
日本では、第二次世界大戦の終わりをもって終戦であった。
一方のヨーロッパにとって第二次世界大戦はドイツと植民地をめぐる争いという側面があった。さらに、第二次世界大戦終戦後は植民地の独立を阻む戦いが始まった。フランスにとっては植民地をめぐる争いの流れは第二次世界大戦後も続いていたとみることができる。
第二次世界大戦といった節目の出来事に名前がついているものの、それは認識しやすいように便宜上つけられた名前であり、実際は途切れなく、相互に影響しあいながら続く一連の出来事である。今さらの認識だが、実感した。
【楽観、楽観、また楽観 ベトナム戦争のアメリカ情報部】
『米国政府は、情報部からの楽観論を信じて判断を誤り、ベトナム戦争に敗北した。』
このあたりの流れは、ロシア・ウクライナ戦争と同じであろう。
ロシア・ウクライナ戦争の見通しを誤ったことを理由に、ロシア連邦保安庁FSBの関係者が解雇や逮捕というニュースが春先に流れていた。
FSBが、プーチン大統領に、短期決戦でウクライナを占領できると報告を上げていたとのこと。
ただし、正確なところはわからない。
カエサルの言葉に、「人は、自分が望むものを信じたがる」という言葉があり、また、確証バイアスともいうそうだ。
プーチン大統領は、ロシアの歴史に残る失策を犯したと言える。
「ロシアの戦争目的」
ロシアの再大国化
NATO寄りのゼレンスキー排除
キーウ・ウクライナの完全支配
「ロシア連邦保安庁による当初見通し」
短期決戦による勝利が可能
「現状」
NATO結束強化
スウェーデン、フィンランドNATO加盟
ドイツが親ロから反ロへ姿勢転換
戦争長期化による財政悪化
ロシア戦死者15000名
日中戦争と同じ流れなら、ロシアはウクライナを支援しているNATOと開戦することになる。
ベトナム戦争と同じ流れなら、ロシアが全面撤退することになる。
ロシアは、NATO牽制のために戦争を始めたにもかかわらず、却ってNATO拡大を招いた。ロシアの安全保障環境は悪化した。今後、ロシアにできることは、サンクコストバイアスをいかに抑えて、この戦争をどうやって損切して手じまいするかだと思う。しかし、難しいだろう。もし、ロシアが絶対に負けを認めない方向でいくと、ウクライナを支援するNATOと直接ことを構えることになる。
こうしたことは日本企業でも容易に起こり得て、他社の開発が停滞することを前提に計画を立ててしまったり、苦労して開発した製品だからといって必ずしも売れるとは言えず、その製品が当初販売計画を大幅未達のまま生産終了する判断もなかなか難しい。
【なぜ来たの港湾の機雷封鎖を急がなかったのか ベトナム戦争最大の謎】
『北ベトナムにはロシア、東欧から大量の支援があった』
この点は、日中戦争の援蒋ルートとおなじだな。
強国が弱小国に負けるのは、背後に支援国があるときだ。
その意味ではウクライナも同じである。
そうして考えを進めると、将来の台湾侵攻でも同じことが起きる可能性がある。
すると、中国軍は台湾の港湾をいかに封鎖して、いかに米国からの支援物資を遮断するかを考えているのではないか?
【補給こそ勝利の秘訣 インパールとアフガニスタン】
『インパール作戦は兵站を無視した作成であった。戦死者六万五千名のうち餓死者が60%』
『作戦の戦略上の必要性が小さく、上層部は大量に戦力が余っているので、何かに活用してみようと考えた節がある』
餓死者が60%とは、とんでもない無能である。
インパール作戦と日本陸軍第十五軍について調べてみよう。
インパール作戦 1944年3月~7月
司令官 牟田口廉也中将
牟田口中将に関しては、なかなかとんでもない発言が残っている。
「本作戦は元々、普通の考えでは成立しない。食料は敵から奪う。」
「敵とあったならば空に向けて3発撃て。そうすれば敵が降伏する約束ができている。」
牟田口廉也中将の実現不可能な強硬策に反対して、複数の師団長が解任されている。
また、反対の意見をした幕僚もクビにして、周囲を黙らせたようである。
精神論と強硬策とパワハラの三拍子がそろった人物であったらしい。
小説に無能な司令官を登場させたいなら、彼の言行録を調べるとよさそうだ。
【読後感】
歴史的にみると小失敗かもしれないが、当該国や作戦従事者にとっては大失敗といってよい事例が多く紹介されていた。
また、第二次世界大戦後も世界で多くの戦争が行われているのを知ってはいたが、それがどのようなものであるかは知らなかった。
この本により、それらの戦争の姿を知ることができた点でよかった。
また、戦争の勝因は、人数、補給、技術、作戦、練度など多岐にわたることがわかった。
いや、人数だけはドローンや無人兵器の実用化により変化していくのかもしれないが。
個人的に、今後に役立つ点としては以下があげられる。
目的と、コスト、目的達成時のリターンをよく検討して取り組むことが重要。
リターンが不十分であると、目標達成にあたる熱意が小さくなり、失敗に終わることが多い。
また、仮に達成してもリターンが小さく、その後の展開に何ら好影響を与えないものであれば、そもそもその計画自体を見直す必要がある。
さらに、確証バイアスや、コンコルドの誤謬を念頭にいれて、判断しないと、仮に事実に基づいた判断であっても誤ることがある。
以上