22世紀の民主主義 著:成田悠輔
本を読んで考察したことを書いています。
●22世紀の民主主義 著:成田悠輔 SB新書 定価990円(税込み)●
行きつけの本屋で新書売り上げNo.1になっていたことから購入した。
数週間前から本の帯の「言っちゃいけないことはたいてい正しい」という売り文句が気になっていたのだ。
パラパラめくると、全体主義的傾向の強い国と、民主主義国の経済推移を比較したグラフなどが掲載されており、それらをじっくりと読みたいと考えた。
言っちゃいけないことの代表は、「人間の知的能力には遺伝子による差がある」とか「それらは人種によっても差がある」といったことだろうか。
ポリコレに反するということだろう。
美しい建前や理想は、それはそれで賛同するとして、事実との違いは押さえておきたいものだ。
美しい理想と反することとはいえ、それが事実として存在するなら、存在しないことにはできないのだ。
第二次世界大戦前の艦隊戦の図上演習のようなもので、現実を見ない願望に基づいた判断は破滅への道だ。
以下、点をうった後の文章は類似のことが書籍中に書かれていますが、それ以外は私が読みながら考えたことです。
通読後ではなく、読み進めながら書いているので、書籍の主旨を理解していないおかしなことも書いているかもしれません。
それらについては、私の誤りであり、書籍の著者の誤りではないのでご承知おきください。
また、書籍の著作権を一応気にしているので、内容説明せずいきなり感想だけ書いていて、何のことやら不明の部分もあろうかと思います。
【巻頭 挿絵】
・生じるものはすべて、滅びるに値しますからね (ゲーテ作 ファウスト)
冒頭の絵画は、フランス革命のギロチンの様子をあらわしたものであろうか。
祇園精舎の鐘の音、盛者必衰の理をあらわすや、ひとたび生をえて滅せぬもののあるべきか、と同じような話だろう。
他人事であれば格好良く興味深い言葉ぐらいで済むのであろうが、それがいざわたくし事となれば笑ってもいられない。
【A.初めに断言したいこと】
若者の政治参加で日本を変えるというのは、団塊ジュニアが20代であった90年代~00年代前半ぐらいまでなら多少のリアリティがあったかもしれないが、若者の人数がかように減ってしまうと日本を変えるのは難しいだろう。
筆者は民主主義のルールを作り変える提案をするといっているが?それはどういうものだろう。
例えば、年齢とともに権利の幅が縮小されるような政治体制?
それは、また平等主義に反しそうである。
読むうちに明らかになるだろう。
【B,要約】
・民主主義が故障。
今回の選挙結果をみると、国会に出席しない議員の誕生とか馬鹿も休み休みに言えという状況である。芸人と政治家の境界が曖昧。確かにそうだろう。
・ここ20年の経済を見ると民主主義的な国ほど、経済成長が低迷し続けている。…民主国家の経済も閉鎖的に近視眼的になってきた。
経済成長に関しては、先に発展した先進国の経済成長は、一通り国民の中に物が出回ったことで頭打ちになったことが主因と思っていたが、それだけではないかもしれない。
中国やロシアに関しては、もともと現行技術範囲内でも成長限界まで大きな開きがあるため成長余地が大きいとともに、インターネットで先進国の技術情報を容易に手に入れられる状況となったことで、情報面での障壁が小さくなったことが、ここ20年ほどの経済発展の主因と思っていたのだが、違う側面もあるかもしれない。
特に「近視眼的」というところは、思い当たる点がある。
例えば、民間では投資資金を回収できるまでに時間がかかるような、長期的な視野での大きな投資は難しい。創業者社長なら可能だが、サラリーマン社長ではかなり難度が高い。
同様に政府も、錯綜する利害関係人(国民を含む)が互いに我田引水しようと、百家争鳴であるので、国家として中長期をみた政策実施の難易度は高い。
別に我田引水しようと大騒ぎするのは、政治家に限られるものではなく国民も同様だ。
比較的貧しい層に10万円を支給すると政府が言った時の騒ぎなどよくもまぁ、あれほど知恵の限りを尽くして、大勢の者たちが自分に10万円を支給すべきと叫べるものだ。
日本人が民度が高いなどというのは幻想だ。
・凡人の日常感覚(世論)に忖度しなければならない民主主義はずっこけるかもしれない。
確かにそうだろう。
世論に配慮し、議論が尽くされる、要は利害関係人が言い疲れてガス抜き完了するまで決断ができない体制では、戦争や疫病への対応は難しいだろう。
判断したころには、そのたびに状況が変わっているだろう。
独裁国のほうが判断スピードは速い。
トップがポンコツの独裁国家なら滅びるが、全ての独裁国が亡びるに値するほど独裁者がポンコツのわけでもなく、滅びるところと、より強くなるところへと二極化するのだろう。
・民主主義との闘争
すなわちシルバー民主主義の打倒を含む政治改革ということ?無理と違うかな。世代間争いなうえに、各個人でみると10年前の立場と現在の立場、10年後の利害がどんどん変わっていくわけで、自分が若いうちは若者を優先すべきと言い、自分が中年になれば中年を優先すべきと言い、自分が老人になれば老人を優先すべきといいだすわけで、上から目線でみると滑稽な劇をみるのと同じような状況になりそうだ。
・無意識データ民主主義
だれが、そのようなソフトウェアが作るのか?
私が、そのソフトを作るなら、できるだけ周りに気づかれることなく自分に有利な政策判断をするように作りこむだろう。
ゼロから旧満州のような人造国家を立ち上げるならAIが管理する政府もありかもしれないが、既存の国家の改造案としてはそれができると考えるのは人間の利己性をなめていると思う。また、AI管理の体制下における政策判断で不利益を被る一部は、必ず反発するだろう。いわく「人間の神聖性の冒涜」「血も涙もない冷たい機械」などなど。そして利益を受ける側はそれに対して反発し、結果、分断がどうのこうのと大騒ぎだろう。SFだと思う。
・「暴政」という小さな本
・民主主義の建前めいた美しい理想主義的考え方は、したがって、嫉妬の正当化ともいえる。
筆者はえらいことを言いますな。建前めいた理想主義的考え方とは、現実に基づかない夢想的な理想ということであろうか? たしかに、理想以外の現実からは目を背けて、理想主義を語るのはバカだと思うが。
【第1章 故障】
・民主主義的な国ほど、今世紀に入ってから経済成長が低迷し続けている。
この部分が一番読みたかったのだ。グラフを見ると、確かに民主主義国家のGDP成長率は低迷している。
ただし、それらの民主主義国家のGDPの規模は2000年時点で既にかなり大きい。
一方で、2000年時点における人口規模のわりに中国やインド、エジプト、ナイジェリア、ロシア等のGDP規模はかなり小さい。
一人当たりのGDPで考えると、さらに小さくなるだろう。
人間の能力がほぼ同じと考えると、何主義の国であろうと、よほどの阻害要因がない限り、一人当たりのGDPが世界的に平準化される方向に進むのではないか。
とくに、インターネットの発展により先進国と中進国で手に入る情報の差が極めて少なくなっている。
手本を模倣する中進国の発展速度が速いのはあまり不思議はない。
しかも、これらの中進国は人口ボーナス期に重なっているのでは?
文明の興隆のリズムが、先進国に比べて一拍遅れてきたが故の様にも見える。
工学的な実験とは違うので、条件をそろえることは不可能であるが、もうちょっと他要因もありそうな印象を受けるグラフだ。
知りたいのは、今後は民主主義国家と比較して専制主義国家の投資利回りが大きいかどうかだが、どうも材料不足な感じがする。今まではそうだったけど、今後はわかりませんということであれば、民主主義を改める論拠としてそれでいいのという気はする。どちらにしても関心があるのは投資利回りが今後高い国はどこか?ということなんだが。
論文の記載があるので、後で少し見てみよう。自分に理解できるかは怪しいが。
・コロナ禍では専制主義国よりも民主主義国のほうが失敗した
これは単に専制国家のほうが判断スピードが速く、一部の層にコロナ対策による損失を被せる政治決断が容易という点があるのではないか。つまり専制主義と民主主義の特徴の差が、民主主義側にマイナスにでる状況だっただけで、元々そのような欠点があること納得づくで民主主義を選択すべき事柄かと思う。
・代議制民主主義が緊急事態に弱いという観察は昔からされてきた。
それはそうだろう。俺でも思うことを専門家が考察対象から外すわけがない。
・それ以外の通常時にも民主主義は、経済面で痙攣し続けてきた。
緊急時はもともとの性質として、通常時に何故そのような現象が生じたかが問題だろう。なんらかの環境的な要因の変化が起きたということか?
・インターネットやSNSの浸透に伴って民主主義の劣化が起きた。閉鎖的で近視眼的になった。
・政治がウェブとSNSを通じて人々の声により早く、より強く反応するようになった。人々を扇動し、分断する傾向が強まった。政治がPVゲームに蝕まれ過激化している。
たしかにPVが伸びたもの勝ちという状況がある。昔、黒い文章術という本だったかで読んだのであったと思うが、人々に注目を集めたければ世間の言説に対して敢えて逆張りした言説を打ち出すと良いというのがあったと思う。
たしかに小説家になろうのエッセイにおいてもそうした文章がランキングに載ることがよくあるように感じる。それをあえて意図的にやっているように感じるエッセイもあるように感じる。扇動的な言説をあえて流すことによるPV稼ぎとでもいおうか。構造的には、デマゴーグによる売名行為のミニ版みたいな感じとでもいおうか。ゲームとして面白くはある。
とはいえ、小説家になろうの中でテンプレがとか、感想がとかはコップの中の嵐みたいなもので観察して楽しめればそれでよいが、こと政治経済に関わる話になってくると他人事ではいられない。
逆張りの言説に触れたときに、自分自身の利害に対してがどう影響するかが重要だ。短期的に影響がなくても回りまわって損失をこうむるような言説であれば、影響をうけないようにすることが大切だ。一方でそのような言説に影響を受けた人々もいるのが事実であるので、それを計算にいれた行動が必要になるだろう。何ともややこしい話である。
・政治家たちは落下ギリギリのところでどれだけ耳にこびりつく極端な発言を繰り出し続けられるかのチキンゲームに興じている。
筆者がそのような政治家として吉村大阪府知事があげているのは不本意だが、そのように見る人もいるのか。うちの県の知事と替えて欲しいと思ってみていたが。
・民主主義の背骨を成す構成要素の崩れ①ポピュリズム ②ヘイトスピーチ ③分断 ④保護貿易
まるでWW2前のドイツのような話だ。結局、これらは経済的低迷から生じているのだと思う。どちらが先かと言われると経済的低迷が先にあり、その後これらが生じたとみるのが妥当と思う。つまり民主主義の安定は経済が安定が前提条件だ。つまり①から④を改善しても経済状況が良くなるわけではないだろう。
・民主主義の劣化に連動して国家の事業活動や経済政策にも変化がおきた。
同時進行的に生じてはいるものの順序的には、経済低迷、民主主義劣化、経済政策変化の順であろう。では経済的低迷の前にはどのような環境変化が生じたかということになると、この本によると情報革命ということだろうか。個人的には、情報革命だけではなく、中国やインドの再興隆も要因のひとつとしてあり、世界の文明の興亡のリズムの影響もあるように感じる。中国人と日本人を遺伝的にみると、脳の知的処理能力はほぼ同じであろうかと思う。すると人口と資源を多く持つ国の国力が高まるのが必然である。
・短期の収益が優先され、未来を見据えた投資がしづらくなっている。
日本全体ではこれが言えるだろう。デフレも影響していると思う。金を溜めこんでもっているだけで価値があがっていくのに、あえて損失のリスクを冒してまで投資をしていくのはサラリーマン社長にはしにくい決断だ。創業社長や家業なら可能と思うが。でも、その投資をしないから価値ある物品が作れなくなり、国力が弱まって円の価値が落ちて、相対的に価値の高い輸入品の値段が上がってインフレになった。しかし、国民はデフレを望んでいる。であるからサラリーマン社長がon your riskで投資しなかったのが悪いという話でもないと思うが。結局、物の道理から行くとアンビバレントな望みが成立しなかっただけで、そこになんら特殊性はないのだろう。渦中にいるうちは見えないが、終わってみれば当たり前の原因に基づき、当たり前の結果が出ただけの話。
・民主国家の経済停滞の解剖図
うーん、この本の話の流れからすると、「SNSの勃興」と「民主主義の質の劣化」の間を連動とするのではなく、SNSの勃興が要因で民主主義の質の劣化が結果ではなかろうか? 本当にそうであるか、またそれが劣化の主因であるかは確認が持てないものの、一因ぐらいではあるのだろう。前の方のページで「衆愚論だけでは説明ができない」としているが、衆愚が一因であることを明確に否定していない。「だけでは」としているということは、衆愚が一因としてあり、他にも要因があるということか? なぜSNS勃興が民主主義の劣化と連動するかの解析が重要だと思う。そもそも大衆は愚かといえるのかという疑問がある。単に知恵の限りを尽くして、個人の利益を声高に主張しているのであって、愚かというべきものでもないのだろう。全体の利益を考えないことをもって衆愚と定義するなら、衆愚ともいえるが。それはさておき、その結果、全体としてみると利害衝突がある言説が乱れ飛ぶ。マイノリティの意見も丁寧に汲み上げるべきというポリコレに縛られて、政治は利益の相反する課題に関しては先送り、あるいは玉虫色の政策を繰り出す。これを評して痙攣と呼ぶと言ったところか。ゲーム理論におけるナッシュ均衡の結果が政治が痙攣した世界?
前の方のページで民主主義は非常時に弱いという話があったが、何故弱いのかについては言及されていない。思うにこれは非常時には集団の構成員間の利益相反が現出するためであろう。SNSの勃興により、利益相反が露になる閾値がさがり、従来は通常時(つまり利益相反がみられない)の領域にあったことが、非常時(つまり利益相反がみられる)となりやすくなったということだろうか?
とりあえず、自分の中では納得がいった。
・ビルゲイツの「次の世界大戦はウィルスとの戦争になる」という警告を民主国家は無視してきた。
結果は正しかったわけだが、それって後になればそうだとわかるが、何も起きていない段階で金をかけて対策ができるようなものかと思う。MITではPCRを早期に準備できてうまくいったというものの、PCR検査機の在庫や生産能力からみて世界の民主国家が同時にMIT並みの速度で実施手出来たとは思えない。結局、頭のいい奴が、頭の良さに応じて初動が早くて、PCR検査機の在庫が残っているうちに早期に調達できたということではないか。出遅れたところは生産待ちの列の後ろに並んだということだろう。あと、全く専門外であるが、全ての疫病にPCRが有効なのかという点も疑問がある。しかも、何も起きないうちに全国民に対応する分のPCR検査機を持っておこうと思うと、設備寿命による更新や、測定精度を維持するための較正、つまりマネーが必要なわけで、それって「いずれウィルス来るから!」って話で、国民が税金からの支出に同意するとは思えない。例えば、地球に小惑星が衝突することに対して、日本の全県で対応できるかという話も同じだろう。そりゃ、いつかは恐竜が絶滅したクラスの小惑星衝突が生じる可能性はあるが、そのようなことに政府が税金を支出すると言い出したら、バカでなかろうかと思う。どうにも後出しの批判のように思う。
・平時でも有事でも張るべきところに素早く張れない民主国家の煮え切らなさ
それを国民が望み、望んだとおりになっているともいえる。一人ひとりが、自分の利益となることは素早くやってほしいと言いつつ、他人の利益になり自分の利益にならないことは反対し、自分の利益になることを先にやれと主張するのであるからだ。
・一見すると猛烈な浪費にもみえる赤字や痛みにつっこんでいくサイコパス性が必要になる。
それはその通りであるが、国民はそのサイコパス性についていけるか?丁寧に説明されると全ての人が納得するのか。丁寧な説明とはどこまでやれば合格点になるのか。サイコパス性も丁寧な説明も全てAIに代行させるか。AIに代行させればすべての国民が納得しうるか。何とも疑問が尽きない話である。
・超人的速さで大きさで解決すべき課題がふってきては爆発する世界では凡人の形成する世論に忖度しなくてはならない民主主義はずっこけるかもしれない。
大勢でみると大きな利益があるものの、一部の人間に微小な損失が生じるような政治的決断を超人的速さで行い、実行することに国民は耐えられるか?例えば、新型コロナ禍では自由の制限であったりするだろう。
結局、周囲の環境次第で民主主義と専制政治のいずれがより発展するかは、環境次第で変わるということであり、SNSが勃興した中では後者のパフォーマンスがより高いということか。文明や民族としての生き残りという観点では、専制政治に振っていったほうが、より生き残りの確率が高まる。
それがここ20年ほど民主国家より専制国家のパフォーマンスが良い点に現れてきているということか。そのような意味では、戦前の日本の体制が適しているのやもしれないが、一度付与された自由や平等が制限されることに民衆は耐えられないだろう。このままいくと、いくつかの民主主義国家は相反する利害の挟間で痙攣しながら衰退あるいは滅亡に向かうということか。
びっくりするほどディストピア! びっくりするほどディストピア!
・世論に監視された政治家は張るべきところに張れない、その傾向がネットとSNSで悪化している
なるほど、ここまで読むと納得できる。
・あらゆる人がグローバルマスメディアを所有している今では、あらゆる政治家がポピュリストにならざるを得ない。
ポピュリストとは何か?Wikiによると大衆迎合主義者、複数グループの利害調整は排除する傾向が強いとのこと。利益が相反する大衆迎合主義者同士の争いか。しかも利害調整をしないとなると、チキンゲームなわけだ。そして、ある意味、国民はそれを望んでいるわけだ。つまり自分の利益を代弁する大衆迎合主義者が、利益の相反する他者との利害調整を一切行うことなく、政策実行することを。なぜなら利害調整すると自らの利益が下がる可能性がある。
・政策論点が微細化、多様化しているにもかかわらず、投票対象が政治家や政党。
この話の流れからすると、政策ごとに電子投票するという提案をするのだろうか。それはそれで面白くあるが、四六時中、政策ごとに投票しなくてはならないし、国民が個別の政策の理解をしうるかという問題はありそうだ。結果、例えば統一教会のような怪しげな集団が、人数に物をいわせて自己にとって都合の良い政策を実施していかないとも限らないが。まぁ、もう少し読み進めての話だろう。
・偽善的なリベラリズムと露悪的なポピュリズムのジェットコースターで政治が気絶状態
なにやら面白い表現であるが、偽善的なリベラリズムとは具体的に何を指してのことだろう。この後で詳細説明があるのだろう。
・問い 民主国家はどのような持病を抱えているか?
章の頭の問いに対する著者の答えは、情報革命に対応しきれない政治形態ということだろう。
【第2章 闘争】
・問い 選挙の仕組みをどう改造するか?
要約からすると電子投票やAIやビッグデータ活用などの話がでてきそうだ。
・この本も売れないに違いない。
ご謙遜を。現在、新書ランキングNo.1です。帯の「いっちゃいけないことは、たいてい正しい」のコピーが秀逸だ。私はこの帯を見て手に取ってみた。コピーライターはどなたであろうか。
・重症の民主主義が生きのびるために必要なのは、独裁や専制への回帰ではない。
このあたりは、どの立場で見るか次第であろう。日本文明として生き残りを最優先とするなら専制への回帰もありだと思う。というのは、専制的政治体制は過去に実施された実績があるため、成立するのが明らかなためだ。一方で何ら権力を有しない庶民の立場からみると、筆者に同意するのが最も利益が高い。仮にAIや情報技術を活用した政治体制が机上の空論であれ。最近のKDDIの通信障害をみると、情報技術に依拠した政治体制も平時に限り成り立つものであるようには感じる。
・外国人・マイノリティへのヘイトスピーチなど民主主義の劣化が加速
たしかに、それは劣化であるが、それが政治の痙攣の要因というなら納得できない。
・極論を作るソーシャルメディアへの介入と除染
言論の自由を制約するということか。それは部分的な専制政治の導入と同義では?この懸念に対する解は、この先で語られるでのであろう。読み進めよう。
・選挙のルールを未来と外部・他者に向かうように修正する
若者に比較して、高齢者のもつ一票の価値を削減するということか?平等主義に反するのでは?それは富国強兵につながるであろうが、やはり政治の専制化ではないか?これについても読み進めてみよう。
・政治家が未来と外部・他者に向かって政策を行うインセンティブを作る
つまり選挙でえらばれるということで、上二つを実施するということか?あるいは議員報酬が増額するのか?誰がその増額を判断するのか?いろいろと疑問がある。同様に著者の回答へと読み進めてみよう。
・若者の老害への怒りが、絶望や脱力に変わりつつある。
それはあるかもしれない。TVを見ていると、自分が若いころから活躍しているタレントが、いまでも第一線である。つまり世代交代が数十年前よりはるかに生じにくくなっている。でも、それは世代交代を生じるだけの実力がないからという面があるが、医療の進歩でどんどん寿命が延びる時代にあっては、脱力するのはわからないでもない。だからといって、制度的にTVのタレントを強制的に交代させるのは、人権侵害ともいえるような気はする。
・政治家への長期成果報酬年金
これシンガポールを例に出してきているが、この国は「明るい北朝鮮」とも呼ばれる国と呼んだことが在るが?ちょっと調べたが、言論の自由がなく、世襲の独裁国家ではないか。独裁国家をベンチマークして有効な政策を導入するということだろうが、このようなことが日本で可能か?
・政治家や官僚への成果報酬
だれが、どのような指標で評価するのか?客観性の担保はどのようにするのか?民間では導入するたびに、うまく機能しなくて撤回されている話と思うが。響きは素晴らしいが、実現性がありそうには感じない。
・メディアに対して情報成分表示やコミュニケーション税を課す
食品の成分表示であれば有体物の表示であるので可能であろうが、情報成分の表示などどうやって客観性を担保するのか。コミュニケーション税は、どの程度からメディアに相当するのか、例えばYou tubeのように個人でも情報発信でき影響力を得ることができる時代だ。SNSの運営者に課すのか?例えばGoogle自身が自主規制として行うならあり得るが、政策として国内のSNS業者を介して発信者に税を課すことができるとは思えない。
・コミュニケーションの量への規制、質への規制
それは、言論の自由、知る権利へ制約を加えるということであり、すでに部分的に専制国家への回帰といっていいのではないか?民主主義と部分的専制化のハイブリッドの政治を行うのと同義ではないか?民主主義のバージョンアップと言うには疑問がある。一概にそのようなハイブリッド政治が悪いとは言わないが、それならそうとういうべきではないかと思う。
・老人から選挙権を取り上げることは無理でも、現役世代の有権者の投票に有形、無形の報酬を与えようなら成立可能かもしれない。
いや、それ冒頭で筆者自身が老人と若者では人数差がありすぎて、若者の政治参加や選挙にいくなどの生ぬるい行動で変わるような状況ではないといっているではないか。実現の可能性は高かろうが、さほど有効性はなさそうではないか?何ら違いがないなら、単純に世代間対立を可視化するだけで分断を助長するだけではないか。
・政治家、政党から争点、イシューへ
うーん、これは性善説に基づいた制度であるうえに、かなりコストが高いように感じる。上の方で述べたように宗教団体による飽和攻撃のような投票行動や、扇動に対して脆弱な制度ではないか?
・既存の選挙を改善することはいったん諦めてしまおう。
いやいや、なんのためにここまで読んだのかw。
逐一考えた、自分がバカのようである。
【第3章 逃走】
・グローバル大企業ほど特許などをタックス・ヘイブンにおいて節税している
どういうことだ?権利者の居所がタックスヘイブンであったとしても、各国の特許庁へ支払う維持年金は同じだろう。ライセンス収入について節税できるということか?
第3章は、金持ちや特殊スキルを持つもの向けの話だった。自分にとって何ら参考にならない章であった。
【第4章 構想】
・選挙も政治家もいない民主主義はありえないだろうか?
そのようなものが既存国家の枠組みの改変で実現可能な気はしないが、なにか実現可能な話があるのだろうか?
SFのように電子空間へ人格・記憶をアップロードして形成した仮想空間へ移住すれば可能な話になってしまうのではないか?あたかも芝村裕吏の描くセルフクラフトワールドのように。
いやいや、最初の数ページで本当にSFのネタ帳みたいな話になってきたぞ。こいつはすごい、監視カメラや言動どころか神経伝達物質やホルモン分泌量まで監視する明るい北朝鮮も真っ青の超々監視社会ではないか。
そのメインコンピューターは、ビッグブラザーともいい、スカイネットとでも名付けようか、あるいはクラウド上で分散して構成され明確な位置の限定は不可能で全地球規模に分散的に配置されているのか。謎めいた存在となるのだろう。
投票行動の履歴監視までするのか。個人情報保護など屁とも思わぬあり様は、全体主義国家も顔負けであるな。ちょっと、中国政府の関係者が聞いても、さすがに神経伝達物質の監視はないわーといいそうだ。さすがに神経伝達物質やホルモン分泌量まで監視されてラベリングされると、いつ反共主義者として糾弾されるかわからないだろうから。
なんかビッグデータの解析とか、人工知能の学習方法の解説みたいな話になってきた。んー、政治家に代替してAIにビッグデータを活用した政治をやらせるということか。
これは、利益が相反する集団間の利害調整もしないうえに、政策判断の過程が半ブラックボックス化するのではないか。人間にはほぼ検証不可能ではないか?民意やAIの無謬性に依拠した政治体制になりはしないか?
既存の選挙で当選した政治家がビッグデータや人工知能を活用して政治的決断の材料の一つを確保するのは同意できるが、こいつは話がやばすぎるだろ。
それとも、これは何かの交渉術なのか、先に読者がどうあっても受け入れ不可能な条件を提示して、その後で一段レベルを下げた提案をする類の。
AIが作った政策を政治家に発表されるのか?それはハンドルのない自動運転車の運転手と同じで、政策が失敗したときの首吊り要員とおなじではないのか。
・神託に身を委ねる
えらいことだ、AIを神として神託政治の時代まで先祖帰りを果たすか。ずいぶんと前に見たAIが描いた恐怖画像を思い出した。
・無意識民主主義
投票という行動を経ることで、文化や教育というオブラートに包まれた姿を保っている。それが無意識を抽出するとなると、人間のむき出しの本能の写しから作られた神の姿は、いびつな獣の姿でしたというオチになるのではないか?
とりあえず、最後まで読んだがえらいこっちゃだな。
1章と2章は、読む価値はあったが、4章はSFのネタ帳を読んだ気分になった。
人類がマトリックスの世界みたいな場所へ移住するなら可能やもしれん。
行政でビッグデータによる解析結果を補助的に使って政策実行にあたっての参考にするぐらいが適当なところではないか。
以上