十三角関係 著:山田風太郎
感想欄はあけていません。
●十三角関係 山田風太郎傑作選 推理編 河出書房新書
書店でカバー装画を見てで手に取り、冒頭の数ページを読んで購入した。
カバー装画は「双亡亭死すべし」の藤田和日郎。
絵柄が小説舞台の戦後直後とよく合っていると思う。
できれば、本編中にも挿画がほしかった。
時代背景は、昭和20年代。
太平洋戦争終戦が昭和20年なので、一定の復興はあるものの戦後の混乱期。
冒頭は、殺人事件の描写。
売春宿の動く看板である赤いネオン付き風車の4枚のそれぞれの羽根にバラバラ殺人の遺体がとりつけられているという描写。
妖しく幻想的な絵が思い浮かべられる描写で、アニメ版の「帝都物語」や、「迷宮物語 ラビリンス・ラビリンス」の作風で薄暮のような背景の中、薄っすらと赤く輝きながら、ゆっくりと回る風車のそれぞれの羽根に、白いような灰色のような細長い正体不明のものが取り付けられている様子を想像することができた。
書店で最初の1ページだけを立ち読みし、これはなかなかのものだ、続きを読みたいということで購入。
漫画版の風太郎不戦日記などを読んで、氏の書いた推理小説も読んでみたいと思っていたところだった。
描写をみて思い浮かべる景色が、江戸川乱歩と似たものを感じた。
以下ネタバレ含む、読後感を書く。
購入するつもりがある方は読まないことをお勧めする。
本作は本格推理小説につき、読んでしまうと謎解きが簡単になってしまい、本作の魅力を減じてしまう恐れがある。
あとがきで、フェアプレーに徹した正統謎解き論理ミステリとかかれているように、真犯人を推理する材料は全て読者に与えられている。
全13章のうち、第2章で本格推理小説であることに気づき、手がかりや考察をメモしながら推理に取り組みながら読み進めた。しかし、最後まで真犯人を見抜くことができなかった。
意外な驚愕の真犯人。
いわば私がつくった容疑者リストには最初から最後まで一度ものぼってこなかった人物であった。
しかし、後からよく考えてみると、そのことを示唆する言葉が確かに書かれていたのだ。
なんらかのつながりがあるとは思っていたが、まさか真犯人があの人であったとは!
真犯人が見抜けなくて残念、しかし、満足のいく一冊だった。
以下は、私が読み進めながら書き留めた手がかりや考察。
読後に自分で見て、この章ではこんな風に考えていたのか、ここで考察をミスっていたなどと、自分自身が振り返って楽しむ内容になっている。
同じ本を読んだばかりの人であれば、楽しめるかもしれない。
【第1章 車裂の美女】
被害者が風車に吊るされているのを見て、売春婦のまゆみがケタケタわらう。笑う?嗤う?
なぜワラッタか?
【第2章 七人の訪問者】
第2章を読んで、これはちゃんと読者が犯人を推理できるタイプの推理小説ではないかと気付きメモを取って推理しつつ読むことにした。
犯行現場への出入りの時間
パパさん 入 7:30 出 7:50
A新聞記者 入 7:50 出 8:00
白マスク 入 8:00 出 不明
紳士 入 8:30 出 8:45
久世 入 8:50 出 9:00
黒マスク 入 9:10 出 9:40
坊ちゃん 入 9:40 出 9:50 遺体発見者
久世 9時に被害者の生存確認
女郎証言 9時に被害者の声をきいている
【第3章 アリンス国女王】
第3章冒頭の情報では、遺体をばらすために1時間必要ということなので、必然的に複数の人間がかかわっている可能性がある。
タイトルが十三角なのに、マダムに会ったのが7人なので6人足りない。
この後で、登場するのか?
白マスクは帰っていない?つまり部屋に残って遺体をばらしていた?
つまり、白マスクの後に来た連中は白マスクとあっている?
9:00に久世取締官がママの生存確認をしたといっているが怪しい。
虚言か?
従業員も証言しているが、アリバイを偽るための声真似か?
女給達の証言に虚言が含まれている可能性は?一応、設定上、純朴無知で虚言をするキャラとしては設定されていないようだが?
うーむ、松葉組の3人と証言した女給の人数まで含めると13人をオーバーする。
うーん、表紙に書かれた絵の人数は主人公を除くと13人。しかし、刑事のようなメモ帳を持った人物が含まれている。こいつは記者か。
女給っぽいのが二人か。。十の文字が大きいのは意味があるのか?十人の関係者がおり、また三角関係が原因?
いや、それはおかしいか。
目次を見ると第十一章が「人間万事嘘ばっかり」第十二章が「告白連鎖反応」か。
人間と呼んでいることは、3人以上ぐらいウソがあるのか?
女給の証言が虚言込み?すると、一人だけなら他の証言との矛盾を見つけられるが、複数人の虚言があると、推理そのものが成立しなくなるのでは?
現時点の推理では、白マスクが遺体解体に関わる。紳士、久世、黒マスクはそれを幇助。
パパかA新聞記者は毒殺実行犯。
坊ちゃんが遺体解体現場で敷いたシートの回収、血を火鉢に流し込む作業を行った。
9:00のマダム生存は久世のウソと、女給は替え玉をみた。
ん、裏表紙のあらすじ紹介には12人と書かれている。
登場する女給は1まゆみ、2ユリ子、3鮎子、4ひとみ、5朱実。あわせて12人。
被害者のマダムを合わせて十三。
なるほど、風車の形を十字架に見立てて、表紙は十三角関係になっているのか。
登場人物数が十三。風車を十字架に見立てて十。残るは三角関係か。。
主たる実行犯が二人おり、他はアリバイ工作の協力者か…
あとは第1章で登場した遺体発見者の女子高生 伴圭子。
第1章で女子高生が届けようとした聖書はなんだろう?
風車を十字架とみたてたことと符合するので、事件に無関係ではなさそうだ。
しかし、届く前に殺人は起こっている。
ん、13角関係と関係ないにしては松葉組の3人の話がやけに詳細だ。
何らかの意味があるとしたら。。
やけに犯行を示唆するような話、ミスリードやブラフ?
としたら朱実の証言に何かあるのか?
朱実の証言をもう一度読み直そう。
気になる部分
・犯人は狂人、精神病院を探すべき…女子高生の女親が精神病院へ入院している
・朱実は、松葉組の3人組が犯人だと刑事に言っている…ミスリードの疑い
・この稼業はやれて10年
・朱実は既に2回出戻り
・パパの浮気の話もやけに詳細に書かれている
・朱実の証言に時間トリックに関連するような話はない。マダムの人となりの話のみ。
怪しいが、トリックに介在する情報は証言に含まれていない。
マダムが女給から好かれているという話にウソがあるのか?
まゆみ、ユリ子、鮎子のいずれかの証言をもう一度見直そう。
・まゆみは、遺体発見時に笑った。嗤ったのか?単なる雰囲気を盛り上げる描写ではなく、マダムになんらかの恨みがあった?
・まゆみは、主人公に「ママさんは、「さっき」十時になったらネオンをつけてっていってたわよ。」と言っている。
これは怪しい、殺害時刻が8時±1時間なら、マダムはとっくに死んでいる。
まゆみの証言には、ウソが入っている前提でみるべきか?
パパは新聞記者と会いに来たようだ。パパは新聞記者と会えずに入れ違いになっている。パパが店を出たのは7:50。
しかし、証言はパパの来た時間が7:30だけか。
白マスクとあうときにネオン消灯、それは8時。
・ユリ子は、マダムが9時に生存中で10時になったら、ネオンをつけて良いと言ったと語っている。死亡推定時刻が7~9時なので、ほぼギリの時刻だ。
こいつも怪しい。
・鮎子も、マダムが10時にネオンを点けろと言ったと証言。
3人ともウソを言っているか、そこまで示し合わせるのは変だ。
すると、不在だった女給 ひとみが、マダムの替え玉になっており、0時にネオンを点けるように指示したのか?
それをまゆみ、ユリ子、鮎子の3人はマダムが言ったと誤解したか。
この後で、ひとみの容姿や声質の描写がでてくる?似ているか?
事件は、車戸が音頭をとっている売春処罰法案に関連している?
そういや、売春はキリスト教で何とか書かれているか?
箴言23:27-28には「遊女は深い穴、見知らぬ女は狭い井戸だから。彼女は強盗のように待ち伏せて、人々の間に裏切り者を多くする。」
罪とされているようだ。
これは、女子高生 伴圭子の母が狂人で、マダムに聖書を送ったことと関連するのだろう。
聖書、十字架(風車)、売春の罪というラインが一つあるようだ。
おそらく、狂人はマダムの経営する売春宿で働いていた女給だったのだろう。
聖書の裏切りという文言も示唆的である。
時間トリックは、ひとみがマダムの替え玉になっている点と、あとひょっとして売春宿の2階は部屋が2つあるのではないか?
2階に部屋は複数ある。
すると、久世が平然としていたのは、違う部屋に案内されて、替え玉のひとみと会ったからでは?
一方で、紳士が驚いたのは、遺体の解体現場を目撃したからでは?
紳士がトイレットペーパーのにおいがするというのは、他の売春宿の関係者か?法案対策について話しに来た?
時間的には、遺体解体作業をしたのは白マスク。
毒を盛った実行犯はわからないが、可能性があるのはパパ、ひとみ、白マスク。
トリックの見当は、ついたのかもしれない。
もう少し、読み進めてみよう。
【第4章 青楼の賢夫人】
きっと18年前のパパの浮気の相手の代役。
おそらく、女子高生はパパの子供だな。
そして浮気相手は女子高生の母親の狂人。
そして聖書を渡して受け取り証を求めたのは、浮気の赦しを求めたのではないか?
いや、そのようなキレイなものではなく狂人となったのは、マダムからの苛烈な報復があったから?
それが殺害に結びついている?
あら、ひとみが女中としてパパの自宅で最初に電話にでたという話が出てきた。
ひとみにはアリバイがある。ひとみが替え玉という説はハズレか。。。
しかも、マダムの浮気相手が伴で、伴がマダムの若いころの同級生とか。。
しかも、伴を争って負けた相手が女子高生の母の狂人か。
一応、浮気相手説のラインはまだ残っているが、何か変な感じになってきたぞ。
狂人は、伴元医師とパパの二人をマダムから奪った形になっているのか?
どうも、パパの証言にウソは無いように見える。
第3章で推理した「ひとみ替え玉説」は崩れた。
すると、9時にマダムがネオンを点けるようにいったという証言をした3人ともウソをいっている?
わからなくなってきた。
【第5章 記者とGメン】
新たな情報 紳士=保守党代議士 立花
記者が飛び出したのは、マダムにはぐらかされて癇癪をおこしただけか。。なんだ。
山田風太郎先生は、戦中の新聞にかなり腹を据えかねていたらしい。ぼろくそに書いてある。
記者も、怪しげに書いてある。ブラフか?
ただ、毒殺に加担してあからさまに駆け出して出ていくか?
むしろ、平静を装うだろう。
遺体を解体する時間ではないし。
マダムは、麻薬捜査官 久世の協力者で、いわば界隈のものを告発していたわけか。
だいぶん、恨みを買いそうだ。
宿の部屋は3畳で滅茶苦茶狭い。隠れる場所無し。
久世も怪しげな描写がある。
ミスリードか?
【第6章 母よ不知火】
不知火ってなんだ?夜間の海上の正体不明の明りのこと。
ヒトミ、伴圭子、坊ちゃんにはつながりがある。
坊ちゃんの描写は怪しいが、10分間しか滞在しないのでは、遺体を風車につけるもの難しいのではないか?
坊ちゃんを売春宿に呼び出した人物はしゃがれた声をしていた。咳をしていた。
親父を呼び出したものとは別の声。
マダムが愛したものは誰かという問いに対する、ヒトミの反応。ヒトミはマダムの愛人?
怪しいがつながりがわからん。
【第7章 そこからはじまる】
圭子が、パパとの子というのは誤った推理だった。
伴医師が東京に来たのはここ2,3年なので関係を持ちようがない。
マダムは伴医師のモルヒネ減量に協力して、モルヒネを渡していた。
伴医師がモルヒネ減量に激高して殺人はないか、、もっと計画的な殺人にみえる。
伴医師にかかってきた奇怪な電話、これで伴医師は容疑者ラインからはずれたが。。
伴一家の3人とマダムの関係は事件の動機と深いかかわりがありそうだ。
【第8章 都の雨に降る夜は】
黒マスクと白マスクは、既に登場済みの人物の変装ではないか?
白マスクの後に決まって黒マスクが来ていたという証言があったはず。
黒マスク=白マスクの可能性すらある。ただ、何故白黒2回に分けるか?意味がなくないか?
しかし、白マスクと黒マスクの滞在時間合計はマダム殺害と解体の犯行に十分な時間となりうる。
チェホフの6号室とは?
チェーホフ作「6号病棟」
精神病棟の狂人と日々、知的会話を行っていた医師が、狂人と診断されて自身も精神病棟入りし、ついにはそこで亡くなるというえげつない話。
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いているのだ、ニーチェの言と近い話。
狂人である伴夫人のセリフ「そう…だから聖書をあげようとおもったのに…」に思わず、ぞっとした。
これは何だろう、伴夫人は狂人の振りをしているのか、狂人なりの直感が働いたのか?
あるいは、マダムは伴医師に対する復讐として、モルヒネ減量をしていたのか?苦しめるために。
「曾谷博士は激しく咳をした」ということは、例の電話は曾谷博士によるものか?
坊ちゃん(車戸三樹少年)を売春宿に呼び出したやつ。
すると曾谷博士は、事件の首謀者もしくはそれに近い位置にいる。
曾谷博士も、だいぶ狂人のようだ。
これは、どいつもこいつも狂っているという塩梅になってきた。
曾谷博士=紳士 or 曾谷博士の兄の立花代議士=紳士
看護人にが嘘を言っていなければ、曾谷博士にはアリバイあり。
【第9章 遠く呼ぶのは誰の声】
里見記者にかかってきた風呂でつぶやくような声の主は、口調からすると女。
しかも、言葉遣いからすると女郎らしい。売春宿の従業員の証言者のいずれかか?
しかも里見記者は、そいつと接触しているからこそ電話がかかってきたようだ。
【第10章】
黒マスクは、売春宿の風呂焚きの紋太。
動機は何だ?それらしい表現はなかったが麻薬?
この様子では白マスク=黒マスクの線はないのか??
白マスク以外に解体の1時間を取れる容疑者がみあたらない。。
紋太がマダムとあいびき?それは奇妙。9:40までマダムが生存していては犯行が全く成立しない。
魔法でもつかわないと…
紋太は、マダムとのあいびきのとき部屋を真っ暗にしていた!
すると黒マスク=紋太のあいびきした相手はマダムの替え玉。
すると久世がマダムと別れた9時から9時10分の間に殺害したか、さもなくば久世が嘘をついている
しかし、一番怪しいのは白マスク。こいつは坊ちゃんなのか?
黒マスクの正体をヒトミが知っていると電話してきたのは誰だ?他の女郎の4人のうち一人か?
紋太が自殺。しかし、こいつ水に入った途端に死んだぞ。砂糖細工か…wそうはならんやろ。
【第11章】
いよいよ犯人当て。わからんが白マスク=坊ちゃん?あるいは里見記者?
たしかに怪しげではあるが、動機が不明だ。
全部嘘の尋問とは、尋問者が全部嘘を言いながら犯人を追いつめる?
なんとまぁ。こんがらがる。
面白い言葉「職に貴賤はないが、人間には貴賤があるぞ。品性の高いやつと低いやつは確かにいるのだ。」
これは全員共犯か?パパさんだけは違うか?
【第12章】
マダムは、松葉組親分と組んで麻薬取引をしていた。
久世麻薬取締官は、マダムの麻薬取引に一枚かむ事態に陥った。
坊ちゃんは、マダムの首を風車に掛けた。なんでだ?
伴夫人による宗教的影響、いわば洗脳のためか。
【第13章】
白マスクは、伴夫人!狂人として精神病院へ入院している伴夫人その人だったのか!
こいつはやられた。
想像もしていなかった。たしかに1か月。白マスクが現れなくなってから1か月、そして入院期間が1か月か。符合する。
狂人かつ精神病院へ入っているということで完全に容疑者から外していた。
ただ、伴圭子に聖書を運ばせたのは何故だ、犯行の目撃者にするためか?
この点を見落としたのかわからなかった。
最後は、ぞっとするとともに、なんらか感ずるものがあった。
つまり衝撃だった。
以上