バカと無知 人間、この不都合な生きもの 著:橘玲
●バカと無知 人間、この不都合な生きもの 著:橘玲 レーベル:新潮新書 定価:本体800円(税別)●
「私の性格は脳の状態次第で簡単に変化してしまうのではないか?」
あなたは、このような疑問をもったことはあるだろうか?
この本には、この疑問に対する答えが書いてある。
答えはYESだ。
特に私が興味深く感じた部分について説明しよう。
オキシトシンという共感にかかわる神経伝達物質がある。この物質が多いと愛情深くなるとされている。通俗的には「幸せホルモン」や「ハッピーホルモン」などとプラスイメージで語られることが多い物質だ。
このオキシトシンを用いたある実験の話をしよう。
被験者の鼻にオキシトシンを噴霧し、脳内のオキシトシン濃度を高めたとき、どのような変化がみられるかという実験だ。他人に金銭を一時的に預ける実験を行うと、オキシトシン濃度を高めたほうが、より相手を信頼しやすくなり、より高額を預けるようになるという結果を得られたそうだ。つまり、オキシトシン濃度が高まると、他人に対する信頼感が高まるという相関が確認された。
このように脳内の神経伝達物質の濃度次第で、人間は性格(判断基準)が変化する。
これは私の推測だが、逆に薬などで人為的にオキシトシンの脳内濃度を下げたらどうなるだろうか。おそらく、疑り深く酷薄な性格に変化するだろう。
そこから考えを進めると、現在の私の性格は、現在の私の脳内の神経伝達物質の濃度バランスに依るものであり、バランスが強制的に変化させられると、性格が変化するといえるだろう。他人はどうだか知らないが、少なくとも私に限っては魂に記録された不変の性格などというものは存在しないということだ。脳内の神経伝達物質のバランスの経時変化に伴って、性格が時々刻々と変わる可能性がある。
さて、オキシトシンが単純に愛情深くなる万能物質のように思われるとよろしくないので、念のためマイナス要素にも触れておこう。それは「愛情深く」の中身だ。答えを言うと「オキシトシンには、身内びいきの利他主義者にする効果がある」とのことだ。この「身内びいき」という点に問題がある。
例えば、身内と外部の人に均等にお金を配らなければならない場面があったとする。もし、ここで脳内のオキシトシン濃度を極端に高めてやるとする。すると、身内でお金に困っている人がいれば、外部の人に渡すべきお金を身内に渡してしまう行動をする。これは、公正さを無視した行為だ。誰もが身内びいきの世界では、国家間、民族間、階級間などで争いが絶えない世界になるだろう。
結局、単純にオキシトシンがあればあるほど良いなんてものではなく、過ぎたるは猶及ばざるが如しというもののようだ。
本書には、人間を生物的な側面からみた興味深いトピックスが数多く掲載されている。私を取り巻く世界はなぜこうなのか?なぜ彼らはあのようなことを主張しているのか?などとニュースやネットみながら疑問にもたれている方には、実にうってつけの本ではないかと思う。
なお、23章「善意の名を借りたマウンティング」は、小説家になろうのエッセイでの人気テーマ「感想欄」について考察するのに、大変興味深いことが書かれている。
興味を持たれた方は一度、手に取ってみてはいかがだろうか?
以上




