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いろいろ  作者: よむよむ
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面白い物語の法則<上> 著:クリストファー・ボグラー&デイビッド・マッケナ

本を読みました。

●面白い物語の法則 <上> 著:クリストファー・ボグラー & デイビッド・マッケナ 出版:角川新書 定価:900円(税別)● 


 本書の副題は、「強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術」である。

 物語に法則があるのなら、ひょっとしたら自分でも面白い物語が作れたりするのだろうかと思って購入した。

 最近は絵や小説の一部を自動生成するAIがあるそうだ。

 ならば、以下の手順でズブの素人の自分が小説を作ることは可能だろうか?


1 AIを用いて表紙絵、挿絵を自動生成

2 手作業で絵に合わせた形でシナリオを作成

3 AIを用いてシナリオの各シーンの文章を自動生成

4 手作業でシナリオに沿って各シーンを接続して、文章を手直し

5 手作業で挿絵をそれぞれのシーンにあてはめ


 もし可能であれば、一から全てを手作業で書くより、少ない作業量になると思う。

 一方で凡百の物語ができあがるだろう。

 しかし、今の段階ではすべて絵空事である。

 まずは、シナリオ作成の法則を知るべく本書を読み進めてみよう。

 

【第1章 テーマを持つ】


『テーマと前提が重要。それが明らかなら全体を通して、どのような雰囲気、感情を選択すべきから明らかとなる』


 なるほど、たしかに。

 特許出願の明細書でも、何が発明の本質か、何について権利主張すべきかを明確に認識していれば、実施例で何について必ず言及すべきかが自ずと明らかとなる。

 テーマとは一語で表されるもの、前提とはその一語を含む諺のような短文らしい。

 ただし、テーマの選択リストは掲載されていない。

 自分で探せということだろう。

 

【第2章 “求めるもの”リスト】


『キャラクタが何かを求めて動き始めるまで物語は始まらない。だから求めるものが必要。』


 当たり前の話であるが、言われてみると確かに。

 ふむ、何を求めるか、か。

 巻き込まれ型主人公であっても、行動原理には何かのテーマと求めるものがある。

 たとえば、平和な日常への回帰であったり、敵ボスの打倒であったり、愛する者を守ることであったり。

 この章には、リストが掲載されている。

 主要なキャラクタ全てにその設定が必要であるとなると、なかなか手間のかかる話だ。


 主人公が持つテーマと、主要な各キャラクタの動機をストーリーと整合させる必要があるとわかった。 

 しかし、この整合をAIにやらせるのは、かなり大変そうだ。

 

 なにやら、自分の人生観と動機を深く覗き込めと説く自己啓発本の一種を読んでいるような気分になってきた。


【第3章 重要な取引は何か?】


 ここで言う取引とは、人間が二人以上でなくても成り立つものを指すのだろう。

 例えば、ディザスタームービーであれば、襲ってくる災害をねじ伏せて危地を脱するのか、犠牲者を差し出してそのシーンから脱出するのかといった。

 前提として、なにかの対立構造があるというこのになるのか。


『この法則に従うことで、うまくいっているシーンと、間延びしているシーンの見分けが可能』


 たしかに小説でも変化のない退屈なシーンが続くと、結論はなんなんだと読み飛ばすことが多々ある。


【第4章 観客との契約】


『感覚的なものが重要。官能、本能、スピード、動き、恐怖など』


 契約とは、上映時間中に観客に絶え間なく何らかの刺激を与えることと言えるようだ。

 つまり、各シーンについて取引が成立しているか?ということなのだろう。

 

【第5章 両極の対立】


 最初にこの章の名前をみたときに、よくある刑事ものの凸凹コンビを思い起こした。

 しかし、以下のように書かれているところを見るともう少し広い概念を含むようだ。


 『対立した勢力を置き、…対立が解消するまで戦わせる。』


 戦いとは、軍事力などによる戦いに限らず、哲学、考え方、影響力、いろいろなものを含むようだ。

 スパイダーマンとかスーパーマンとかは、単純な対立の図式だと思う。


 なろう小説でいえば、主人公と主人公を追い出したリーダーということになる。

 その手の小説が、主人公とリーダーとの対立が解消、すなわち主人公側の勝利になった途端に失速する理由はこのあたりにありそうだな。

 

 物語の一番最初で呈示された対立関係が、主人公の勝利で終わったなら、物語は終息に向かう。

 物語を続けるには新たな対立関係を提示する必要がある。

 しかし、テンプレート通りにしか書けない書き手は、新たな対立関係を魅力的に書くことができない。

 そしてチートして勝ちハーレムにメンバーが増えたという、ハムスターの回し車のような日常話が延々続く。

 人気が落ちて、書き手は物語を放棄する。


 もし、主人公とリーダーの対立から新たな何かが生み出されたなら物語は続くことになる。

 しかし、それはテンプレート化されていないため、凡百の書き手が能くするところではないようだ。


 実際のところ両極の対立とそれに伴うストーリー展開をオリジナルで考えようとするとかなり難しい。

 逆に言うと、ストーリーの基本枠組みの設計ができたら、あとは細部をデコレーションしていくだけということになる。


 凡才には、物語の構造の研究が大切なようだ。

 物語を構成する道具をたくさん準備し、選択肢化できれば、選択・検証・修正・決定のサイクルを何度も回すことである程度のところまではいけるやもしれん。

 ただし、ある程度のところまでだろう。

 0を1にする天才性がなければ、年齢でリタイアするところまでに、飽きられてしまいそうだ。

 対策としては、絶え間なく研究し、新たな時代に適応すべくバージョンアップすることで、食ってはいけるかもしれない。

 あるいは、努力で三谷幸喜や宮藤官九郎のようになれたりするだろうか?


【第6章 すべては覚書から始まった】


 本書の物語作成理論の原型は、ハリウッドの映画製作会社の役員に配布された覚書だったとのこと。

 そして、誰もがそれを見たがったそうだ。

 清書されて綺麗にわかりやすく整理されたものよりも、覚書を見たがったとのこと。

 その気持ちはわかる。

 より原型に近いものにこそ熱意や情熱、ニュアンスが残っていると思うからだ。


 『世界の英雄伝説の基本は、貴種流離譚の原理にしたがったストーリーになっている。』


 なろう小説の転生チートものも、貴種流離譚の一種だな。

 現実世界で「卑しかった者」が、異世界に移動することで「貴い者」へと変異する。

 その「貴い者」は、異世界で出世して承認欲求を満たされつつ末永く幸せに暮らす。


 転生チートものの対立構造は、「持つもの」と「持たざるもの」、「既に承認欲求が満たされた者」と「承認欲求が満たされていない者」ともいえる。

 そして、この二者の戦いは、立場の逆転という結末を迎える。

 トランプカードゲームの「大富豪」における「革命」のようなものだ。

 「革命」により、カードのもつ価値が逆転し、「卑しいカード」が「貴いカード」へと、「貴いカード」が「卑しいカード」へと変わる。

 この「革命」という点は、神話の貴種流離譚にはない要素だろう。


 なぜ、転生チートものが嫌われるのだろう?

 皆がその話を好きすぎて、集団全体が同一の嗜好をもつ薄気味悪さを感じるせいだろうか?

 あるいは、格差社会への怨恨といった病的なものを感じるためか?

 はたまた、何ら努力することなく、単に権力者(神)に引き立ててもらうことで、貴き者になろうとする浅ましさを感じるためか?


 よくよく考えてみると、現実世界で大政治家とたまたま知り合いになり、引き立てられて、借り物の権力を振り回してトントン拍子で出世するのと何が違うのか?

 現実世界が異世界に変わり、大政治家が神に、権力が能力へ変わっただけで、ストーリー構造上はほぼ同じではないか? 

 ただ、読者が罪悪感を感じないように、キレイに漂白した舞台で、気軽に感情移入できるようにしたということではないか。


 うーむ、これ以上深く考えると精神衛生上よろしくないようだ。

It's not my business.


 本の内容から大幅脱線した、読み進めよう。


 『キャンベル著の千の顔をもつ英雄』


 英雄譚を書くための基本書らしい。

 もし小説を書く気になったら読んでみよう。

 上下巻に分かれていて、かなりボリュームがありそう。


 『ヒーローズ・ジャーニーの概略』


 これが覚書であったもの。なるほど、これは素晴らしい。

 英雄譚の本質的な構造が簡明な言葉で表現されている。

 読んでいるうちに自分でもかけそうな気がしてくる。

 なろう小説の異世界チートものや追放物は、表面的なテンプレートに過ぎない。

 ここでは、より本質的なテンプレートが示されていることがわかる。

 実に興味深い。

 英雄譚の小説を書こうと思いつつ、この覚書を読んでないなんて、自動車学校に通わずに自動車を運転しようとするようなものだ。


【第7章 英雄の内面的な旅路】


 『優れた物語は外面的な旅と内面的な旅の二重構造をなす』


 そうか、無職転生が面白かったのは内面的な旅が描かれていたからだな。

 その後に読んだ類似の物語が、まったくピンとこないのは、外面的な旅の様子が模倣されているだけで内面的な旅の魅力に欠けているせいか。

 たしかに、表面的な行動の描写は、気付きやすく真似しやすいが、内面的成長の定型化や模倣は難しい。

 というか、外面、内面ともコピーしてしまうと、オリジナルからずらすことが難しくて全く同じ物語になってしまう。


 追記:加藤良介氏のエッセイを読んだ。

 氏によると、なろう小説の主人公は内面の成長をしないキャラとして描かれているとのこと。

 もし、そうであるならば、ゲームの主人公としてはありでも、アニメや映画の主人公には不適だ。

 書籍化どまりで、メディアミックス展開は難しいと思う。


 『観客が本当に見たいのは心の旅』


 たしかにそうかもしれない。

 昔読んで気に入り、今でも覚えている小説はそうした要素が含まれている。

 ロードス島戦記や卵王子カイルロッドの冒険など。


【第10章 キャラクターの代数方程式】


 キャラクタは、4つの変数からなる代数方程式の総和として示されている。

 ロードス島戦記のパーンであれば、このような感じだろうか?


 求めるもの 正義の実現により父の汚名を晴らし、名誉を回復すること

 動き    旅に出る

 障害    マーモ軍

 選択    マーモ軍のバックにいるカーラを倒す


 はっきりとストーリーを覚えていないので、当初動機と最終的な動きが混じっているかもしれん。

 そしてスレイン、ギム、エト、ウッドチャック、ディードリットにもそれぞれこの4つが設定されていることになる。


 『テオプラストスのキャラクター類型』


 2300年前の作家により作成されたキャラクターの性格リスト。 

 30種類の性格上の欠点がリスト化されている。

 このリストを持たずに、キャラクタ造形すると、天才でもない限りせいぜい5種類ぐらいしか思いつきそうにない。

 そうした意味で素晴らしいリストである。


【第11章 シノプシスとログライン】


 シノプシスとは、シナリオを数枚のペーパーにまとめた要約文。

 ログラインとは、なろう小説の長文タイトルのようなもの。


 映画会社の幹部は、読み役にまとめさせたログラインとシノプシスを読んで、そのシナリオの商業価値を判断するとのこと。

 小説家になろうで長文タイトルが並んでいるのは、映画会社の管理台帳に記録されたログラインのリストと同じようなものかもしれない。


 伊坂幸太郎原作のハリウッド映画「バレット・トレイン」が公開された。

 原作はマリアビートルという小説らしいが、やはりマリアビートルのシノプシスとログラインも映画会社の幹部へ提出されたのだろう。


【読後感】


 論理的にストーリーを作成する手法を理解することができた。

 本書を読む前に考えたAIを使って、お手軽にかけるかという疑問については、極めて難しいという結論になった。

 なんのことはない、魅力的なストーリーや登場人物を考えることほど難しいことはない。


 もし、小説を書くとするなら、本書に従って10作程度の著名作品を分析してすることで、ストーリーテラーとして技量があがりそうだ。一方で、大学の映画関係の学科で勉強されるだけあって、本気でやろうとすると、難関資格を取る並みの時間がかかりそうである。

 気まぐれでやるには、ハードルがかなり高い。


 方法論を知ったからといって一朝一夕にできるものではない。

 知っていることと、できることは違うことの実例の一つだろう。


 この本を読んでしまうと、この本を読むことなく小説を書こうなんて、これっぽっちも考えたくない。

 物語を書く人にとっては、値千金の本であると思う。


 我流で書いている素人作家さんで、行き詰まりを感じている人にはお勧めできる本である。


以上

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