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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

もどかしい

 





 どこか間抜けな音のチャイムが昼休みを告げた。


 授業を無理やり切り上げて終わらせた先生が、さっさと教室を出て行く。

 それを横目で見ながら、俺は机の脇にかけていた鞄を机の上に引きずり上げて弁当箱を手に取った。


 チャイムがなって、5秒。

 もうそろそろ、俺を呼びにあいつが来る。



正樹(まさき)ーー!ご飯、食べよー!!」




 そう思った瞬間、隣のクラスのアキが勢いよく教室に飛び込んできた。

 ピシャンッと大きな音を立ててドアが開かれて、ドアに近い席の生徒の肩が跳ねる。

 毎日のこととは言え喧しい。



 アキ___葉山 秋芳は、俺の小学校の頃からの友人だ。


 小学校のころは、小さな学校だったのにあまり話したことがなかった。偶然、遠足で一緒になって飯に誘ったくらい。

 中学に上がると同じ小学校の奴が少なくて、声をかけたらすぐ仲良くなった。

 そして軽い気持ちで『同じ高校行かないか?』って言ったら、今年本当に同じ高校に入学して。


 そしてアキはなぜか、日をますごとに俺に懐いてきている。




「おー・・・・・・。アキ、相変わらず早いな。」


「えー、だって・・・・。俺が来る前に、正樹が他の奴と飯行っちゃったらって思ったら、俺・・・・・・・・・!」



 大丈夫。

 お前が俺のことを毎日派手に誘いに来るのは、もうクラス中どころか学校中が知ってるから。

 そんな俺を、お前を押しのけてまでわざわざ誘うような奴はいない。


 今までにそう何度も言ったけど、なぜかアキは理解できないみたいだ。

 俺はそれを説明するのももはや面倒で、適当に聞かなかったことにして流す。



「今日、どこで飯食う?」


「あ、えと、正樹に合わせるよ!」



 席から立ち上がって放った俺の言葉に、アキは嬉しそうにでも恥ずかしそうに、俺の顔をちらちら覗き込む。

 照れたようなその仕草は可愛くって、それだけ見たら乙女みたいだ。



 ・・・・・・・・・・・でも、アキは乙女じゃない。


 それどころか、俺よりずっと高いすらりとした体に、ちょっとキツそうだけど整った顔立ち。

 髪はツンツン跳ね散らかされている灰がかった金髪。

 耳どころか唇にも眉にまでピアスが光っていて。

 肌はにきび一つなくて綺麗なのに、あっちこっちに擦れたような喧嘩の痕がある。

 はっきり言って、アキはどこから見ても不良だ。


 中学の頃からかなり素行不良だったけど、高校に入ってますます磨きがかかったようで。

 顔がいいせいもあってか、高校生とは思えない迫力がある。



「外、気持ち良さそうだけど・・・・・・アキ、飯持ってきてないんだろ?食堂行こうよ。」



 アキはいつも基本手ぶら。

 弁当を持ってきてないだけじゃなくて、学校に鞄も持ってきていない。


 なので食堂に行こうと促すと、アキは慌てて俺の腕を引いた。



「大丈夫!外、行こうよ!!・・・・・・・・飯なら誰かに購買から買ってこさせるし。」



 そう言ってアキがちらっと教室の外に視線を流すと、その先にはまるで控えてるみたいに柄の悪い生徒が数名立っていた。


 おい、ちょっと待て。

 明らかに今、パシらせようとしただろ。

 俺の気分に合わせるためにあんな人たちを使ったら、俺が怖いっての。

 っていうか飯ぐらい自分で買いに行こうよ。


 どこから突っ込めばいいかと迷ったけど、アキにそういった類の”常識”が通用しないのは学習済みだ。


 アキは俺には温厚で優しい友人なのに、他の人間にはあんまりその優しさを向けない。というかかなり冷たい。

 中学の頃は少しだけど共通の友達とかいたはずなのに。

 高校に入ってからは俺以外は基本的に手下か敵か、みたいな扱いだ。



「や、・・・・・・・・・・購買じゃあパンしか売ってないじゃん。アキ最近パンばっかりだろ?体に悪いし、学食行こー。」


「ま、正樹っ、・・・・・・・俺のことを思って・・・・・優しい!!」



 まるで健康の心配をするかのような俺の言葉に、アキは頬を染めながらコクコクと頷いた。


 穏便に。あくまで穏便に自分の主張をするのは、俺にとっては自衛手段だ。

 俺のためにアキが何かして、他の怖い人たちに恨まれるのは嫌だ。

 かといって他の人を優先すると、アキが不機嫌になる。

 不機嫌なアキは結局 他の不良の人たち相手に憂さ晴らしをするから、また俺が恨まれる可能性がでてくる。


 だから穏便に、アキが納得するように物事を進めるのが一番平和的な解決方法だ。主に俺にとって。



「さっさと行こうぜ。席なくなるし。」


「うん!あ、でももし席なかったら、俺がどいてくれるように”お願い”するから大丈夫だよ。」



 へらり、とアキが笑って言う。


 お前の”お願い”は脅迫って言うんだ。

 そう思いつつも、頬を染めて軽い足取りで歩くアキと連れ立って食堂まで歩く。


 いつもは凶悪そうにつり上がっている眦も、今は幸せそうに垂れていて。

 そのあからさまな態度に、なんで俺なんだろうな、と改めて思った。



 そう。


 この見た目は不良、中身は清純、っていう変な男は俺に惚れているらしい。

 らしいって付くのは、こいつはあからさまな態度を示すわりには、俺に一向に想いを告げてこないから。


 俺だって最初のころは勘違いだ、考えすぎだ、と自分を誤魔化していた。

 それでも・・・・・・・日々エスカレートするアキの言動に、さすがに俺も疑惑を否定しきれなくなってしまった。



 本当に、なんで俺なんだろう。


 まず第一に俺は男だ。

 そしてアキは顔がいいからモテる。


 それなのにアキは、平凡で頭も良くなくて、ついでに言うと運動神経も良くない俺ばかりを構う。

 地味で突出したことがない俺のどこを好きになったのかは、全く不明だ。


 せいぜい特別と言えるのは、小中高とかれこれ10年近く傍にいるっていうことだけなのに。



「・・・・・・・正樹?何考えてるの・・・・?」


「え?あー・・・・・・、なんでもない。」


「ふーん・・・・・・・・?」



 見た目は完璧に不良なアキ。


 服装も髪型も完全に校則違反。

 授業態度も最悪だって聞くけど、先生たちも注意できない。

 さらに怖い先輩をしめたとか、どこぞのチームを潰したとか。


 でも噂と違って俺の知っているアキは優しくて、そしてこれ以上ないくらい・・・・・・・・臆病だ。


 クラスの友達なんかからは『怖くない?』ってよく聞かれるけど、俺と一緒にいるときには暴力的なところなんてカケラもない。


 でかい体していつも俺の様子をちらちら伺って。

 告白してこないのも、実は勇気がでないだけってのも知ってる。



「何でもないならいいけどさー。せっかく一緒にいられる時くらいは、俺のこと考えて欲しいなぁ・・・・なんて。」



 アキがちょっと唇を突き出して俺の袖口をひっぱった。

 拗ねた子供みたいな顔だ。


 他の人には強気なのに、俺の前だと弱気なアキ。

 今だって本当は手をつなぎたいのに、振り払われるのが怖くてできないんだ。


 いつだって臆病で照れ屋で乙女で恥ずかしがり屋。


 ・・・・・・・だから本当は、僕だって手を繋ぎたいのに気がつかない。



「アキみたいな人を好きにならないはずがないのになぁ・・・・・・・・」



 アキに聞こえたいほどの小声でそう呟いた。


 俺はアキが望むなら、すぐにだって付き合う。

 一途で優しくて誰よりも大切にしてくれる彼を、どうしたら嫌いになんてなれるだろうか。


 最初に好きになったのは彼からだろうけど、その熱に引きずられるように俺だって彼に惚れてしまっているんだ。



 ……でも小学校のときも中学のときも、それから高校に入るときも、俺から『一緒がいい』って告げたんだから。


 告白くらいはアキからして欲しい。


 バカなわがままだって分ってるけど。

 でもいつも強引なくせに臆病で受身なアキに、安心させて欲しいから。


 だから俺は今日も、袖口を弱くひっぱられながら食堂へ向かう。

 いつかアキが、堂々と俺の手を握り締めてくれる日を待ちながら。










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