表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
茫漠の太陽   作者: 海善紙葉
第一章 魂花貫羅(たまかづら)
3/6

道連れ

 眼下に拡がる茫漠ぼうばくとして当てのない未踏の地を、小高い丘の上から眺めた呉延生(えんせい)は、ため息すら出なかった。

「……志明しめい、おまえが造った地図では、あの先に村があるのだな」

「うん、そうだよ」

「どういう種族が棲んでいるのだ?」

「そこまではわかんない……妖術を使うらしいけど」

 趙志明は淡々と答える。


 ……出立前、この二人は、誓約を交している。二十三歳の趙志明は、五、六歳の童子姿のとおり、童子に徹すること。十七歳の呉延生(えんせい)の正体、すなわち女人であることを秘しつつ、実兄のごとく接すること。司馬様とも呼ばす、“あんちゃん”と呼ぶこと。一方、呉延生(えんせい)は、歳上のこの《《童子》》に敬語も一切使わず、実弟のごとく扱うこと。夜寝るときも《《仲良く》》躰を横たえ、互いに未知の敵からあい護り合うこと……。

 この誓約に従い、いまの二人はどこからどう見ても、《《歳の離れた》》兄弟にしか見えない。


 ……それにしても、世にも珍しい陣立てであった。

 馬戦車ばせんしゃが二騎(台、とは呼ばない。あくまでも戦闘を想定した巨大なる馬、の意を込めて、“”という)、一騎には呉延生(えんせい)が乗っている。幕舎の役割を兼ね、そこは延生の居住空間でもあった。

 昼夜を問わず、舎内に出入りできるのは、志明ただ一人いちにんだけである。


 もう一騎の馬車には食糧と水、武具、組立式天幕一式、連絡用の伝書(とび)……などが収納されている。

 総勢五十余人の護衛隊長は、ぼうしん。若くはない。すでにこの時代、武人としての致仕ちし年齢の五十を超えている……といった噂さえある。

 かれは、元、盗賊の一味である。

 帝都の富貴者の蔵を狙った〈黒炎(ほう)〉と名乗る盗賊に加わったのが八歳の頃。あらゆる剣技と盗技を独習しつつ、十八にして副瓠主(ほうしゅ)となった。のちに、趙大将軍に破れ捕虜となり、趙家の家僕となる……そういう一風変わった経歴を持つ。


 後方支援隊長は、孤担こたんえんといった。

 総勢約二百。先行する延生えんせいの馬車から離れること、およそ三里。

 ……狐担こたん家は、代々、呉家の家宰かさいを務める家系で、すなわち呉延生(えんせい)に対しては《《本能的に》》信を置いている一族のすえである。

 かれは三十三歳。呉家の従軍子女をたば ねる者として、帝都を離れるとき別働隊としてりすぐりの剣人けんじん、薬草錬磨師、鍛冶精製師などをともなってきた。こたびの延生えんせいの陰の軍師ともいっていい。


 ちなみに、趙家と縁の深い肪辛ぼうしんは、童子が二十歳を越えていることは知っているが、呉延生(えんせい)の実体は知らない。

 呉家の一族ともいえる狐担焔こたんえんは、主人である延生えんせいが実は女人であることも、女人として育てられた呉家の秘密も知ってはいるが口外することはないし、童子の趙志明の本当の年齢は延生えんせいから聴かされてはいない。

 なぜなら、成功するかもしないかも判然とはしない、困難な旅には余計な情報は不要であり、“知ってしまったがために”おかしてしまうかもしれない判断遅滞や思念にさおさす誤謬ごびゅうを、延生えんせい危惧きぐしたためであった……。




 ※註︰この物語の、里程表示は、1里≒1.8km。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ