序章——夢を待つ人、追いかける人
数年前、眠りから醒めなくなる病が発見された。
その病人を外部から観察すると眠ったままでいかなる刺激にも反応しない。心臓も、肺も、臓器の殆どがその機能を止める。生きているわけでも死んでいるわけでもない。
詳しい検査をしてみるとどうやら脳だけは活発に動いている。
偉い人は言う。おそらく夢を見ているのだろう。
だからその病は夢見病と名付けられた。
夢見病の発生経緯は不明。原因も不明。感染経路も、そもそも感染するのかどうかも不明。突然、誰かに選ばれたように病に罹る。
ある人は言った。「これは病ではなく、神による人類の救済措置なのだ」と。
少しして。ある人々に突然超能力が与えられた。
他人の夢に入る能力。それだけ。些細な能力。
能力者は悟る。これは夢見病を治す能力なのだろう、と。
だから彼らは今日も夢の中を彷徨うのだ。
目覚める時はいつも苦しい。
また一日が始まってしまう。
楽しくも辛くもない、普通の日々が始まってしまう。
そんな気持ちに襲われてしまうから。
カーテンを開けるより先にテレビを付ける。
ニュースが流れる。
誰が汚職したとか、誰が結婚したとか、なんとか。
そんなどうでもよいニュース——いや、自分にとってどうでもよいだけで、他の人にとっては重要なニュースなのだろう。
画面から目を逸らそうとして、ふと止まる。
映っていたのは芸能人が自殺したというニュースであった。
別にその芸能人のファンではない。自殺という点に目が止まったのだ。
羨ましい。
そんなことを思う。
私だって別に生きたくて生きているわけではない。
だからといって自ら死を選ぶほどの度胸は無い。
どっちつかず。
そんな自分に嫌気がさす。
私はいつまで生きれば良いのだろうか。
ふう。
ため息ひとつ。
——私の記憶は、そこで途切れていた。