悪魔と林檎の殺意
【問題】
A、B、Cの3人が悪魔に捕らえられました。
3人はそれぞれ隣接する別々の檻に閉じ込められています(ただし、自分以外の檻の中を見ることはできないものとします)。
3人の檻の中には、それぞれ1個〜9個の林檎が置かれています。自分の檻の林檎の数について他の2人に伝えることは禁止されています。
3人の檻の中に置かれている林檎の数はすべてバラバラであり、そのことは3人に知らされています。
3人が檻から出られる条件は、3人のうち誰かが3人の檻の中にある林檎の合計数を回答することです。ただし、回答権は全員で合わせて1度きりであり、間違った答えを言ってしまえば、その時点で3人は処刑されてしまいます。
檻の外には悪魔が1人いて、1人につき1回のみ、悪魔に「はい」か「いいえ」で答えられる質問をすることが許されています。悪魔はその質問に対し、真実のみを答えます。
まずAが、悪魔に対し「林檎の合計数は偶数ですか?」と質問したところ、悪魔は「いいえ」と回答しました。
次にBが、悪魔に対し「林檎の合計数は素数ですか?」と質問したところ、悪魔は「いいえ」と回答しました。
Cの檻の中に林檎が5つある場合、Cはどのような質問を悪魔にすればよいでしょうか。
3人の命運は、Cの手に握られていた。
AとBはすでに質問を終えており、これ以上悪魔に質問をすることはできない。
とはいえ、AとBの質問だけではまだ林檎の合計数を特定するまでには至っていない。
A、B、Cは大学のパズルサークルの仲間であった。
日頃、世界中のパズルを研究したり、自ら作ったパズルをお互いに出し合ったりすることによって、パズルを解く能力を養っている仲間なのである。
そんな3人がなぜ悪魔に捕らえられてしまったのかというと、それはCのせいである。
Cがサークルの部室で、興味本位で、紙に六芒星を描き、悪魔降臨の儀式を始めたのだ。AとBは、またCが下らないことをしている、と笑いながら見ていたが、予想外なことにCの儀式は成功し、本物の悪魔が召喚されてしまったのである。
悪魔は召喚されるやいなや、3人を異世界へと誘拐し、檻の中に閉じ込めたのだ。
今回、悪魔が出題したこのパズルは、新作なのか、はたまた悪魔のオリジナルなのかは分からないが、少なくともAが知っているものではなかった。
しかし、Aは、自らの命が懸かった大一番で、頭を捻り、最良の質問をしたつもりである。
Bの質問も同様で、この場面での最良の質問と言えるだろう。
それぞれの檻の中の林檎の数は、その檻の中に入っている者以外分からないとはいえ、答えの可能性が無限にあるのかといえば、それは違う。
部屋に置かれている林檎の数は、1〜9個、つまり最小で1個、最大で9個なのである。さらに、それぞれの部屋に置かれている林檎の数はすべてバラバラなのだ。
とすると、林檎の合計数の最小値は6(1+2+3)であり、林檎の合計数の最大値は24(7+8+9)となる。
そして、Aの質問より、林檎の合計数が奇数であることが確認された。
すなわち、林檎の合計数は〔7、9、11、13、15、17、19、21、23〕のいずれかであることが確定したのである。
さらに、Bの質問より、林檎の合計数が素数でないことが確認された。
すなわち、林檎の合計数は〔9、15、21〕の3パターンにまで絞れているのである。
Cが行うべき質問は決まっている。
「林檎の合計数は15ですか?」である。
仮に合計数が15であれば、悪魔は「はい」と答えるため、その時点で宣言すべき答えが確定する。
他方、悪魔が「いいえ」と答えた場合には、消去法により、林檎の合計数は9か21ということになる。
林檎の合計数が9である場合の林檎の数の組み合わせは、〔1、2、6〕〔1、3、5〕〔2、3、4〕の3パターンに限られる。
他方、林檎の合計数が21である場合の林檎の組み合わせは、〔4、8、9〕〔5、7、9〕〔6、7、8〕の3パターンに限られる。
仮に合計数が9の場合には、林檎の数が1か2の者が必ずおり、かつ、林檎の数が1か2の者は林檎の合計数が21の場合にはいない。
他方で合計数が21の場合には林檎の数が8か9の者が必ずおり、かつ、林檎の数が8か9の者は林檎の合計数が9の場合にはいない。
そこで、林檎の数が1か2の者が「9」と、林檎の数が8か9の者が「21」と答えを宣言すれば、このゲームには勝てるのである。
Cは突拍子もない行動が目立つ面もあるが、パズルサークルの中では最もIQが高い。
Cであれば必ずAとBのアシストを生かし、「林檎の合計数は15ですか?」と質問するはずである。
――しかし、Aの期待は見事に打ち砕かれた。
Cが悪魔にした質問は、
「檻の中にある林檎は美味しいですか?」
だったのである。
悪魔はさぞかし愉快そうにキャッキャと笑いながら、
「はい」
と回答した。
「な……なぜだ!!?」
思わず飛び出したAの質問に、悪魔は、
「質問は1度きりだぜ」
と釘を刺す。
もっとも、唇を噛むAの姿を見た悪魔は、「特別に教えてやるよ」と言って、驚くべき種明かしを始めた。
「実はお前らがCだと思っている奴は、本物のCじゃないんだ。Cに化けた悪魔なんだよ」
「……Cが突然悪魔降臨の儀式を始めたのはそのためか……」
「そうだ。Cに化けた悪魔は、お前らを誘拐し、檻に閉じ込めるために、俺を現世に呼び出したんだよ。お前らは俺らが仕掛けた罠にまんまと引っかかったわけだ。そして、今お前らが挑んでいるのは、お前らに勝ち目のないパズルなんだよ」
「そんなのズルい!!」
今まで黙っていたBがヒステリックに叫ぶ。
Bはパズルサークルで唯一の女性である。
「ああ。たしかにズルいかもな。でも、残念ながら、俺は悪魔なんだ。悪魔に誠実さを求めちゃいけないよ」
悪魔はBの檻の目の前に来ると、Bに向かってベロベロバーをした。
Bのむせび泣く声が聞こえる。
その声を聞いてさらに愉快になった悪魔は、Bの檻の前にとどまり、Bにちょっかいを出していた。
たしかに悪魔の言うとおり、C(に化けた悪魔)が質問権を放棄したことにより、AとBが論理的に確実に勝つ方法はなくなった。
もっとも、勝てる可能性がなくなったわけではない。
Aの檻の中には、林檎が9つある。
ということは、答えが9である可能性はなく、答えは15か21のどちらかなのである。
Aがこの場で15か21のどちらかを適当に宣言したとしても、50%の可能性でAとBは檻から解放される。
他方、同じく50%の可能性で、AとBは処刑される。
50%の確率に身を委ねるのはあまりにも危険だ。
なんとかして答えを15か21のいずれかに特定することはできないだろうか。
悪魔にいじめられて号泣しているBを頼ることはできない。
Aが知恵を使うことにより、この最悪の状況を切り抜けるしかない。
答えを15か21のいずれかに特定することは、このパズルの特性上無理だろう。
発想を逆転させるんだ。答えを特定するのではない。
答えの方をなんとかするのだ……
――閃いた。
Aは悪魔がBに気を取られている隙に、大急ぎでそれを実行に移す。
そして、悪魔が檻の中のAの様子を確認する前にそれを完了させると、Aは大声で宣言した。
「答えは15だ!!」
しばしの静寂の後、悪魔は高らかに笑った。
「ハハハハハ。A、残念だったな。俺が檻に入れた林檎の合計数は21だよ。間違った答えを宣言した罰として、A、Bお前らを処刑するぜ。ハハハハハ」
この悪魔の答えもAにとっては想定の範囲内だった。
「待て悪魔。檻の中の林檎の数は本当に21か?」
「……どういう意味だ?」
「実際に数えてみろよ」
悪魔が怪訝な顔をしながら、Aに言われたとおり、檻の中の林檎の数を数える。
まず、悪魔は、Cの檻の中を確認する。
「Cの檻にある林檎は5つだ」
次に、悪魔は、Bの檻の中を確認する。
「Bの檻の中にある林檎は7つだ」
最後に、Aの檻の中を確認した悪魔は、目を丸くする。
「……3つ……?」
「だろ。林檎の合計数は5+7+3で15だ」
「そんなはずはない!! 俺はたしかにAの檻に林檎を9つ入れたはずだ」
取り乱す悪魔の様子を見て、Aはほくそ笑む。
「記憶違いじゃないか? とにかく、現に檻の中にある林檎は15なんだから、俺たちの勝ちだろ? 約束どおり檻から解放しろよ」
「……くそっ……」
舌打ちする悪魔が、Aが異世界で最後に見た光景となった。
次の瞬間には、AとBはいつもの部室にいて、いつもの席に座って机を囲んでいたのである。
AもBも、今までいた異世界が決して夢の光景ではないと分かっていた。
「ねえ、A君、どうして答えが15だって分かったの? 私にはどうしても答えが15か21か特定することができなかったんだけど」
「別に答えを特定したわけじゃないよ。悪魔の用意した答えが15でも21でも対応できるように、答えの方を操作しただけさ」
「どういうこと?」
「つまり、僕の檻の中には元々林檎が9つあった。そして、僕は悪魔に見つからないように、林檎を6つ、ヘタごと完食したんだ。そうすることによって、悪魔が元々檻に合計21個林檎を置いていた場合には、実際の林檎の合計数は15個になる。悪魔が元々檻に合計15個林檎を置いていた場合には、実際の林檎の合計数は9個になっちゃうけど」
「なるほど!! A君は、答えとして15を宣言することにより、悪魔が元々檻に合計15個林檎を置いていた場合には、檻の林檎の数が減っていることを黙ったままで15という答えに乗っかって、悪魔が元々檻に合計21個の林檎を置いていた場合には、檻の林檎の数が減っていることを悪魔に調べさせて答えを15に変えさせる、という戦略をとったわけね!!」
「そのとおり。僕らが悪魔に檻の林檎の合計数について質問ができるということは、当然、悪魔は自分が元々置いた林檎の数を把握しているということだから、こちらから申告しない限りは回答後にいちいち檻の中を調べることはないだろうと確信していたんだ」
それから、とAは続ける。
「Cに化けた悪魔の質問だけど、実はあれも結構役に立ったね。僕は檻の中にある林檎は食べられないものだと思っていたんだけど、アイツの質問によって、林檎は美味しく食べられるものだということが分かったんだ。実際になかなか美味だったよ。さすがに6個も林檎を平らげるのは苦しくて、しばらく何も胃袋に入りそうにないけどね」
そのとき、部室のドアが開き、本物のCが部屋に入ってきた。
「おい、A、B、お腹空いてないか? どこかに夕飯食べに行こうぜ。俺、もうお腹ぺこぺこで……ん? A、どうして俺のことを睨んでるんだ? 俺が何かしたのか?」




