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5人の海賊の殺意

【問題】

 5人の海賊が、以下の方法で100枚の金貨を山分けすることにしました(なお、5人の海賊は、海賊団での地位が高い順にA、B、C、D、Eといいます。)。


① Aが親分となり、金貨の配分方法の案を出す。

② 半数以上が賛成した場合には、親分が提案した金貨の配分案が採用される。

③ 半数以上が賛成しなかった場合には、親分を殺し、今度はB(次に地位の高い海賊)が親分となり、金貨の配分案を出す。

④ 金貨の配分方法が決定するまで、②〜③を繰り返す。


 海賊たちは、みな合理的であり、考えうる最大の利益が得られない限り、金貨の配分案に賛成しないものとします。


 Aは、自らの配分を最も多くするために、どのような配分案を提案すればよいでしょうか。

挿絵(By みてみん)




 それは命を賭けた究極の知能ゲームだった。


 この海賊団の船長であるAは、副船長のBをはじめとする、円卓を囲んだ部下たちの顔を順に眺めていった。


 彼ら4人は皆、日頃は従順な部下たちであり、Aの言うことにはなんでも従ってくれるが、いざ金貨の配分となれば、話は別である。


 自分が1枚でも多くの金貨を得られるように合理的に行動し、ときには非情な手段だってとるだろう。



――それは自分だって同じである。



 毎日同じ船の上で過ごし、「家族」のような間柄であるからといって、このときばかりは油断することはできない。



 円卓の中央に積まれた100枚の金貨を見つめながら、Aは頭を悩ませる。



 たとえば、A…100、B…0、C…0、D…0、E…0の配分案を提案したとすれば、賛成1(A)、反対4(B、C、D、E)となることは目に見えている。半数以上、すなわち、最低でも自分を除く2人の賛成が必要なのだ。


 そこでたとえば、A…34、B…0、C…0、D…33、E…33という配分案を提案すれば、おそらくは賛成3(A、D、E)、反対2(B、C)となり、配分案自体は成立するだろう。もっとも、Aの取り分はわずか34枚となってしまい、明らかに譲り過ぎている。



 つまり、Aが考えるべきなのは、もっとも安く買収できるのはどの2人なのか、そして、その2人はいくらで買収できるのか、ということである。



 思うに、この山分けゲームにおいて重要なのは、親分が死んだ場合と死なない場合の比較である。配分案が不採用となれば親分が死ぬのだから、親分が死んで人数が減った方が得をすると思えば、子分たちは配分案に反対する。逆に、親分が死んで人数が減った方が損をすると思えば、子分たちは配分案に賛成する。


 ということは、仮に海賊たちが4人、3人、2人、1人と減っていった場合の利益状況を考えることが、このゲームにおいては遠回りのようで近道なのである。



 1人の場合から順に考えていこう。



 1人の場合、生き残っているのはE(親分)のみとなる。E1人の賛成によって配分は決まるから、E…100が配分案として確定する。



 2人の場合、生き残っているのはD(親分)とEになる。Dの賛成によって半数以上の賛成の要件を満たすから、配分はD…100、E…0で確定する。Eは1人の場合(E…100)よりも条件が悪くなるため、配分案に反対してDを殺そうとするが、多数決で負けるのである。



 3人の場合、生き残っているのは、C(親分)、D、Eとなる。このとき、Cは配分を通すためにDかEかを買収しなければならないが、Dを買収することはできない。なぜなら、2人の場合(D…100、E…0)を考えれば明らかなとおり、DはCが死ねば100枚の金貨が手に入るため、決して買収に応じることはないのだ。

 ゆえに、CはEを買収すべきなのだが、その分け前は金貨1枚でよい。なぜなら、仮にCが死んで2人(D…100、E…0)になればEがもらえる金貨は0枚であるため、1枚でも与えればEは得するからである。

 ゆえに、配分は、C…99、D…0、E…1で確定する。



 4人の場合、生き残っているのは、B(親分)、C、D、Eとなる。このとき、Bは誰か1人を買収しなければならないが、3人の場合と同様に考えると、3人の場合の配分はC…99、D…0、E…1となることから、それぞれ買収に必要な金貨はこれに1枚上乗せしたC…100、D…1、E…2となる。つまり、Dを金貨1枚で買収するのがBにとってはもっとも得策である。

 ゆえに、配分は、B…99、C…0、D…1、E…0となる。



 そして、肝心の5人の場合だが、これも3人の場合や4人の場合と同様に考えればよい。4人の場合の配分はB…99、C…0、D…1、E…0となることから、それぞれ買収に必要な金貨はこれに1枚上乗せしたB…100、C…1、D…2、E…1となる。つまり、Aは半数以上の賛成をとるために、CとEを金貨1枚ずつで買収すればいいのだ。

 そのため、Aが提案すべき配分案というのは、A…98、B…0、C…1、D…0、E…1となる。




 Aはニヤリと笑うと、酒でしわがれた渋い声を出す。



「よし、それじゃあ、俺の配分案を提案しよう。俺が98枚、Cが1枚、Eが1枚だ。もちろん、俺自身はこの案に賛成する」


 Aは部下たちの顔を覗き込む。

 賢い部下たちは、Aの提案する配分案を予想していたのか、誰一人として顔色を変えなかった。



「それじゃあ、他の船員たちも賛成反対の意思表示をしよう。俺は反対だ」


 副船長のBが仕切り始める同時に、当然の意思を早々と表明した。



「俺も反対だよ」


 Bと同様に配分ゼロのDも、当然に反対の意を示した。



「俺は賛成だ」


 1枚の金貨にありつけるEが、Aの予想したとおり、配分案に賛成をした。



 これで賛成2、反対2となった。



 配分案の行方を決めるのは、Cとなったが、Cにはすでに1枚の金貨という十分な分け前を与えているため、Cが賛成することは目に見えていた。



「船長、悪いな。俺は反対だ」


 予想外のCの答えに、Aは目を丸くする。



「おい、C、なぜ……? ここは賛成をするのが合理的なはずじゃ……」


「船長、今まで世話になったな。俺には俺の事情があるんだよ」


 Cはポケットから拳銃を取り出すと、至近距離からAの頭を打ち抜いた。



 金貨の山に赤い血が降り掛かった。








「おい、C、どういうことなんだ!? 説明しろよ?」


「なんだよ? 事情って?」


 D、EがCに詰め寄る。



「俺が代わりに説明するよ」


 そう言って立ち上がったのは副船長のBだった。



「船長だったAが死ぬことによって、副船長の俺がこの海賊団の船長になるんだ。これによって俺にもたらされる利益は金貨100枚なんかじゃ替えが効かないね。この船も、お前ら船員たちも、みんな俺のものなんだ」


「だとすると、どうしてCが……?」


「俺が船長になれば、次はCが副船長になるだろ。俺は事前にCと約束したんだ。俺が船長になった暁には、Cにも良い思いをさせてやる、ってな。俺はCを事前に買収していたのさ」


 高らかに笑う新船長Bを、DとEはただ呆然と見ていた。



「まあまあ、そう浮かない顔するなよ。じゃあ、俺が親分となってゲーム再開だ。みんな、円卓に着くんだ」



 全員座ったことを確認するやいなや、新船長Bは配分案を発表した。



「俺が金貨100枚全てもらう。以上。もちろん、俺は俺の案に賛成するぜ」


「全部……? なぜだ……?」


 このゲームのセオリーどおりだとすれば、Bが提案すべき配分案は、B…99、C…0、D…1、E…0であるため、Dが疑問を呈する。



「もちろん、D、お前に1枚も金貨を渡さないためだ。俺は密約に従って、100枚の金貨のうち30枚をCに山分けすることになっている。良い思いをさせてやる、っていうのとは別にな。だから、Cは俺の配分案に賛成するんだ。だから、お前に1枚も金貨を与えなくても、俺の配分案は通るのさ」


 Bが再び高らかに笑う。



「そんなのズルい……。とにかく俺は反対するぜ。Eもだろ?」


「もちろん」


 Bが賛成、EとDが反対したため、キャスティングボートはCに握られた。



 三者の視線を一挙に集めたCが、不敵な笑みをこぼす。



「新船長、悪いな。俺も反対だ」


「……!!?」


 裏で買収していたCに裏切られ、Bは唖然とする。



「C、なぜだ!?? これからの航海において、お前は俺から、100枚の金貨じゃ済まないくらいの莫大な恩恵を得るはずなんだぞ!!??」


「そんなの興味ないね」


 BはCに近寄り、Cの肩を激しく揺さぶる。



「おい!!! 何様のつもりなんだ!!?? 話と違うだろ!!?? 撤回しろ!!!」


「話と違う?? 撤回しろ?? 何言ってんだよ。B、お前は船長の器じゃないんだよ」


「C、お前は俺を殺して、自分が新船長になりたいということなのか!??」


「ああ」


「お前、正気か!!?? 俺が死んでもこれから先ゲームは続くんだぞ?? 親分役のお前を殺して船長の座から引き下ろすために、今度はDとEが結託するかもしれないんだぞ??」


「そんなことはさせないよ。お前と違って、俺には船長の器があるからな」


「……ぐっ……」


 Bがバタリと甲板に倒れる。Bの腹部には、Cの巨大なサーベルが突き刺さっていた。



 あまりの急展開についていけていないEとDに対し、Cはまるで何事もなかったかのように、ゲームの再開を求めた。


 椅子に座ると、Cは滔々と語り出す。



「D、E、正直に言うと、俺は前々からAやBのやり方が気に食わなかった。奴らは自分の地位の高さにかこつけて、部下をこき使い、ひたすら自分の利益を追求していただけなんだ。奴らにとっては部下は単なる道具だったんだよ。俺が船長になった以上は、絶対にそんな統治はしない。俺は、船長として、君たちを守るために全力を尽くすんだ」


 Cは、目の前の金貨の山を、DとEの方に向けて押し出した。



「それじゃあ、俺の配分案を発表するよ。Dに50枚、Eに50枚。俺はゼロだ」







後書きを書くとボロが出るタイプなので、本作では控えてたのですが、少しだけ。


まず、ジャンル別月間ランキング9位に入れてもらえていることを大変感謝します。

今年になって3年ぶりくらいに作家活動を再開し、ミステリーも3作完結させのですが、作者本人の自信とは裏腹にPV数はあまり伸びず、なろうの洗礼を味わっていたところでしたので、本当にありがたいです。


もっとも僕の作品は、なろうの主流とはだいぶ離れているので、PVがたくさんあってその分ブックマークも増えるという構造ではなく、主に、数少ない方が入れてくださる評価に支えられてます。


ですので、この作品を見て少しでも気に入ってくださった方が入れば、ブックマークや評価を積極的に入れてくださるとありがたいです。



あと、本作に関しては普段はしない2つのお願いがあります。


1つは、どの話が面白いと思ったか「◯話目」という一言感想でも良いから教えていただきたいというものです。

本作は連作短編であり、かつ、それぞれの話に個性を持たせているため、一体どの話に反響があったのかということを、今後の方向性を考える上でも知りたいところなのです。


もう1つは、題材にするパズルをご提案いただきたいということです。

実は、今回の「5人の海賊」それから7話目の「シュレーディンガーの猫」は、感想欄でユーザー様からご提案いただいたパズルを題材にしたものでした。

題材にするパズルが尽きると、本作も自動的に完結することとなってしまうので、もしアイデアがある方がいましたら、ご提案いただけるとありがたいです。



以上、作者からのお願いでした。


引き続き本作をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 奴隷とワインの殺意 2進法の納得感と、恋人たちの感情に関しての納得感にがあり読後感が良かった。 [一言] マッチ棒のパズルでなにか。
[良い点] Cがいい船長…… [一言] パズル……ウミガメのスープは……思考ゲームですかね。
[気になる点] >そこでたとえば、A…34、B…33、C…33、D…0、E…0という配分案を この文章が以降の解説と相反しています。 Bは100以上じゃないと賛成しないはずなので
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