プロローグ
「---心臓をお一つくださいませんか?ーーー」
執務室の中で、赤い頭巾の少女は机にもたれかかっている老年男性に問いかける。
「な、何を...いっている」
男は言葉を発することもままならない程、体が恐怖で震えていた。無理もない、
無邪気な表情をした少女の手には、赤い液体が付着したステンレス製のキッチンナイフが握られているし、
少女の足元には、血で染まった死体が転がっているのだから。
おそらくこの状況で、笑顔を保てる人間はいないだろう。
再び少女は問う。
「心臓をください。無ければ肝臓でもいいですよ」
狂気じみた問とは裏腹に、優しい声で話す少女に男は何故かこれまで以上に強い恐怖を感じ、
思わず近くにあったルームランプで思い切り少女を殴りつけた。
「はぁ、はぁ、はぁ、し、死んだか?」
男は荒くなった息を落ち着けながら、倒れた少女の方へ行こうとして、何かグニャっとしたものを踏んずけてしまった。
「ん?何だ..」
その踏んづけた何かを拾い上げようとして...絶句する。
「何..だ...これ..」
それは、心臓だった。
紛れもなく本物の。
よく見てみると、他にも床にたくさん心臓が散らばっている。
すぐに、その場を離れようとしたが
”突然、自分の腹部が切り裂かれた”
「な..が、ああああああああ」
体に焼けるような激痛が走る、
「な....ぜ..」
床に倒れた血塗れの男を見下ろすかのように、少女はそこに立っていた。
少女は瀕死の男を優しい笑顔で見下ろし言う
「ああ...また、やってしまった.. でも、”あなたが私を食べようと”するから悪いんですよ?」
少女はゆっくりと男の方へ近づき、
「代償はちゃんと、払ってもらわないと..ね?」
少女のその手に握られている武器が、ナイフから大きなハサミへと変わっている事に気付いた時には
もう、遅い。
ジョキリと、遠のく自分の意識の最奥で聞こえた音と共に、男の心臓が奪われた。