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序章 約束

好きなものを詰め込んだはずが、主人公が必死すぎてラブとコメの分量がいつも通りになってしまいましたが……よければお付き合いくださいませ。

「絶対、今度は絶対負けない……!」


 頬の擦り傷を力任せに拭いながら、少年が言う。

 その目は言葉の通りにつり上がっているが、目尻は赤く、今にも溢れてしまいそうな涙を堪えるように震えていた。


 その必死な様子を目の前にして、少女は途方に暮れていた。


(泣かせちゃった……)


 訓練用の木剣を腰に戻しながら、申し訳ないような罪悪感を持て余して困惑する。


 目の前の少年とは、今までにも何度か授業で打ち合ったことがある。そして負ける度に、はち切れんばかりに悔しがっては負け惜しみを叫んで去っていくのだ。だからこれも、全く初めてというわけではない。

 けれど今日の悔しがり方は今までで一番だった。


(普通に、話してみたかったんだけど……)


 今までだって、どうにか仲良くなろうと声をかけたりはしたのだが、開始前はつっけんどんに、終了後は親の仇でも見るように睨まれて終わりだった。

 少女が望むような穏やかな会話は、残念ながら一度も成功したことがない。


 他の生徒たちと違い、唯一自分と対等に近く打ち合える子だったから、ずっと興味があったのだけど。


(嫌われちゃった、かなぁ)


 とても残念だと、少女は思う。

 少年は他の男の子たちのように手合わせを嫌がったり、陰でこそこそと噂し合うようなこともしないから。


(怒鳴り声は怖いけど……)


 仲良くできたらと思っていたのに。


 結局、返す言葉を見付けられないまま、少女が自分の爪先を見つめ続けること数分。

 少年の、ずびっ、と鼻を啜るような音がして。


「次こそは絶対! 絶対おれが勝つから! だから!」


 キッ、と音がしそうな勢いで、少年が俯く少女の視界に割り込んできた。涙できらきらした瞳が、すぐ近くから少女を見つめてくる。


「約束しろ! 今度、おれが勝ったら――」


 純粋な涙を飛ばしながら、少年が決死のーーけれど子供同士のささやかな約束を取り付ける。

 それは昨日の焼き直しのような、他愛のない小さな約束であった。明日また、授業が始まって、木剣を握って、向かい合うまでの。




 けれどその約束は、数日後に起きたある事件のために、遂げられることはなかった。



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