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Episode Miracle:2  「想い」ということ

 お母さんからの電話……、

 それは私にとって、とても大切なものでした。

「今までごめんね、咲希」

 お母さんのその一言の謝罪が、私の心を動かしてくれた。私は泣き虫だけど、この時は何故か涙は出ませんでした。

 私はお母さんとの電話を置くと、家を飛び出していました。外はいつの間にか真っ暗になってしました。

 私はひたすら走り続けました。私とお母さんとの今まで停まっていた時間が動き始めた……。それはお母さんが前に進みたいと強く願ったからでした。

 お母さんは電話で、何故あの時から私に強くあたったのか。何故家から出ていったのか語ってくれました。

 でも今の私にとって、理由などどうでもよかった。お母さんは自ら停めてしまった私との時間を、自らの手で再び時計の針に触れて動かした。

 だったら、私もできる。しなくてはいけない!

 私が停めてしまった浩平君との時間……。それを刻む時計の針を、再び動かすことができるのは私自身しかいない。

 だって、私は浩平君のことが、好きだから……、一緒にいたいから!

 浩平君との時間は、私にとってかけがえのないものだから、

 だから……!

「はあ、はあ……」

 私は足を止めた。目の前には、田島がぽっかりと浮かんでいました。



 私は潮が引ききっていない海の中を、懸命に走りました。今日は大潮、これからどんどん潮が引いていく。

 チャンスはこの時しかない!

 私はただそう思いながら田島へと向かいました。

 現在も調査が続いている田島ですが、夜間は秘密弾薬庫近辺以外に人は殆どいない。幸い、私は誰にも見つからず田島に上陸することができました。

 そして私はズブ濡れのまま、あの場所へ向かった……。



「…………」

 そして、あの場所へと着いた。

 誰にも見つからないように、普段通る道から外れてまるで獣道のようなところを走ってきたから、手足には無数の擦り傷や切り傷を作ってしまいました。でも、今は痛みなんか感じなかった。

「まだ、潮が完全に引いていない……」

 私の目の前の場所、それは私の運命の始まった場所……、海美子姫の祠がある秘密の砂浜でした。

 でも今は、その砂浜は見えない。この砂浜は大潮の干潮時にしか姿を現さない幻の砂浜です。依然はこの祠ができた頃はいつも存在していたことでしょう。でも地球温暖化の影響で水位が上昇し、いつしか海の中に沈んでしまいました。

 おそらく海美子姫の祠が忘れ去られてしまったのも、それが原因でしょう。


 私は砂浜へと降り立ちました。まだ完全に潮が引いていないため、膝くらいまで海水に浸かりました。

「…………」

 私は砂浜の奥のほうへと向かいました。目的地はただ一つ、海美子姫の祠……。

 あてなんかありませんでした。行って、どうなるということは判りませんでした。

 ただ、私はそうせずにはいられなかったから……。

 今私がすべきことは、停まってしまった時間を再び動かすこと。そして時間が停まってしまったのは、この田島であり、あの祠なのだから。

 そして砂浜の奥、小さな入り江となっているところに祠は佇んでいました。まるで私が来るのを待っているようにも思えました。


「…………」

 私は朽ちてフジツボだらけとなった祠の屋根に触れてみました。そういえば十年前のあの時も、こうしていたような気がする……。

 あの時もこうして、好きな人を想っていたような気がする。

 でもあの時と、今は違う……。今まで私は自分の運命と奇跡の前に何もできず、ただ泣いていました。いつここにきてしていることは、ただ泣くだけだった……。

 でも、今日は、今日は違う。

 大好きな人と一緒にいたい、前に進んで行きたい!

 その想いを実現するため、再び奇跡を起こすために、私はここにいる。

「お願い……」

 私は祠の屋根に触れる指に、全神経を集中させました。


「あなたは以前、私に一つの奇跡を与えてくれた」


「それは大好きな人の存在を消してしまうというものでしたね」


「奇跡は、人を幸せにしてくれると、誰もがいいます」


「でも、私にとってこの力は、人を不幸にする奇跡です……」


「私はこの奇跡で、ずっと、ずっと泣き続けてきました」


「海美子姫……。あなたは好きな人の存在を消して、その存在を永遠のものにすることで、好きな人と一緒になれたのかもしれない。幸せになれたのかもしれない……」


「でも私にとって、好きな人が私のそばにいれくれないことは、とても耐えられないことなのです。少しでも離れ離れなると、私は壊れてしまいそうになります」


「好きな人が……浩平君がそばにいないと、私……ダメなんです」


「だから、お願い!」


「お願い……、浩平君と一緒にいさせて。浩平君と、一緒に、いたいの……。一緒に前に進んでいくの。だから、だから……」


「……おねがい…………」



 そして私は祠にすがるようにしがみつきました。

 想いを、私の想いを伝えるために……。

 十年前、「好き」という想いが伝わり、浩君の存在を永遠のものとしてしまったのならば……、


 私は伝える。浩平君と一緒にいたいという想いを。


 再び、奇跡を起こすために……。


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