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Episode Summer:7  肝だめし

 ケンの思いつきにより田島へ渡ることとなった俺たち。

 ただ昼間はちょうど満潮の時刻と重なっていたため、とても徒歩で田島へは渡れなかった。

 そこで次の干潮の時刻、つまり夜から田島へと渡り、「肝だめし」をやることになった。

 因みに肝だめしをやろうと言い出してきたのは、当然ケンだった。

 

 そして太陽がすっかり沈んだ夜、

 俺たちは田島へと渡るため砂浜に立つ。

 俺はみんなを見る。

 ケンは揚々、野早兄妹は飄々、のぞみは恐々としている。

 ただ一人、咲希だけは無表情で心持が読めない。

「みんな気をつけてな。特に西側の磯場は危ないから、絶対に近付いちゃ駄目だぞ」

 砂浜まで付き添ってくれた吾郎さんが、俺たちにそう告げる。当然のことながら無人島である田島には外灯はないので真っ暗。下手に動けば笑えない状況に陥ってしまうだろう。まあそれが一番心配なのは言うまでもなくケンなのだが……。

「はい、判ってますって! さあみんな、田島へ向かってレッツゴーッ!」

 ケンは吾郎さんに手を振ると、砂浜から田島へ伸びる路を全力疾走で駆けていった。

 こいつバカだ!

「こら、待てって!」

 俺はケンに向かって叫ぶが、一瞬でもうかなり遠くまで行ってしまった。

「あ、こーへー、追いかけなきゃ!」

 のぞみが暗闇にまぎれて見えなくなってしまったケンの後姿を指す。

「そうだな。じゃ吾郎さん行ってきます。潮が満ちてくる前には帰ってくるんで!」

「おう、気をつけてな!」

 俺たちは吾郎さんに見送られ、田島へとのびる路を進み始めた。

 そして路を進み田島へ辿り着こうとした頃、途中で転んだのか全身砂まみれでうな垂れているケンを発見した。

 こいつ、やっぱりボケ村君だ……。

 

 田島の砂浜に到着してから、肝だめしの概要がケンより発表される。

 まずここにいるメンバーでくじ引きを行い二人一組となる。そして砂浜から島の奥へと進んでいき、中央部にある田島のシンボル巨大サボテンまで行く。そこから外海側の砂浜へと降り、砂浜沿いにスタート地点まで戻ってくるというルートだ。このルート、多少木々が茂ってはいるものの、全体的に見通しが良く道に迷う恐れはないらしい。

「まあルートはこんなもんでしょ!」

 ケンは身体についた砂を払いながら説明する。さっきまで半ベソ状態だったのに。

「うえ〜ん、私もう結婚できなくなっちゃうのかな〜」

 今度はのぞみが半ベソ状態だった。

「お〜い池澤、何肝だめしと違う所で怖がってるんだよ!」

 まあだったら何で来たんだという話だが、のぞみの性格からしてたった一人でお留守番のほうが嫌なんだろうな。

「オホホホ〜」

 急に野早兄妹が揃って笑い出す。

「何だよ、急に笑い出すなよ」

「野島君は鈍いですね、オホホホ〜」

 な、何言ってやがんだ?

「おい浩平、くじ引きするぞ!」

 ケンが俺の方へとやってくる。いつの間に作ったのか、ケンは紙製のくじを持っている。

「浩平から順番に引いてくれ」

 俺は頷き、ケンの拳に握られたくじの一つを掴む。くだらないことでも、くじ引きの瞬間はやっぱり緊張するな。

「じゃ俺、これな」

 俺はケンの拳からくじを一つ引き抜く。そして野早兄妹、咲希、のぞみの順番で次々くじを引いていった。

 俺は自分の引いたくじを見てみる。するとそこには「2」と書かれていた。

「ケン、俺2番だ」

「うん、そのくじに書かれた番号の者同士がペアを組むんだ。んでそれがスタートする順番でもあるからな〜」

 ケンの言葉に、みんな自分の引いたくじとにらめっこ。

「私、3番!」

「俺は1番か」

「1番です〜」

「3番です〜、オホホホ〜」

「2番、です……」

 各々が自分の番号を口に出し、パートナーが誰なのか確認する。

 そして肝だめしのペアと順番が決定する。

 トップバッターはケンと隆。見事に男同士だった。

「な、何で男同士……」

 ケンはまたしてもうな垂れた。合掌……。

 そして次は俺と咲希。まあ無難な線だ。

 最後はのぞみと美奈。こちらは女同士だ。

「よ、よろしくね、美奈ちゃん」

「オホホホ〜」

 俺はまだうな垂れているケンの肩をポンポンと叩く。

「落ち込む気持ちも判るけれど、ちゃっちゃと進めていこうぜ。潮が満ちてきたら帰れなくなるんだからな」

「わ、判ってるよ。しかし、何でよりによって野郎とペアなんか……」

 さっきまではしゃいでいたケンだったが、くじ引きを境にすっかりトーンダウンしてしまった。

 ケンは映画のチケット当ててしまったばっかりに、今年のくじ運全部使っちまったんだな。合掌……。

「ボケ村君、怖がって私に抱きついてきたりしないで下さいね〜」

 隆がオホホホ〜と笑いながらケンに向かって話す。

「んな気色の悪いことするか! つーかボケ村って言うな!」

「オホホホ〜」

「オホホじゃねえ!」

 バカだこいつら……。

「いいから早く行けっての! 時間ねえんだから」

 俺はケンと隆の背中を押した。

「判ってるよ! 行くぞ隆!」

「暗いからって変なことしないで下さいね〜」

「するかっ!」

「オホホホ〜」

 そんなバカなやり取りをしながら、二人は島の奥へと消えていった。

 二人がスタートしてから十五分間隔で、俺と咲希のペア、のぞみと美奈のペアが出発する。

 しばらくの間、俺たちは砂浜で揃って待つこととなる。

「ねえこーへー」

 後ろからのぞみが声をかけてきた。

「こーへー、怖くないの?」

 俺は振り向かなかったが、のぞみの声は震えていたので、また半ベソになっているのだろう。

「別に。田島に何か出るなんて聞いたことねえし」

「でもさ、見るからに何かいそうだよ。奥の方、まるで別世界だよ」

 確かに砂浜から奥へとのびる道は真っ暗闇で何も見えない。もうケンたちの姿は確認できない。

「まあ、大丈夫だって。なあ咲希」

 何だか俺もちょっと不安になってきたぞ……。

 俺は咲希に話を振ってみた。

「…………」

 すると咲希は無反応。

 おいおい……。

「出るの?」

 のぞみが恐る恐る訊ねる。

 すると咲希は静かに口を開く。

「幽霊やお化けの類は、出ません……」

 するとのぞみは安堵の表情を浮かべる。

「でも、一升瓶を抱えて、泣きながら島を彷徨っている智子おばさんは、たまに出ます……」

「…………」

 一同、沈黙……。

 ある意味、幽霊よりもレア……もとい怖いかもしれない。

 誰か、誰か智子おばさんに愛を!


 そんな本当にあった怖い話(?)をしているうちに十五分が過ぎた。

「咲希、俺たちもそろそろ行くか」

「そうですね……」

 そして俺たちは島の奥へとのびる道を進み始める。

「こーへー、気をつけてね」

「ああ、のぞみたちもな!」

 俺は振り返り、のぞみたちに向かって手を振る。

「…………」

 咲希は振り返りもせず、ただ道を進んでいった。


 ……………………

「…………」

「…………」

 俺と咲希は真っ暗な道を進む。

 俺と咲希の足音以外、何も聞こえてこない。

 俺は全然土地勘がないので、最初はビクビクしながら歩いていた。しかしだんだん目が暗闇に慣れてきたので普通に歩くことができるようにまでなった。

 奥へと続く道は当然のことながら整備されていないので、所々悪路になっている。しかし俺たちはズンズン前に進んでいた。

「浩平君、ここ段差、あります」

「そこ、穴があります」

「あの木、前に智子おばさんが、回し蹴りでなぎ倒しました」

 何故なら咲希が先頭に立ち、俺をしっかりナビゲートしてくれていたからだ。

 つーかスゲえな、智子おばさん……。

「咲希、けっこう田島に詳しいんだな」

 俺は先頭を行く咲希の背中に向かって話す。

「はい、よく、来ますから……」

「へぇ、何でまた?」

「それは、秘密です……」

「ああ、そっか」

「はい、そうです……」

 咲希のすごい所は、これで会話が成立してしまうことだ。つーかこんな会話咲希との間ではもう日常茶飯事だし、もう違和感はなくなってしまった。


「よく、来ますから……」


 そういえば春に砂浜で会った時も、咲希は田島にいた。あの時田島で何をやっていたかは、結局聞けずじまいだったな。

 俺は前を進む咲希の横に並んでみる。

「…………」

 ケンが田島へ行こうと言った時、俺はのぞみのことを考えて正直迷っていた。

 でもあの時、咲希が行くと言って席を立った時、俺は田島へ行くことを決めた。大袈裟かもしれないけれど、咲希が行くと言った時、俺も田島へ行かなきゃいけないんだって感じたのだ。

 何故なら、行くと言った時咲希の見せた瞳の色が、あの時と同じだったから。

 悲しみと苦しみを含んだ、どこまでも深い深い瞳だったから。

「なあ咲希、怖くないのか?」

 俺は静かに訊ねる。

「怖く、ないです……」

 咲希は表情を変えずに答える。咲希の視線は俺の方を向くことはなく、前に行ったきりだ。

「ここは私にとって、とても、とても大切な場所ですから……」

「大切な場所?」

 その時、遠くの方で波が弾けるような音が聞こえた。

「えっ?」

 俺は思わず立ち止まり周りを見回す。しかし辺りは真っ暗なので何も判らない。たださっきまで何も聞こえなかったのに、今はかすかに波音が聞こえる。

 俺たちは島の中央部に向かって歩いていたはずなのに、何で波音が聞こえるんだ?

 そういえばさっきから結構歩いているのに今だサボテンに到着しない。田島は小島だ。こんな時間がかかるわけ……、

「ごめんなさい、浩平君……」

 すると咲希がこちらを向いていた。

「さ、咲希? ここは……」

 俺は訳が判らず咲希の方を見る。

「さ、咲希?」

 俺は思わずドキッとした。

 咲希が、咲希の瞳が……、あの時と同じだ。

 今まで幾度となく見てきた、悲しみと苦しみが入り混じった、あの瞳。

「実は、少し、道を、外れさせてもらいました……」

「な、何だって?」

 すると咲希は俺の元へ近付いてくる。

「ごめんなさい、浩平君。ちょっと、大事な話が、あるんです……」

 その時、咲希の表情は、哀しく歪んだように見えた……。


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